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計画実行


 それから俺は“とりあえず大人しく”ボランティアをしていた。

ババァに声をかけられたら相手もするようになったし、その時は“相田真夜”ではなく“佐山有也”として相手をするようにした。

看護婦に聞いていた通り、別れる時には“有也”の口癖だった

「長生きしろよ」

も言うようになった。

 “同情するのは嫌い”それはもちろん今でも変わりはしない。

俺がこうしてババァにしていることは、同情ではない・・。

優しさなんかでもない・・。

これは、俺の“計画”なんだ。

そう・・ここでの退屈な生活を楽しめるように、俺が立てた計画・・。これはまだ始まりに過ぎないんだ。

 しかし、いくら計画とはいえ・・ババァに優しく接している俺を三田のバカが見たら、さすがに驚くだろうな・・。

 俺の前にも何人か少年院を出た奴等がここでボランティアをしていたが、その中でも俺が一番まともらしい。

周りにいるジジィやババァが口にしていた。しかし、俺はその度に頭にきて、つい

 

「俺がまともだったら少年院なんかに入ってねえよっ。俺もそいつらと同じなんだ、わかった口きいてんじゃねえよ!」

そう怒鳴り散らしていた。

“まとも”と言われた事がバカにされているようでとても気分が悪く、腹立たしかった。

所詮俺たちは暴走族で要領も悪いし、真面目ではない。

ここにいることですら、おかしいのかもしれない。ガキはガキで、

 “少年院って何?”

“お兄ちゃんは不良さんなの?”

としか言ってこねえ・・。そいつらに対しては俺は笑って、

 

「ガキは小便して寝てりゃいいんだよ。」

と、言っていた。

 

「クソッ!」

一階フロアにある椅子に座り、煙草を吸った。

この時間が一番落ち着く・・。

いつの間にか2本・・3本と吸っていたその時、三田がやってきて俺の隣に座った。

 

「なっ、どうしてここにいるんだよ。」

 

「一応僕は君の保護官でね、3日に一回位は君に会いに来ないと。」

そういえばそうだった。こいつはいわゆる俺のお守り役だ。

 それにしてもコイツは本当に変わった奴だ。

わざわざ年少を出た奴にボランティアを紹介するなんて・・。

そこまで世話をする奴なんて聞いた事がねえぞ。

・・まあ俺は1回しか年少に入ったことないし、他はどうかはよくわかんねぇけど・・。

とにかく、こんなお人好しは初めてだった。

 

「相変わらず、孤独と共にしているの?」

これは三田の俺に対する口癖だった。

 

「へっ大きなお世話だよ。孤独で結構、大いに結構!正直言ってここはイライラする。“手と手を取り合ってお互いに助け合おうね。”だってよ。やってられねぇよ、こんな所。一人でいたい時にガキ共が集まってくる・・“オニイチャンハ、フリョウダッタノ?”見りゃわかるだろう・・バカバカしい。」

 

「けど、君は佐山のおばあちゃんを、亡くなったお孫さんになりきる事で救っているじゃないか」

三田の一言に一瞬間を置いて、うっすら笑いを浮かべて

 

「そう・・救った・。だが救ったのはババァじゃない、俺は俺自身を救ったんだ。」

サナトリウムという名の牢獄で息苦しかった俺が考え付いた計画。

俺はここにいる人間・・いや世界中の人間が憎かった。

利用出来るものは、利用する。

俺を信用する奴はとことん信用させて、最後に裏切りという爆弾を一つ落としてやる・・俺はその時の相手の顔が見たいんだ。

 三田もそうだ、利用してやる。加賀も・・。

 

「一つ言っておくよ」

三田はそう言って立ち上がった。三田の表情は穏やかだった。

 

「真夜、君は結局孤独に勝つんだよ。」

そう、言い放つとサナトリウムを出て行った。勝手な事ばかり言いやがって・・。

何も知らないくせに・・。ここまでお人好しだと腹が立つ。

 三田が帰ってからしばらくの間、煙草を吸う事で自分のイライラを抑えていた。

ー俺はここに来て何を求めているのだろう・・−

 

「有也・・」

振り返ると、そこにはババァがいた。その手にはたくさんの饅頭があった。

 

「何だよ、ばあちゃん部屋行って寝てろよ」

けれど、ババァはそんな俺の言う事も聞かず横に座ってきた。

そして手に持っていた饅頭をテーブルに置き、その中の一つを取り包み紙をとって俺に差し出した。

 

「ほれ、有也。お前この饅頭が好きだったろ・・お食べ。」

う・・俺は饅頭が大嫌いなんだよ。

餡子が甘くてどうしてもすきになれねぇのに、“食え”と言われても・・。

しかし、ずっとババァはそれを持っていた。

手が震えていてしまいには饅頭を落としてしまった。

“ああこれは食えねぇな”と一瞬ホッとした時だった。ババァは落ちた饅頭を拾って、

 

「ああ、落ちてしまったね。これはばあちゃんが食べるから、有也はこっちの新しいのを食べな」

そう言ってババァは落ちた饅頭を口に入れようとした・・。クソッ!

俺はババァからその饅頭を取り上げて自分の口に押し込んだ。

 

「有也?」

突然の事にババァはキョトンとしていた。

そんなババァに俺はもう一つ饅頭を包み紙から出して、ババァに渡した。

 

「ばあちゃんはこっちの饅頭を食いな」

ババァは饅頭を受け取り、嬉しそうにちぎって食っていた。

ババァは饅頭を食うと、残りの饅頭を俺に渡して自分の部屋に帰っていった。

 ババァの幸せそうな顔を見ると、本当にイライラしてくる・・幸せを早くぶち壊したくなる。

テメェの好きな“有也”はとっくに天国にいるんだとぶちまけたい・・。

計画とはいえ、ババァに優しく接している俺に対しても嫌気がさしてくる。こんな自分はもっとイライラする・・。

 俺はババァから受け取った饅頭を焼却炉に捨てた。

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