女の戦い
気がつくと、もう夜中だった・・・。
店へ行こうと、キーとジャケットを持って廊下を歩いていた時だった。
「真夜?何してるの〜?」
聞き覚えのある声にビクッとしながらも後ろを振り返ると、予想通りやはり“葉山美岬”だった。
どうしてここに?というよりも、何時まで起きているんだよ・・・こいつは。そして、またサラリと人の事呼び捨てにしやがって・・・。俺の方が年上なのですが・・・。
「ねぇ、どこ行くの?どこ行くの?」
パタパタと俺の方に寄って来ると、周りを考えてか小さな声で尋ねてきた。
「トイレだよ、トイレ!わざわざ聞くなよ・・・」
「部屋の中にあるじゃん」
「たまには・・・外のトイレにも行くんだよ」
「バイクのキーとジャケットを持って?はぁ・・・どこまで行くの?」
うっ・・・思わず言葉が詰まってしまった。
「どこだっていいでショ?ほら、さっさと小便して寝な」
外に出て単車に乗ったが、しつこくガキはついてきていた。一体何を考えているのか・・・。
「何ついて来ているんですか?もう遅いから寝ましょうね」
ニッコリ笑いながら言ったが、ガキは首を横に振りながらその場に突っ立っていた。ホント一体何を・・・あぁ一緒に店に行く気っスね。冗談じゃないですよ・・・一応念の為に聞いてみようか・・・。
「もしかして、一緒に行きたいとか思っていませんか?」
俺の言葉にガキは目を輝かせて、大きく頷いた。あぁ、やっぱりね・・・そうだと思いましたよ・・・って感心している場合じゃねぇよ!
「何、言ってんだ!お前は病人なんだ。連れて行ける訳ねぇだろ?お前も頭の中に少〜〜〜しだけ残っている脳でそれ位考えろよ。馬鹿だけど、それ位はわかるでしょ?」
「私、バカだからわかんな〜い!」
あ・・・あぁ言えばこう言う女だな、オイっ。ホントいちいち逆らいやがって・・・。俺は単車にまたがると、ガキの方を見て
「俺は行くからな!部屋に戻るなり、待つなり、死ぬなり勝手にしろ!」
そう言い残すと、単車を走らせた。ガキがただ呆然と立っていたのを、カーブを曲がる時にチラッと見えた。
俺は知らないからな・・・。あの女がどうなろうが・・・。
店のドアを開け、階段を下りていきカウンターでカイから酒を受け取りそのままソファに座ると、カオルがやって来た。以前まではこれが物凄く嫌で嫌でたまらなかったが、昼に会った時からはこいつに対する俺の感情も変わっていった。
「ちょっと〜カオル、テメーこの間真夜にあれだけ嫌がられたクセにまだ懲りてない訳?」
「そうそう!最近アンタ真夜の側にいてウゼーよ」
「あぁ、わかった!この間、真夜にキスされたから有頂天になってるんだ!キモッ」
カオルに俺の取り巻き共が近付いてきた。こいつらも、まぁ俺の彼女ヅラされてウザイって前から思っていたのですが・・・。馬鹿だから気付いていないだろうな。
「こうして見ると、僻みの集まりで・・・バカバカしい」
カイが後ろからグラスと氷を持ってきて呟いた。
「何?僻んでいるわけ?あんたら3人じゃないと、あたしに文句も言えないの?」
おぉ・・・カオルも負けてねぇな。俺はケイゴを手招きし、カイと3人で“女の戦い”を観戦していた。
「何だって!誰に向かって言ってるんだよ!」
「あ?テメーらに決まってんだろ?もしかしてホントにバカじゃねぇの?うわ・・・最悪」
「何だって!この女・・・」
3人の中のリーダー格であるチカがカオルに殴りかかろうとしたので、仕方なくその手を掴んだ。
「真夜ぁ!何で止めるの?」
「お前ら、何か醜いですよ・・・。カオルがそんなに羨ましいなら真夜の側に来たらいいじゃねぇか」
ケイゴの言葉にうんうんと頷いていた俺だったが、俺の側に来たら・・・という所に引っかかりを感じた。やめろよ・・・ウザイのに。
「ダメなんだよ!そう簡単に真夜の側に行ったら。馴れ馴れしくしてもダメなんだから」
チカの言葉に思わずカイが吹き出していた。俺は神様かよ・・・。
「ていうか、お前ら俺の事を呼び捨てにしている時点で、充分馴れ馴れしいですヨ」
すると、3人は思わず顔を赤くしていた。
「・・・あぁ、そう。じゃあ、カオル少し我慢してくれる?」
カオルは頷くと俺から離れ、奥にいるカオルのダチの方へと去っていった。
「ホントおもしろいね、お前の取り巻き共とカオルの女の戦争?お前、いつから神様に昇格したの?」
ケイゴは必死に笑いを堪えていた。そんなケイゴに俺は軽く蹴りを入れた。ったく・・・勝手に人の事でケンカしてんじゃねぇよ。俺が笑い者になるだろうが・・・!
客も帰っていき、店には俺とケイゴとカイが残っていた。
「真夜、まだ“例のヤツ”しているのか?」
「当たり前だろ?俺がそんな簡単にやめる訳ねぇだろ!」
例のヤツというのは、ババァのことだ・・・。以前、俺が2人に全てを話したときにこのことも話した。2人は俺のやる事に口出しはしないと言った。それは当たり前だ・・・止める権利など、2人にはないのだから。
「そして、水原の方はどうなんだ?」
この店の主でもあるカイに尋ねたが、カイはただ首を横に振っていた。その反応に安心したが、不安もあった。
ここに来なくなったのは助かるが、もし本当に他の場所を探しているのなら・・・いつかは、サナトリウムにも・・・。以前はバカにしていたが、よく考えるとあいつの権力は俺が思っている以上に大きいのだ。
「大丈夫だ、そう心配する事はねぇよ」
俺の不安そうな顔を見て、ケイゴは俺の背中を軽く叩いた。そんな2人に俺はただ笑い返す事しか出来なかった。




