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自我の崩壊


 −水原、いろいろ聞いてきたけど、俺もカイも何も知らないって言っておいたから・・ここにも来てないって。一応言っておいたから・・−


 イヤダ・・イヤダ・・・


 −お前、年少出た事、親に言ってなかったのか?・・まぁどういう理由で水原が動き出したか知らないが・・気を付けろよ−


 イヤダ・・イヤダ・・



 気がつくと、俺が着ていた真っ白のシャツはいつの間にか真っ赤に染まっていた。

そう・・また例のクセが出ていた。

もう、ほとんど痛みがない・・ただ大量に赤い液体が流れるだけ・・。

電話を切ったのに、俺の頭の中ではさっきのケイゴの言葉がずっと駆け巡っていた。

その度に・・イライラする。

 俺のシナリオは完璧だったんだ。それなのに、思いもよらない登場人物のせいで、それがだんだん崩れていく。本当に予想外の展開だから・・・

 「イヤダ・・イヤダ・・。誰にも壊させない・・せっかくのシナリオ・・イヤダ・・イヤダ・・」

 カタカタと肩を震わせながら、俺は呟き、再び針で耳を刺していた。イヤダ・・!

 「真夜っ!」

ハッと我に返ると、三田が青ざめた顔で入り口に立っていた。

 「何しているんだ!自分で自分を傷つけるなんて・・血だらけじゃないか・・」

 「うっせーな!離せよ。これは俺の体なんだ。どうしようが勝手だろ!」

必死に止めようとする三田の手を振り解き、再び刺そうとした時だった。

 「えっっ・・・?」

頭がグラッとなり、視界もぼんやりした感じが来るとそのまま倒れてしまった。

 「真夜!しっかりするんだ!」


 ーあぁ・・もうどうでもよくなってきた・・。−


 「真夜!真夜!」

ん・・何か声が聞こえる・・。

 「う・・ん、う・・」

目覚めると、見覚えのない天井、そして三田の姿がそこにあった。

 「真夜!大丈夫か?」

そういえば・・まだ頭がグラグラして気持ち悪い・・。あと左腕もチクチクと・・ん?

 「何じゃこりゃあっ!」

チクチクしていたのは、点滴がしていたからである。そしてよくよく見てみるとここは病室じゃねぇか・・。

 「真夜、君はさっき倒れてしまってここに運ばれたんだよ。原因はわかっているよね?どうしてあんな事・・」

三田は両手で顔を覆っていた。あぁ今日はいつもより加減なしで刺したからな・・。出血多量でバターンときたか。

 「真夜、さっき加賀から聞いたが君、耳を傷付けるの今回が初めてじゃないね。何回も何回も何ヶ所も傷付けてるね・・一体どういう・・」

 「うっせーんだよ!こっちは病人だぜ?大人しくさせてくれよ」

三田が言い終わる前に言い返したが、三田もまた負けてなかった。

 「自分の体を何だと思っているんだ!」

 「俺自身の事なんだ!ほっといてくれよ」

三田に掴まれた腕を振り解き、強引に布団に潜り込んだ。

三田はその布団をめくってまだ何かを言おうとしたが、すぐ落ち着くと

 「真砂さんはどうするんだ?せっかく帰ってくるのに君が待ってあげなくてどうするんだ」

三田の言葉に一瞬動揺してしまった。

真砂・・もうすぐしたら帰国する真砂・・

 しかし、すぐに我に返った。

真砂が俺の元に帰ってくるという保証はあるのか?誰が言ったんだよ・・勝手な事言うなよ。

俺の事何も知らないくせに・・。

 「知った口利くんじゃねぇよ!」

三田に叫ぶと、ベッドから降り部屋から出ようとしたが、点滴がついてうまく走る事も出来ない・・。それに医者から絶対安静だと言われている。

 仕方がないので、三田を追い出すという条件でベッドに戻る事にした。

 真砂の事なんか勝手に話すなよ。何でも真砂・・真砂・・と言えばいいってもんじゃねぇんだよ。腹が立つ・・。

 このサナトリウムにやって来て、あのババァによって“有也”と勘違いされた事によって生み出された俺のシナリオ・・。思わず出来すぎてはいないか?と疑ってしまうくらい順調に進んでいたのに、何かと邪魔が入ったり、思わぬ登場人物が入ったり・・。

俺は自分でもどうしようもない位、我がままだから自分が「これだ」と決めたものが思うようにいかなかったら、すぐにイライラする・・。

 イヤダ・・イヤダ・・これは完璧に仕上げたいんだ。

俺の邪魔をしないで・・。

 しかし、さっきのケイゴの言葉がしつこく頭の中に響いた。

 −水原が訪ねて・・− −水原が訪ねて・・−

一体何の為に・・今更どうして現れたのか・・。

 だが、このサナトリウムまで来ないという事は、三田や加賀は知らせてないという事なんだよな。それには安心していた。

 その時、コンコンとノックと共に加賀が入ってきた。

 「やぁ、さっき目が覚めた時、三田とケンカしたんだってね。うんうんその調子ならもう大丈夫だね」

 いろいろな事が頭を駆け巡りすぎて、加賀に何を言われてももう言い返す気にもなれなかった。ただ、俺の事を放ってほしいと思った。

 しかし、加賀はそれから何も話そうとはせず、ただ椅子に座って俺の腕に付けられていた点滴をずっと見ていた。

 2人とも黙っていたので、ただ時計の秒針が動く音だけが部屋中を響かせていた。

しばらくして、点滴が終了したのを確認すると、加賀は俺の腕から針を抜き、簡単に手当てをすると

 「お大事に」

と、それだけ言い残しその場を去っていった。

いつもの加賀からは考えられないくらい静かだったので、ただ驚くだけだった。

そんなことはすぐにどうでもよくなり、また俺は眠りについてしまった。


 −オレノ ココロガ コワレテクル  ソンナ キガ スル−

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