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偽り

 その夜、俺はまた“DEAD ANGEL”へと向かった。

 「よぉっ、真夜どうしたんだよ?なんかご機嫌ナナメっぽく見えるけど?」

バーテンのカイにそう言われたが、それに答える事もなくただ差し出されたボトルを受け取って、ソファにドカッと座った。そして、ポケットから小さなケースを取り出し、そこから針を1本出すとライターで少し先をあぶり、冷めたのを確認するとすぐにそれを右の耳たぶに刺した。

 貫通したのを確認すると、また刺し・・何度も刺し、そして左も同じ様に刺した。

そんな行動を繰り返している内に、たちまち俺の手や服は血まみれになっていった。

 「ち、ちょっと真夜、何やってんだよ!」

カオルがそう言いながら、俺に近づいてくる。懲りねえ女・・・

 「何年経っても、そのクセは治ってねぇんだな」

濡れたタオルを俺に差し出すと、ケイゴは言った。

黙ってタオルを受け取ると、血を拭き取りケイゴの方を見て頷いた。

 「俺がお前と初めて会った時も、そうだったよな。確か高1の時だったっけ・・。お前がそれやってる時って、物凄くイライラしている時なんだよな。」

 ケイゴは少し笑いながら言っていた。

昔からの付き合いだったし、俺の事はよく知っていた。だから俺がこれをする時は、必ず黙ってタオルを差し出してくる。

俺の事をよく知っているせいか、1度もそれを止める事もなかった。

 ケイゴは別室に俺を呼ぶと、自分のシャツを取り出すと俺に投げてよこした。シャツを着替えると、別室を出て再び酒を飲み始めた。

 止血した耳はまだ、ズキズキと痛みが残っていた。久しぶりにしたあの行為・・これも加賀が余計な事を言ったせいだ。

 イライラすると、こうする事でしか落ち着く事ができないんだ。仕方・・ないんだ。

 「ねぇ、真夜ぁ。」

気が付くと俺の隣にはカオルが座っていた。昨日あれだけ恥をかかせたのに、よくもまあ俺の傍にいれるもんだ・・とある意味感心していた。

 「昨日の・・あの女が帰ってくるって話、ダメだよ真夜!あの女は合わないよ。真夜が恥かくだけだよ・・だから、」

 「だから、何?真砂と会うなって?」

カオルを睨みつけ、少し優しく問いかけた。

 「そうだよ!真夜とは、全然釣り合わないよ。」

カオルの言い分を俺は黙って聞いていた。

 「真夜をからかっているだけなんだよ。あんなお嬢さんが真夜なんかを本気で相手にしない・・」

 パシャッ・・・

カオルは自分に起きた事を理解できていなかった。

俺は隣でうるさく喋り続けるカオルに、飲みかけの酒をかけていた。

 「真夜?」

カオルは濡れた髪に触れながら、俺の方を見ていた。

 「いちいち・・いちいち・・うるせぇんだよ。お前には関係ねぇことだろっ」

そう話す俺の肩は怒りの余り、震えていた。

 カオルはまだ何か言おうとしていたが、俺の様子を見て思いとどまり、そのまま奥の方へ去っていった。

 ちっ、アイツのせいでここに来た目的を忘れるとこだった・・。

それは“有也”の事だった。ババァに対して俺の“有也”になりきる演技は完璧な物でなくてはならない。

 「オイッ 誰か有也って奴の事知らないか?」

ざわついていた奴等に向かって叫んだ。

 「有也?」

 「そんな奴ここにいるか?」

いるわけねぇだろ!奴は死んでやがるんだから。そう思っていると、

 「有也って“ルーズ”の有也の事?」

その声の主は、レイといういつも遠くの方で飲んでる奴だった。

 「知っているのか?」

レイは頷くと、俺に有也の事を教えてくれた。

         ・

         ・ 

 「ふ・・ん、なるほどね。」

レイの話を聞いた後、俺は再びカウンターへ戻った。話によると、どうやら有也は顔立ちも、境遇も俺に似ているらしい・・。だが、奴には俺にはないものがある・・。

 優しさだ・・。非情になりきれなかった奴・・。ガキを助けて事故ッた奴。

「非情になりきれなかった・・か。」

バカらしい。族のメンバーだからもっとパンチの効いた奴かと思ってたら・・中途半端なバカじゃねぇか。

 フーッと、煙草の煙を吐いていると、

 「お前、その“有也”って奴の事調べてどうするんだ?探偵ごっこでもしているわけ?」

ケイゴが近づいて話しかけてきた。

 「んな訳ねぇだろ!バカ!」

ケイゴの頭を軽く叩きながら俺は笑って答えた。

 この有也の事を聞いて、俺は内心安心していた。こいつに比べると、俺の非情さが嫌なくらい実感できたからだ。

 「真夜、1つ聞いていいか?」

バーからもう1本ボトルを持ってきたケイゴは少し真剣な顔で尋ねてきた。

 「何だよ、ケイゴ。改まって」

 「お前さ、今何してんの?さっきの“有也”って奴の事とか」

ケイゴの言葉にボトルを口に近づけようとした手が止まった。下手な嘘はつけない。ケイゴとは長い付き合いだから、下手な嘘は通用しない事は知っていた。

 アパートに住んでいるとも言えない・・。ケイゴのことだ、アパートを訪ねた上でこんな事を聞いているんだ。

 「ああ、ちょっとな。“有也”の事は気になる事があったんだけど、勘違いだった。あと、俺は今知り合いのトコに厄介になってるんだよ。」

 知り合いのトコ・・嘘じゃねぇ。三田や加賀は俺の知り合いだし。

 有也への勘違い・・これも嘘じゃねぇ。そう思っていると、

 「ふ・・ん、そうか。ならいいんだ」

そう納得したかのようにケイゴは言った。あと少しで本当の事を言ってしまうとこだった。

 「俺、帰るわ・・」

ジャケットを着ると単車のキーを持って、ケイゴから逃げるように階段を上がっていった。そして、“DEAD ANGEL”を出て単車に乗ろうとした時、後ろからカイが追いかけてきたのに気がついた。

 「真夜、何があったかは知らないがケイゴには言えよ」

カイはそう言うと、再び店に戻った。言ったところでどうなるんだ。テメーもサナトリウムで働くのかってんだっ。俺と同じ様に周りの人間共に同情されたり、騒がれたり・・冗談じゃねぇ!

 「バーカッ!」

そう呟くと、単車に乗りサナトリウムへと向かった。




  −誰にも“俺”をみせてはならない・・−

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