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抜け出せない孤独

 「真夜!真夜!」

う・・ん、誰だよ、朝から叫びやがって。そのまま無視して寝ていても、声の主はずっと俺を呼んでいた。仕方なく起き上がりドアを開けると、そこには三田が俺を覗き込んでいた。

 「何だよ!朝っぱらから・・うっせぇんだよっ」

そう怒鳴り散らし、再び寝ようとしたが三田は俺の腕を掴むと、

 「ああ・・よかった、ちゃんと帰ってきて。もう僕はずっと心配していたんだから。」

嬉しそうに話す三田をよそに、俺は髪を掻き毟りながら1度あくびをするとテレビをつけた。

 「ホント、この部屋いいよな。TVもあればバス・トイレもあるし・・。加賀のオッサンも金あり余ってますヨネ」

自分でも思うくらい、嫌味ったらしく言ってやった。三田はそんな俺を見て、クスッと笑った。

 カチンッときた・・。 自分の言ったことに対して笑う奴は、俺から見るとケンカを売っているのと同じだ。腹が立つ・・。

 「もう、いいだろ?俺が戻っているとわかったんだ。出て行けよ・・」

俺は三田を追い出すと、すぐシャワーを浴びて、着替え終わると部屋を出て仕事を始めた。

 「あっ・・。」

声のした方を振り返ると、そこにはあの葉山美岬がいた。俺はただ睨みつけていたが、ガキは屋上の方を指すと、

 「ねえ・・ちょっといい?」

そう問いかけてきた。

 

 「で・・何だよ。俺に何か用でも?」

ため息をつきながら俺は問うと、ガキはフェンスにもたれると、

 「この前さ〜突然怒っちゃって、ビックリしちゃった。あたし何か気に触ること言っちゃった?」

 こいつの言葉に思わずガクッときた・・。何なんだこの女は・・。この間の事全く反省してないのか?オイオイ、これだからガキは嫌なんだよ、思わず殴りたくなる・・。そう思いながら煙草を取り出し、吸い始めた。

 「あっ!やっぱりタバコ吸ってる!」

あぁ、そういえばこの女うるさかったんだ・・。しかし、そんな事に構わず吸い続けた。

 「さっき、院長先生のお話少し聞いちゃったんだけど、昨日失踪したんだって?」

あ・・んの親父!どこでそんな話してんだよ・・。こんなガキに聞かれやがって。

 「失踪じゃねえよ!昔の仲間に会いに行ってたんだよ。」

そう言うと、もう一本煙草を吸った。

 「仲間って、暴走族の?」

 「あ、ああ。そうだよ」

 「うわぁ!すごい。みんな単車乗り回しているの?特攻服着たり?」

始まった・・。この間の件でこりた筈なのに。

 「警察に捕まらないよう、こう逃げまくってさっ。もしかしてケツ持ちとかやってたの?」

俺がケツ持ちなんかするわけねぇだろ!リーダーなんだから・・とかそういう問題じゃなくて・・。それよりうるさい。

 「あと、根性焼きとかあったり?」

うるさい うるさい うるさい!全然懲りてねぇこの女!ホントうるさいっ。

 「あ〜憧れるなぁ。いいなぁ」

・・・・・・・・・っ。一瞬頭の中が真っ暗になった。このガキ自分で何言ってるのかわかっているのか?

 「不良さんとオトモダチ・・いいカモ。」

ガシャンっ!この間と同じ、俺はフェンスに拳をぶつけた。

 「な、何?また変な事言っちゃったとか?」

ガキは相変わらず何もわかっていなかった。

 「お前・・何も知らないくせにってこの間言ったばかりだろ?うざいんだよっいちいち俺の事構いやがって・・訳のわからない事言いやがって。うっとおしいんだよっ」

 俺は今までの鬱憤を晴らすかのように怒鳴った。そんな俺を見て、ガキはやっと大人しくなった。それを確認すると、俺は屋上から去ろうとした。そして、ガキとすれ違う時に、

 「・・お前が病人じゃなかったら・・女であろうが俺はお前を殴ってた」

と、呟いた。振り向いたガキを睨むと屋上を後にした。

 「真砂ぉ・・早く帰って来てくれよ。俺を支えてくれよ・・」

なんて、すっげぇ情けねえ・・。ハハ・・うつむいて少し笑った。ホント情けねえ・・。こんなの俺じゃねえよ、弱気になってら。そう思いながら壁にコツコツと何度か頭をぶつけていると、

 「有也・・。」

その声のする方を見ると、ババァがヘルパーの押す車椅子に乗って俺の方をじっと見ていた。

 「よおっ。バアちゃんじゃねえか!もう具合いいのかよ」

そう言いながら、俺はババァの方へ駆け寄った。ババァは自分の前にしゃがんだ俺の両手を取り、何度かその感触を確認すると

 「ああ、これだ。この感触だよ、私が倒れた時助けてくれたのは。」

そう言うと再び俺の手を触ってきた。

 「本当にいい子だよ有也は。本当に・・本当に」

その瞬間、俺は頭に血が昇った感じがしたが、その“感じ”を抑えながら

 「目の前でバアちゃんが倒れてんだぜ?助けるに決まってんだろ?別にいい子じゃねえよ」

と、微笑みながら言い、仕事があるからとその場を去っていった。

 ・・廊下を歩きながら壁にコツコツと拳をぶつけていく・・

 −−有也は本当にいい子だーー

 「くっ・・」

 −−この感触だ 私を助けてくれたのは−−

 「くっ・・くっ・・」

 −−いい子だ−−

 「くっ、くく・・ハッアハハハッ!ヒャーハッハッハッハッ」

たまんねえ・・もう笑うしかねぇよ。いい子だってよ!どいつもこいつも何にも知らねぇんだな、何の為に俺がババァを助けたと思ってんだよ。親切心?冗談じゃねえ・・。ババァにはこれからまだまだ生きてもらわねぇと困るんだよ。

 そして本当にくたばる時に俺は“有也”から“真夜”に戻るんだ。それなのにあのババァ気付かずに“いい子”って言うし、もうおかしくて笑ってしまうよ。こりゃいいよ、すべて俺のシナリオ通りだ・・。

 そう笑いながら歩いていると、目の前には加賀がいた。

 「何か楽しそうだね、どう?ちょっと休んであっちで話でもしない?」

そう言うと加賀は俺を引き連れて庭のベンチの方へ向かった。そして俺の前にいつの間に買って来たのか、コーヒーを差し出した。それを受け取り、飲むとやっぱり“いつも通り”だった。その表情を見て加賀は

 「やっぱり、それまずい?」

その質問に対して、うなずくとすぐ加賀の方を見た。

 「何で知ってるんだよって顔をしているね。すべて三田から聞いているし、聞かなくても大体は知っていたよ」

ちっ三田の奴・・。ホント余計な事まで言いやがって。

 「どう?驚いたかよ?全然違うだろ?」

すぐに開き直って少し微笑みながら加賀に聞いた。

 「ん〜そうだね、全く違うとは言えないけど、同じ人間でも変わるもんだね」

そう感心しながら返事した。それに対して俺はただ不満気な顔をした。

 「君が、今ここでこんな風に働いている所を御両親が見たら何て言うだろうね」

 「俺には両親なんていねぇよ。離婚したって知っているだろ?」

親の話になると、なぜかいつもイライラしていた。他人なんかに自分の家庭の事をあれこれ言われるのは、たまらない・・。

 「例え、御両親が離婚されていても、君に対するあの“権利”は・・」

  バンッ

 加賀が言い終わる前に俺はテーブルを叩くと、加賀を睨みつけそのまま立ち去った。




 −ダレカ オレヲ タスケテ・・−

第11部分完了いたしました。本当にありがとうございます。物語はここから発展して行きますのでこれからもまた読んでやって下さい。最終的にどうなるか予想とかして頂けると嬉しいです。

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