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虹導

作者: 沙夜菜

今回は、いつも以上に文章が散らかっている……ような。

今日は、朝からずっと雨が降っている。

こんな日でも、一週間くらいぶら下がったままのてるてる坊主は、いつも通りの笑顔を見せていた。

「毎日晴れたらいいと思ったのに、あなたの効果は1回しかないの?」

 先週の運動会は、きっちり晴れさせてくれた。やりすぎだよ、と眩しい日差しをさえぎりながらつぶやいたほどに。

 でも、願いは一回しか聞いてくれない。ケチ、とてるてる坊主を指で弾くと、笑っていた顔が少しだけ悲しげになった……気がした。

「あなたの顔まで、空みたいな雨にならないでよね」

あわてて私は言うけど、てるてる坊主の表情は曇ったままだ。それどころか、ぷいっとそっぽ向いてしまった。

「……いいもんね」

 いつまでもすねているてるてる坊主が嫌になって、私はレインコートと長靴、雨の日の格好をして外に出る。あんなの置いて、一人で散歩するもん。傘を差し、歩き出した。

 ちらりと、傘のすき間から空を見てみると、絵の具で失敗した時のような色に、汚れた綿のような雲が浮かんでいる。そこで私は、てるてる坊主の頭に詰め込んだ綿を思い出した。一週間もほったらかしだったから、この雲のように汚れてしまっているかもしれない。家に帰ったら取り替えてあげよう、と思いながら、もっと進んでいく。

 水たまりを覗きこみながら髪を直して、「雨の日って髪がまとまらなくて嫌になっちゃう」と口の中でつぶやいた。外で髪を直して、そんな言葉を使っていると、なんだか自分が中学生くらいのお姉さんになった気分になる。嬉しくなって、思わず水たまりに向かって笑っている……と、空から雫が落ちてきて、水たまりにうつった私の笑顔はぼよんと、変になってしまった。

「雨の日は、全部だめ」

 てるてる坊主の機嫌も、私の笑顔も、全部、全部。

「でも」

さっき鏡にした水たまりの上で、ぴょんと跳ねる。

「水たまりは、いいよね」

 その時かたつむりを見つけて、かたつむりもいいね、と、もう一度つぶやいた。近くによってからを見てみると、こんな雨の日でもきれいなままだ。雲とは全然違うね、と空をもう一度見て思った。きっと、かたつむりは雨で汚れが流れていっているんだ。てるてる坊主がもし汚れていても、雨に当てたら大丈夫かな。……そう考えて、はっとした。

「濡れて乾かなくなっちゃう!」

 その時、周りを見回して──ここ、どこ?

見たことがない家が並んでいる。……迷子になった、のかな。

こんな雨の日に?どうしよう、まだ住所も覚えてない。名前しか言えない。それに、こんな雨の日に外に出てきている人なんていなかった。

「だから……晴れさせてって、言ったのに」

 またてるてる坊主が嫌になってきて、首を横に振る。てるてる坊主は悪くない、迷う私が悪いんだ。さっきは楽しかった水たまりも、今踏んだら散った水が長靴の中に入ってきて、じめじめするだけ。それと一緒に私の心の中までじめじめしてきたけど、とにかく歩いていくことにした。さっき来たはずの方向へ、知っているところに行けるまで。

 それでも、いつになっても知っているものは現れなかった。もう、帰れない。ずっと、一人。一生、お母さんにも会えない。

 前だけを見て歩いていたから、地面にへこんだところがあるなんて気付かなくて、私はそれにつまずいて転んだ。濡れた地面のせいでレインコートもぐっしょりと濡れて、普通の服にまで染みてくる。ひざも茶色く汚れて、今日の雲よりも汚れてしまっていた。傘がない、と思ったら少し離れたところに飛んで行っている。

 ほっぺを流れていく水は、雨だ。泣いてなんかいない。でも、口まで流れてきたときにしょっぱい味がしたから、やっぱり私は泣いているのかもしれない。

 地面に座り込んだまま立ち上がることも出来なくて、もう一度空を見上げる。せめて、雨が止んでくれたらいいのに。ほっぺを流れる雫は、もう雨か涙かも分からない。

……でも。

さっきの私の願い事が通じたのか、少しずつ雨が止んできている。やがて空は、運動会の時のように太陽が顔を出して、明るくなった。

そして、

「虹……」

 見たこともないほど、大きな虹が空にかかっていた。あの空の橋を渡ったら、どこに行けるかな。渡りたいな。それならまず、虹のはしっこを見つけないと。私は立ち上がって、傘を拾いに行った。それを畳んで、「虹のはしっこ」を探して歩き出す。

 だんだん、知っている家が増えてきているような──気のせいだよ、とつぶやきながら歩いて行くと、ついに虹のはしっこを見つけた。それと一緒に、自分の家も見つけた。

 虹のはしっこは、私の家の2階の窓……てるてる坊主がかかっている窓に、あったんだ。

 私の体は勝手に走り出した。長靴を玄関に脱ぎ捨てて、レインコートについた雫が床に垂れるのも気にせずに、階段を駆け上っててるてる坊主へ駆けよる。

 てるてる坊主の顔は、前と同じ、にっこりと優しい笑顔だった。

「私が迷子になったから、虹を出してくれたの?」

 虹を追いかけたら、帰ってこれるように。てるてる坊主はくるりと一回転して、またこっちを向いてくれた。

「ありがとう。もう、雨降らせたかったら雨でもいいからね。どっちでも、好きな天気にしちゃっていいよ」

私が言うと、てるてる坊主は嬉しげにもう一度回った。

 ふと窓を見てみると、さっきの虹は少しだけきらきらを残して、消えていた。


 

  


 

てるてる坊主の頭に綿なんて詰めたことないんですけどね^^;

あと、13行目なんだか読みにくいですね。ごめんなさい。

 それとそれと、かたつむりのからが汚れていないのは、雨で流れてるからではありませんよ(笑 

迷子になった時、私も一生、一人で暮らして行かないといけないのか、と妙な覚悟をしたものですが……私だけですか。

 とりあえず、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] てるてるぼうず。自分もよく作ってます。現在系です。変わってますかね? 迷子になってしまっても、誰かが導いて、探してくれている。そんな気持ちを感じました。 自分も過去、迷子になったことがあ…
[一言] うぉー!! 不思議で心に沁みる、とてもいい話だ!! 「今日のいい話トップ3」堂々の第1位!!
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