その七
ようやく、本命登場です。
陽光に、キラキラと透ける銀の髪。
鮮やか過ぎる紫の瞳。
執務室へ続く回廊で微笑んでいるのは、間違いなくあたしが誰よりも会いたかった人。
「団長!!」
「よお。良い所で」
ガイの呼び掛けに、にっこりと笑い返すその端麗な微笑み…
うわ~~~~っ!! アレク!アレクだ~~~~!!!
し、しかも、極上の微笑みつき…
マジ?マジですか? いつも微笑んではいるけれど、こんな楽しそうな心からの笑顔ってあたし初めてかも…
「本当に良い所で、だ。急いで帰ってきた甲斐が有ったな。久しぶりだ、ガイ。元気だったか?」
「それを俺に聞くのか? お前と違って俺は温室とは無縁でな。ちょっとやそっとじゃ倒れんのだ。おあいにくだったな」
「…相変わらず口の減らない… 変わりがなくてうれしいよ」
「…それは、嫌味か?」
「なんとでも」
言葉だけ聞くと口喧嘩みたいだけど、二人ともとっても嬉しそう。目がね~ うん!すっごく楽しそうに笑ってる。
本当に、今日はついている。アレクのこんな表情、めったに見られるもんじゃない! しかも、遠目じゃなくこんなに近くで。
…わおっ!! この角度… 見あげられるほど近いじゃん…
ああ…相変わらず、どの角度で見てもなんてお綺麗な…
あたしは美形フェチじゃない。美形フェチでは無い筈なのに…
…おっとっと。我に返ったユーリーが一歩下がって礼をする。ヤバいヤバい…見惚れてる場合じゃなかった…って、あたしは見惚れてても構わないのか…
う~ん、ユーリー。目線上げよーよ。あたしに、アレクの綺麗な顔を見せてください。
「本宮からの帰りか?」
「いや。一の郭の私邸からの帰りだ。領地の方の諍いが解決していなくてな… どうした?その書類」
「ああ。そこの坊やが持っててな。お前当てらしいから、お手伝い」
「それは… すまないな。ユーリー。重かっただろう」
うわっ!いきなりのお言葉ですか!?
「い、いえ!し、仕事ですから!!」
ひ、引きつる… 緊張で、声が引きつるってば。
「…おい、俺には一言もなしか」
「そのぐらいの量でどうにかなる程、貴殿はヤワでもあるまいに。それとも、この私に気遣って欲しいとでも?」
「…相変わらず良い性格してるな… おい、坊主。こんなのの下で働くの、嫌になったら言ってこいよ。俺のとこでちゃんと面倒見てやるから」
「将来有望な部下を口説かないでくれないか? この子は私の所で一人前にして見せる」
――――― これって、取り合い? あたしを挟んで、取り合ってるよね!?
さ、さんかくかんけい??
い、いや、違う!あたしじゃない! 取り合いされてるの、あたしじゃないし!
しかし、アレクってこんなにしゃべる人だったっけ…? なんか、何時も見る頼りになる団長って感じじゃなくて、二十五歳の(そう言えば、あたしとはタメになんのか、本当は)青年のままって感じ?
いやいや、これはこれで凄く魅力的…
そんだけ、ガイには心を許してるって事っすか? い~な~。ガイになりたいな~
「あ、ありがとうございます!がんばります!! りょ、両団長のご期待に背かぬように、精進いたします!」
ぴょこん! ユーリーが思いっきり頭を下げてお辞儀する。
その途端、アレクとガイが顔を見合わせて…
――――― うわ…この子ってば、なんて…
「…相変わらず、素直だな…お前は…」
「いい子だろう?」
「まったくだ」
ぐりぐり…また、ガイの手がユーリーの頭にのびてちょっとだけ強めに頭を撫でられる。
う~…この人ってば、こういうスキンシップ好きなんだよね~
でも、気持ち解るわ。あたしも思わず撫でてやりたくなったもの。手が有れば、だけど。
どうせならアレクにも、やってもらえないかな~…なんて、思っちゃうのは、これ、仕方ないよね。なんたって恋する乙女! ほんの少しの接触でも、嬉しいんだけどな~ …あたしの体じゃないけど。
だけど、目の端に映るアレクはにこにこ笑ってるだけ。元々、ガイと違ってスキンシップ自体、得意じゃなさそうだし―――――
まあ、しかたないか。ガイの手だけでも、実は十分役得役得。ここが本宮あたりでユーリーが女だったりしたら、ガイを狙ってる宮廷のお嬢様方に睨まれる事絶対だ。ああ、ここが隊舎でよかった…
そんな事を思いながら、舞い上がってた気持ちを少しだけ落ち着けて、なでられてるその体制のまま二つの背の高い姿をユーリーの目線で仰ぎ見る。
銀の髪に、黒い髪。
アメジストと黒曜石の瞳。
こうして見ると、実に対照的な二人なのに並んでいても不思議と違和感がない。
アレクの容貌は、その非の打ちどころの無さから冷たく鮮やかな夜を思わせて。
――――― 一方のガイは、髪も眼も、服装すらも漆黒なのに、何故か明るく輝く夏の陽光が良く似合う。
夜と昼。光と闇。月と太陽。
『スーベニアの両輪』と謳われる紛れもないこの国の要。
まだ三十代後半だって聞いている、お若い(あくまで国王としては)ルード陛下が最も頼みとするのがこの二人だってことは、スーベニアの国民全部、それこそ子供ですら知っている。
第一騎士団は王宮を。その周りの首都は第二騎士団が。
第一と第二と。アレクとガイと。二重の守りにこの王宮は守護されている。
第二騎士団は、こっちでの警察の様な仕事も兼ねてるから結構人数も多いんだよね。確か、騎士だけで五百…だったっけ。歩兵とか入れたら、第一騎士団の優に五倍以上になるらしい。だから、実質的な首都防衛は、実はガイの両肩に掛っていると言っても過言ではないのだろう。
前にも言ったけど、第一騎士団は近衛も兼ねてるから、案外人数は少ないの。少数精鋭って奴?その分、いろんな才能を併せ持つ人が集められてて、いざという時は多方面への遊軍的な意味合いもあるとかって聞いたこともあるし…
ともかく、常に首都シュロスを守る立場に立つこの二人。
いざという時には協力し合う事も多いから、二人の仲が緊密であることが首都の安全のためには絶対に必要不可欠なこと―――――― ってこんなのは、ユーリーが常日頃いろんな人から聞かされてる事の受け売りなんだけど。
そんな事は関係なく、とにかくこの二人は仲が良い。
こうして並んでても、お互いをお互いが惹きたててるようにしっくりくる。
良いよね~こういう男の友情って。お互いを尊重し合ってるのが、傍で見てても思いっきりわかっちゃうんだもん。おまけに二人とも、これ以上ないいい男だし…
いや~眼福眼福。おねーさんてば、今日はホントにラッキーです!
そうこうしている内に、アレクの執務室の前に着く。
一歩退いて従ってきてたユーリーが、慌ててドアを開けようとするんだけど、それを笑って制して、アレクってば自分でドア開けちゃうし…
うう… 従僕の仕事、取らないでください…
「ユーリー」
「はい!」
正面の机に、書類一式、ガイからも受け取って揃えておいた時、アレクから声が掛る。
「厨房へ行って、何か酒を取ってきてくれないか? そうだな…まだ昼間だから、軽い物を」
「おいおい。俺相手に、軽くで済まそうって?」
「暗くなったら、たっぷり付き合うさ。―――― 頼めるかな?」
「はい!!只今!」
ぴょこん!とお辞儀をして、ユーリーは小走りに駆けだしていく。
わ~い!!お仕事お仕事!!
何か、大好きな人の為に出来る事がある。
動くのはあたしの体じゃないけれど、あたしにとってもそれは本当に嬉しい事だった。
長らく、お待たせいたしました… ようやく、更新。やっとこさ、本命さんがいっぱいしゃべってくれました。
この間、お気に入り登録が200を超えまして…あ、ありがとうございます! PVも40000、ユニークも10000を超えさせていただきました。 こんなにも読んで頂けて本当に嬉しいです。
だらだらと不定期更新ですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。