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その四十七

…とりあえず、今晩には間に合わせました…

遅れて、すみません。続きです。

ユーリーの中。

頼まれた書類を抱えた状態で走り回るユーリーこのこを放っておいた状態で、あたしはまたまた自分の思考に埋没する。手も足も、感覚は何処か遠くなって、意識だけが鮮明になって浮遊する。


これは、この世界に居る時しか感じられない感覚。眼を見開いている筈なのに、あたしは何も見ていない――――― これ、あたしが物を見なくても、ユーリーがちゃんと見てくれてるから出来ることなんだけど。


第一騎士団の石造りの堅牢な隊舎。窓の小さい薄暗い廊下を、そこかしこに残るアレクの気配を無意識のうちに探しながら、あたしはここ何カ月かの状態を順番に思い出していってみる。


始まりは此処から。

いつの間にか始まったアレクの不在。

それに合わせたようなガイへの悪意ある噂。

何の音沙汰も無く続く不自然な状態。

当然のように流れた重病説。

呼応するように齎されたミルヴァーナ姫への強引な縁談。



こうして羅列してみるとよくわかる。全てが、なんだか見えない一本の糸につながっているみたいに物事が悪い方へ悪い方へと流れて行く。そんな感じ。


アレクとミルヴァーナ姫の婚約は、この国だけでなく、既に周囲の諸外国にもきちんとした形で知らされている筈だ。アレクが居る以上、その婚約者たる姫に求婚するなんて、このスーベニアに、アレクに真っ向からケンカを売るようなものだって、こっちへ来てまだ日が浅い、あたしにだってそのくらいは分かる。


なのに、このタイミングをまるで見計らっていたように動いたイアニス。

しかも、本来ならこの二人には無関係なガイが、謂れのない悪意の中にさらされて孤立しようとしているこの時に。


嫌な感じがする。


あたしが、図らずも知ってしまった秘密。

もしかして、あたし以外にも、それに気付いた人が居るのだろうか。


確かに姫はアレクの婚約者だ。けれど、姫の気持ちが揺れている事に、あたし以外の誰かが気付いて―――


気付かない、訳はないかもしれない。決して他人ひとの気持ちに敏感と言えない筈のあたしでも気が付いちゃったんだもの。少しでも、姫の視線の意味を考えたなら、きっと、分かってしまった人は居るだろう。


では、ガイは?


ガイも、姫の事を憎からず思っている―――――― 少なくとも、あたしにはそう見える。

姫とガイと―――― そして、アレク。


あたしはこの三人の関係が、ただ単に、よく有る恋愛小説のような切ないだけのものだと思っていたのだけれど、それぞれの立場、身分、それらをすべて考えたなら、決して各々の感情だけで動く事の出来ないしがらみがはっきりと見えてくる。


この国の中心ともいえる王の、跡継ぎの王子がまだ幼い。そのため、王のたった一人の妹であるミルヴァーナ姫の存在は貴重で有ると同時に、王家にとっての脅威でもあると、思う。

よく考え無くても、アレクと姫の婚約は少なからず政略的なものが有るんだろうなとはこれまでからわかっていた。けれど、こうして国と国の話になってくると一層その意味が、重要なんだと気付かされる。


アレクと姫の間には、確かに好意は有ると思う。

いろいろなことを考えると、このまま結婚する方が二人の為なのかもしれない。


けれど、姫の視線とか、ガイの仕草とか、そう言うのを見てしまっちゃうと… なんだかねぇ… 

なんというか、切なくなってきちゃって… 


あたしの感覚から言うと、『政略結婚なんて今時どうよ』って感じなんだけど、この時代(って言っていいのかな?)王族とか貴族とかの結婚が、愛情だけで出来る訳が無いってのは、知識として解ってる。

でも、ミルヴァーナ姫もガイも、お互いがお互いを好きだってなんとなくでも感じ取れたから、やっぱり好きな者同士で結婚できたらいいのに…って思ってしまう。(あ、二人がくっついちゃったら、アレクがフリーになる。やったね!――――って一瞬でも考えなかった…訳ではないです。はい。ごめんなさい。済みません)


でも、こうなって見て解る。姫にとってアレクと婚約は、それだけで十分に他の貴族や他国への牽制になってたんだって。アレクの存在さえあれば、姫への変なアプローチは防げるものね。一応どんな国にも人にも、メンツってものが有るし、婚約者が居る人を、横からかっさらうなんてまね、普通だったら絶対に出来ないし、しちゃいけない。そんな事やっちゃったら、周り中から総スカンくらっちゃうのが目に見えてるから。


―――――― う~~~ん…


な~んか、やだねぇ、こういうの。

今まで、知っていてあえて知らない振りをしていた事がいきなり白日の元にさらされてしまったかのような味の悪さ。

姫ってば確か、一回さらわれかけたとか言ってなかったっけ? あの時、アレクとガイが言ってたの、確かイアニスじゃなかったっけ…? 


確か、あの時の犯人たちって、全員、捕まる前に自害してのけたって言ってたっけ。そんなふうに、命令した者を守ろうとする、秘密保持に秀でた集団なんて、そこらへんにいる山賊や傭兵たちの仕業じゃないもの。


裏に居るのはイアニス…?

一国の国が、まさか…って、そうは思うんだけど。


良くも悪くも、この世界はそれぞれの国がその国の王の力で動いてる。

スーベニアの王は、文字通り凄く出来た方みたいだから、今まであんまり気にしなかったけど、王様の言葉一つで動いてしまうのが当たり前だものね。何が起きてもおかしくない。


ミルヴァーナ姫は、スーベニアの青玉と謳われる方。どこぞの王族が見染めてしまっても決して不思議で無い。

横恋慕のその果てに…って無い訳じゃないだろうけど、なんで今? 

だって確か姫って、生まれた時にアレクと婚約したって言ってたし。相手が、アレクじゃねぇ? …アラ何て探したって見つからないと思うし… ――――― だから、、ガイも、何も言わずにいるのに。


その時、不意にあたしは気付いた。


もし、アレクが居なかったら…?

もし、もしも今、この状態でアレクが居なくなったりしたら――――― 


姫は完全にフリーになる。正式に婚姻をしていない男女はたとえ婚約者であっても、正式な喪に服する事も無い…


……え? あれ…ちょっと…ちょっと待って…?


え? なに、この符号。

アレクが居なくなれば・・・・・・


タイミングが良すぎる。

いろんな意味でのタイミングが、見も知らない誰かににとって余りにも良すぎる…よね…


第二騎士団の謀反の噂で民心が少なからず動揺しているこの時、アレクの不在を見透かすように届けられた隣国からの縁談。

これが全て誰かによって仕組まれた事だとしたら――――


――――― アレク…!


アレクの不在も、本当に唯の不在では無いのかも知れない。

病気…? ―――― いや、もしかしたら、もっともっと良くない理由。

そんなものが本当に彼の身に降りかかっていたとしたら。

出ようと思っても出られない。

アレクが、決して人前に出られない状態だとしたら――――――!


意識だけの筈なのに、得体のしれない寒さに、一瞬だけあたしとユーリーは自分の体を強く両手で押さえつける。

まさか…

まさか、まさか…


思いついてしまったある可能性を、あたしは頭の中に閉じ込める。それだけは考えない。考えたくない。


決めたから。

信じるって決めたから。


でも…―――――



コツッ…!

小さな音を立てて、ユーリーが扉を叩く。

慌てて意識を眼に向けると、そこは見慣れた部屋の前で。


――――あ、ここ…


一応ノックをして、ユーリーは扉を開ける。

部屋の中に、その主は居ないって、ユーリーも解っているのにね。


少し重い扉の向こう。この頃では入る機会さえないそこは、この第一騎士団の中心――――団長の執務室。


『少しは飲めるようにならねぇとな』


そう言ってガイが笑ってくれたのは何時だっただろう。


『私の大事な部下に手を出すな』


そう言ってアレクが微笑んでいたのは何時だっただろう。


長い間の主の不在に、部屋の内部はその空気の色さえ変わってしまった気する。


たとえ誰が居なくても、此処には毎日掃除の手が入り、空気の入れ替えが行われては居る。

けれど、主のいない部屋は、どうしても何処か沈んで色あせて見えて。


「…団長…」


ふと漏れたのはユーリーの声。


―――― アレク…


声にならない声で呼びかけてしまうのはあたし。


どうして? なぜ?

なんで、あなたがここにいないの?


どこにいるの?

なぜ、姿をみせないの?


わからない… あたしたちにはわからない事が多すぎる。


気持ちの乱れが手元に出たのだろうか。

揃えて机に置いておくはずの羊皮紙が一枚、ユーリーの手からすり抜けて床へ落ちる。


「…わ、うわ…!」


慌てた所為か、それ以外の紙までもが全て、ユーリーの手から瞬く間に滑り落ちていく。

机の脇、壁との間の床一面に散らばる羊皮紙かみ


「…あ~あ…」


やっちゃった…――――なんて、この子は口に出さないから、あたしが代わりに言ったげるね。


ま、ま。しょうがない。仕方ないよ、そんな事もある。

とにかく拾お?

また、揃えなおしだけど。


あたしたちはしゃがみこんで、一枚一枚散らばった羊皮紙を拾っていく。

思いのほか離れた場所へ飛んだ一枚を眼で追って―――― 


違和感に、気が付いた。

紙が―――― 一枚の羊皮紙が、石造りの壁と床の間に何故か半分ほど入り込んでいる。


「あれ…?」


よく見ると、壁のその一角だけがほんの少し周りから浮くようにずれていて…


――――壁…だよね…?


色も感触も、周囲と変わらなく見えるのに。


まるで誘われるようにあたしたちはその壁に手を伸ばす。

指先に微かな、でも、確かなずれ。

そして――――


「うわ!!!」


いきなり奥へと動いた壁にたたらを踏む。

バランスを崩した体を支え切れずに、あたしたちはその空間にぽっかりと開いた穴に、まるで引きずりこまれるようにして転がりこむ。


引きずられるように――――じゃない。実際に手を凄い力で引きずられて、暗いその空間にあたしはユーリーの体ごとズッポリと入り込んだ。


「――――――!!!」


思わず叫ぼうとした口をいきなり大きな手でふさがれて、今転がるように入り込んだ開かれた石の壁が、何する事も出来ないままゆっくりと閉じて行くのを見る。


「――――ん~~~!!ん~~~!ん~~~!」


口にあてられた手を外し叫ぼうとしても思いのほかその手は強く、同時に戒められた体は自由を取り戻す事が出来ずにもがく。


なに?

なに!?


動けない…

うごけない!!


ユーリーだって… ユーリーだって一応騎士見習なんだから!

ご、護身術とか、体術とか、一生懸命習ってたし、決して素人じゃない筈なのに、なんでこんな簡単に抑え込まれるの?!


真っ暗な中、それでもあきらめずにもがこうとするあたしたちに静かな声が降ってくる。


「…騒ぐな」

「……!!」

「今、手を放させる。声を出さないよう誓えるか?」


コクン…

その瞬間にあがくのをやめたユーリーの体から力が抜けたのがわかったのか、ゆっくりと背後の手が外されていく。

シュッ…と、何かをこするような小さな音がして、やがて、真っ暗な中に小さな灯りがともる。


掌に載るほどの蝋燭の明かりの中に、鮮やかに浮かび上がってくるのはこの暗闇には余りに不似合いな輝き。


「…久しいな、ユーリー」


――――― この声…!


忘れない。

忘れる訳ない。

どんな小さな灯りの中でも輝きを失わないそれは、


まぎれも無く、あたしが誰よりも求めていた銀の輝きだった。






ようやく、完成… 今回、思いっきり誤字脱字が怖いです。

とりあえず、今晩中には間に合わせました。

気力、体力が限界ですので、ブログ、活動報告は夜が明けてから…

いつも、読んで頂いてありがとうございます。

ゆるゆると、これからもよろしくお願いいたします。

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