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その四十六 すべて、魔多し

お久しぶりの更新です。

お待たせいたしました。

好時、魔多し―――― という言葉が有る。


良い事には邪魔が入りやすいという事らしい。その事から転じて、よい事が続く時には、十分に気をつけろって意味らしいんだけど――――――


してみると、あたしにとってこの夢の世界と言うのは、間違いなく良い事―――― 文字通り「夢」の世界だったのだろう、今さらだけど。



あの日、剛史に色々と愚痴って騒いだ屋上から数日後。あたしは相も変わらずふつーにこっちへ来ておりまして。

ユーリーも相変わらず、今日はあちら、明日はこちらと書類やら伝言やらを抱えて走り回る毎日で、中に居るあたしもちょっとばかり目が回るような忙しさ―――― 何なんでしょうねぇ? この繁忙期。


一応、あたしの気持も精神も、思っていた以上に平常心を取り戻し、もう、こうなったら、ケ・セラセラ。なるようになれ―――――って心持ちになってたんです、本当に。


だって、信じるって決めたから。

ガイを―――― それにアレクを信じるって決めたから、落ちついていられたんですよ。


―――――― だけど、これは無い。

こ~れは、無いでしょう、いくらなんでも!

いや、いつか来る、いつか来ると思ってたんですが…


遂に来てしまいました。コルフィー子爵、重病説!


―――― …えっと、分かってますよね? コルフィー子爵ってアレクの事ですよ、お忘れなく。

それによると、今、アレクってば実はものすごい重い病を患っていて、王宮でも領地でもない秘密の場所で、療養せざるを得ないぐらいに弱っている…らしい。 いや、もう、既に回復の見込みすら有り得ない…らしい。

らしい、らしいばっかりで、ちっともはっきりはしないんだけど!――――はい。またしても、噂なんですが。


もうこれは、ガイの時以上のインパクトで王宮中を席巻しましたよ―――― ええ、でも、あくまでも、秘密裏に。

だって、アレクだもん。この国の重鎮よ? 宰相すらその才覚を頼みにし、なおかつ首都シュロスだけではなく、この国そのものすらその背に担っていた『スーベニアの両輪』よ? その人が重病だなんて、とても、声を大にしてなんて言えませんよ、誰だって。


これ聞いた時は、ひっくり返るかと思いました。いや、マジに。

実は何処かで覚悟はしてたんだけど、実際のインパクトってばやっぱりハンパなかった。

え?なんの覚悟って? だって、この状況だもの。いつか、どんな形でかわからないけど、こういった話が出てくるかもって、変な覚悟。それが、あたしにはあったみたいでさ。

その発端は、ガイが放ったあの一言。

覚えてるかな? 最後にガイに会った時、アレクの所在を尋ねた彼がポツンと言った一言。


『やはり…』


情報は確かだったか―――――― あの時は、何の事か分かったりなんかしなかったけど。


あの後、ガイ関連のすったもんだで、今までスルーしまくってたんだけど、あの時にはもう、もしかしたら上層部には何か情報が流れてたのかななんて、今更ながら思っちゃう―――― いや、もしかしたら、その情報を知っていたのはガイだけかもしれないけれど。


こんな噂が、一人歩きするくらい、今回のアレクの不在は長すぎる。いくら国政が、領地がって言ったって、もう二…カ月? いや、三か月近くになるのかな? その間、誰もその姿を見た人が居ないって言う事実が、ますます重病説が信憑性を増してくる。――――――― まあ、アレクの姿を見ていないってのは、あくまであたしの…と、言うか、ユーリーの周りとか、その他もろもろ、一般の人々の間での話なんだけど。

国の上層部。本当に国の中心にいる人たちのことなんて、あたしたちにはわかんないからね。アレクに会った人がいるのかいないのかすら、あたしやユーリーにはわからない―――――― それもある意味当たり前の事だけれど。


でもね、前にも言ったと思うけど、ユーリーの仕事って、実は凄く凄くアレクの存在に深く関わっていってるの。アレクの身近にいなきゃ成り立たないかもって思っちゃう仕事なんだよね。

ユーリーのやってる従僕って役は、身分とか位とかは他の方々に比べれば本当に軽い、ペーペーの下っ端も下っ端の仕事なんだ。だから、見習いとか、まだ年の若い貴族の朋輩とかがその任に着くことが多いの。主な仕事は使いっ走り。アレクの傍にいて、様々な雑用を引き受けるのがその従僕たるユーリーの真骨頂な訳でして―――――― まあ、だからこそ、あたしは眼福にもこんなに身近で、あの麗しのお顔を拝顔する事が出来て訳なんです。閑話休題。


まあ、つまり、なんだ。

本来なら、ユーリーは、アレクがいないと、仕事がないんです。本当は。

一応騎士見習も兼ねてるから、そのほかにするべき事は一杯あるけどね。今現在、ユーリーは従僕たる本来の仕事をこなせてない事になるんです、悲しい事に。


だから、つまり結論を言っちゃえば、ユーリーが、こんなに長い間アレクのその姿すら見ていない。声の一つも聞いていないって、よく考えたら、もの凄く不自然な事だったんだ、今更だけど。

だから、この噂を聞いた時、愕然とはしたけれど何処かで納得している所もあって、思った以上に取り乱したりはしなかった―――――― あたしはね。


いや、実は、そう出来なかった理由ってものがちゃんとあって! だって、あたしより先に、ユーリーの方が、信じられないくらいに取り乱しちゃったもんだから、先越されちゃっただけなんだけどね!! 

――――― ううぅ…酷い… ユーリーってばよりにも寄って、フェードアウトしちゃったんだもん! あたし、自分の意識残したままで、いきなり目の前真っ暗になったのって初めてよ! ええ、ぶっ倒れる前にちゃんと自分で持ち直して立て直してくれましたけどね。いや、マジ、その方がびっくりしましたよ、ホントにもう!


わ~~~ん! この子ってば、何処まで団長ラヴ、なのよ! すぐに意識取り戻してくれたから良かったものの、あたしゃ、そっちの方に驚いて、どうしようかと思いました! 本当に!


確かに、アレクはあたしにとって、誰よりも好きな憧れの人だけど、ユーリーにとっては大事な上司であるだけでなく、むしろ父のような、兄のような――――― そんな憧れとか尊敬とかそこらへんの気持の全てをひっくるめた対象だったから、思わずこうなっちゃうのは仕方ないと言えば仕方ないんだけど… おまけに、このことユーリーに教えたのって、情報通で知られた、賄いのジーナさんだったってことも大きかったんだけど。


頼むから、此処まで落ち込まないで! 噂でしょ?噂! まだ、それが事実って決まった訳じゃ無いじゃん!あんたがそんなでどうするの! 

引きずられかける感情を思わず制御しちゃいましたよ。いくらあたしの精神はこっちの世界に何の影響も無いとは言え、一応はあたしとユーリーは一心同体。あたしは誰よりもこの子の近くにいるんだもの、自分がパニクるより先に、ついつい感情の抑えに走っちゃうしかないじゃない。 

だって、二人で暴走するって、ちょっと、余りにもいただけない光景だと思わない? 

考えても見てよ。宿主と本体の華麗なる暴走―――― うわっ! 想像でも見たくない。

いったいどうなるかわかんない分、絶対に試すなんてしたくない。―――――― そんなあたしの配慮なんて、当たり前だけどユーリーこのこにはこれっぽっちも気付いてもらってないけどね。


――――― え?なに? アレクの心配をあたしはしないのかって? 


……あたしが、アレクの心配、しない訳、ないじゃん!!!!!


まったくなんて失礼な! あたしが、もうかれこれ、どれだけアレクのお顔を拝見してないと思ってるの! そんなもの、ユーリーの比じゃないわ! 誰よりもその顔が見たいって思ってるに決まってるじゃん!!


――――― あたしだって、驚いた。一瞬だけど血の気が引くかと思った。(血の気引きまくって、ユーリーが先にぶっ倒れちゃったけど)


でも、同時に、「まさか!」って思ったの。


だって二回目だから。

噂で振り回されるの、これで二度目だからね。


今までのガイの騒動で、やっぱり少しは学習してんの、あたしだって。

こういうときは慌てちゃ駄目。

噂は噂。それでしかない。事実では決してないんだから。


確かに今、アレクは公にもプライベートにも、人の前にその姿を見せていない。


――――― 不自然だ。あまりにも不自然すぎるほどに。


もしかしたら本当に病気かもしれない。それでなくてもなにか、とてつもなく悪い事が起こって、姿を見せられないのかもしれない。

そう思うと、動かせないユーリーの体を無理にでも動かして、あたしが、あたし自身が、アレクを探しに行きたいと思ってしまう――――― 本当に、それが出来るのなら。


でも、出来ないから。

この間からのガイのコトで、その事実を、あたしは改めて嫌と言うほどわからされた。


そしたらもう、あたしが出来る事は一つだけ。

――――― 信じる事。

ガイを、アレクを、この世界を信じること。


この世界に、あたしがこうして存在する事に何か意味が有るのだとしたら、こんなにも好きになった人に、こんな形でこのまま会えなくなるなんてありえない――――― まあ、根拠も何もないけど、そう思ったんだ、あたしはね。


こんな結末の為にあたしは此処に来てる訳じゃない。それはなんだか妙な確信も持って、今はあたしの中に有る。

会える。また、会える。あたしは、アレクにきっと会う―――――そうでなかったら、あたしがこの世界に来れる訳がない。

意味なんてないけど、そう思う。


変かな?

変、かもね。


でもね。

剛史に発破掛けられて、開き直ったらこうなった。

もともとあたしってば、根拠のないポジティブ思考がお得意だったもんね。こうなったら、とことんまで自分の気持ちに従ってみるのも良いじゃないかって思っちゃったんだよね。


だから、今はせめて、あたしだけでも冷静になろうと努めて気持ちを抑えている毎日。いくら意志がお互いに繋がっていないっていっても、あたしの気持はどうしたってユーリーにひきずられる。だから、せめてそれに巻き込まれないように―――――って、そうするしかない現状って、なんか、本当に情けないんだけど。


――――― …ガイが居たらな…


思うのは、埒も無い事。

ガイの時には『アレクが居たら』って思った。

今、『此処にガイが居たら…』って切実に思っちゃう。


今現在、ガイへの疑念は決して晴れた訳ではない。アレクの衝撃的な情報に隠される形で表に出てこなくなっただけ。むしろ、アレクの事と絡んで、一層きな臭い話もちらほら有るとかないとか…

まったく、いったい、どうなってるんだか。



そして、そんな日々の中、止めの様にもたらされたのは、思いもかけない北の隣国からの使者。


『王妹ミルヴァーナ姫を、イアニスの王妃に』


――――――うわ~~~~っ! そこ、きますか!!


悪の王道過ぎて、泣けてきた…





変なところですが、一旦切ります。

この次は出来ましたら今夜中に更新したいと思っています。

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