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その四

昨日の続きです。新キャラです。

脳天へ、何の遠慮もない一撃を食らって、ボルテージが一挙に跳ね上がる。

病院内で、あたしにこんな仕打ちをくらわせて平気な奴なんてたった一人だ。


「剛史!」


やっぱりお前か!

結構なたっぱの有る(ちなみに167センチ)あたしを見下ろす様に立つこの男、名を山本剛史やまもと たけしと言う。今年の春から、うちの病院で整形外科を担当する事になった正真正銘の医者ではあるが。


「出たな、妖怪」

「誰が妖怪だ、誰が」

「んじゃ、天敵、害虫、ぬらりひょん。あっちいけしっしっ! あたしの大事な後輩に近寄んないで、女の敵!」


軽く撫でるだけだった陽子ちゃんをぎゅーと抱きしめながら言ってやる。

だ~れが、あんたなんかの言う事なんかきいてやるもんか!

この山本剛史と言う男、あたしにとっちゃ鬼門中の鬼門。出来れば顔を合わせるのだって思いっきりごめんこうむりたい相手なのに。


目算で180センチはありそうなガタイは上だけでなく、横にもそれなりに分厚くて。細い黒ぶちの眼鏡の奥の眼は整形したお姉さんが裸足で逃げ出すくらい見事な二重のそれなりに整った顔をしやがって。


その所為か、一部看護師の間では『可愛い』とか『カッコいい』とか言われてモテテいるらしいのがまた、腹立たしい。いっくらいい男ったって、このレベルで言って欲しくないってのが本音よね。夢の中とは言えアレクを目の当たりにしてきたあたしに取っちゃ、奴なんぞゴリラだねゴリラ。


おまけに性格が、思いっきり難有り!

なのにあのバカ兄貴の親友ってだけで、どんだけ顔突き合わせて来なきゃならなかったか!


齢十歳。いたいけな小学生の時、兄貴の同級生として家に遊びに来たこいつと最悪の出会いをして以来、あたしのこの男への評価はこれっぽっちも上昇なんぞしていない。

あの時、兄貴に連れられて家に遊びに来たこいつの初対面での暴言を、あたしゃ死んでも忘れないからね。


「人聞きの悪い事を連発するな。このバカ女。女の敵で、セクハラ大魔王はお前だろうが。さっさとその大事な後輩を放してやれ。窒息するぞ」

「窒息なんてさせるもんですか。ちゃ~んと考えてだっこしてます。あんたの前に無防備に置いとくより何ぼかマシ!」

「だから、それが人聞きが悪いと言うんだ。俺をどこぞのナンパ師の様に宣伝するな、バカ女」


くっそ~…

昔みたいに怒鳴り返してくれば三倍返しにして叩きのめしてやれるのに、ふふん…といかにも余裕の顔で腕組みなんぞされながらではこっちの分がだんだん悪くなるだけだ。

ちっ… この辺が潮時か?


「山本先生、おはようございます~ 今日もお元気ですね~!」


腕の中、それでも律儀に朝の挨拶をする陽子ちゃんにしぶしぶ廻していた腕を外す。


「はい。おはよう、陽子ちゃん。毎朝毎朝、大変だね~君も。僕が代わりにセクハラで訴えてあげようか?」


にっこり。

いかにも害の無さそうな顔でなんて事言いやがるんだこの妖怪!

しかも、僕って言ったぞ今、僕って!

うわ~~っ!! 背中に虫が走りそう。


「大丈夫ですよ~ っていうか、神部さんのスキンシップにはもう慣れましたし。相変わらず、仲いいですね~ お二人は」


…よーこちゃん。今、聞き捨てならない事をおっしゃいませんでした? 


「聞きたくないけど、聞いて良いかな陽子ちゃん。誰と誰が仲いいって?」

「そりゃ勿論、山本先生と神部さん」

「―――――― 有り得ないから!!それ!!」


思わず絶叫してやろうかと思ったわよ!


「剛史とは、腐れ縁も腐れ縁! もう十年以上前からの!」


もう腐りきってる縁しかないわよ! 本当に! 何処をどうとったら、そうなんの!?


「え~?でも、すっごく楽しそうですけど」

「だ・れ・が!」

「お前だ、お前。ちなみに俺は巻き込まれてるだけ」

「巻き込まれてんのはあたしの方でしょう―が!! こんの、バカ剛史!」

「先生と呼べ、先生と。できればしっかり山本先生と呼ぶように。仮にも年上のしかも医者に向かってのその暴言、許し難し。今夜、付き合え、おごらせたる」

「あほか! もう十年以上も呼び捨てにしてる相手に今さら『センセ』もくそもないわ! 高給取の癖しやがって、しがない栄養士にたかるな!」


そうだ!医者の癖しやがって。

あんたの給料とあたしの給料の、額面比べてみてやろうか? どんだけ額が違うと思ってる!


「―――― おはようございます。どうされたんですか、山本先生。こんな朝早く」


にこにこと、この時まで何の口もはさまずにあたしたちの騒ぎを傍観していた深山さんが、やっと口を挟んでくれる。

正直、そうでないと突っかかるのを止められないんだ、あたしには。


「おはようございます、深山さん。実は入院してる伊藤さんの指導の件で、少しご相談が」

「ああ、302の伊藤さん?あの方の栄養指導は確か午前中に…」


さっすがだな~深山さん。

今日の予定も、もうバッチリ頭ん中入ってる。

あらら…剛史の顔も、もう医者の顔―――― 二人とも、もう完璧に仕事モードに突入してる。


只今、午前8時25分。さあて、朝のウオーミングアップ終了ってとこですか?

ちょっぴり不完全燃焼の様な気もするが… お仕事はしっかりこなす。これはあたしの身上だから。

さ~て、今日も一日、しっかりやんなきゃね。

気持ちを切り替えて、さっきまでまとめていた栄養指導のカルテを机の上から取り上げ、もう一度中身を確認。


「ドジんじゃねぇぞ。このおっちょこちょい」


深山さんとの打ち合わせを終えて、ドアを開けた剛史がそれでも最後に振り返って一言。

ニヤッととしたその笑いに、同じようにニヤリと返してやる。


「だ~れに言ってんの?」


こちとら、勤務歴に関してはあんたよりず~と長いんだからね!

カルテをしっかりとファイルに挟みこんで、傍で同じように準備をしていた陽子ちゃんに声をかける。


「陽子ちゃん、あたしたちもそろそろ行こうか?」

「はい!」


こうして、いつものようににぎやかに、あたしの日常は流れて行くのだ。また今日も。






昨日一日のユニークが350を超えました。ありがとうございます! お気に入り登録も評価も本当に嬉しいです。精進いたしますのでこれからもよろしくお願いいたします。

もう一回、現実のお話かな~ その後は、また、あっちの世界に行ってもらうつもりです。


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