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その四十三

大変長らくお待たせいたしました。

――――― 第二騎士団に謀反の疑いあり。


それを聞いた時、あたしは思わず「は?」と聞き返していた。

いや、出てきた声はあたしの声じゃなくて、やっぱりユーリーの声だったんだけど。

こう言うのってシンクロするじゃない。自分が言ってんだか他人ひとが言ってんだかわかんない時って凄く、多い――――― って、論点違う! そこじゃない!


『え…え? あの?』


その、あたしの代わりに出るべき筈のユーリーの声が言葉になって出てこなかった。


『やっぱりな~ お前の様子から、知っちゃいないんだろうとは思ってたんだか…』


その様子に、ルースさんはうんうんと、解ったような顔で頷いてくる。

あの! そこ、そんな落ち着いてる場合じゃなくて…!


『あ、有り得ないでしょう!そんな事!』


――――― あ。やっと言葉になった。


思いっきりの大声で叫ぶように言いきったユーリーに、その時、あたしは心から同意した。これはもう、知ってるとか知らないとかそういったレベルの話では無くて。

有り得ない―――― というか、それこそ、天と地がひっくり返っても、お日様が西から上ったって(あれ?こっちでも、お日様って東から昇ったっけ? …まあいいや)起こり得ないくらい、これは、余りにも突拍子の無さ過ぎる話。


『まあ、そう言いたいお前の気持も解るんだがな~』


お前、第二の団長にも、結構可愛がられてたもんな。

だけど、どこか痛ましげにユーリーを見てくるルースさんの顔には、からかってるとか、嘘を言ってるとか、そう言った嫌な雰囲気はまるでなかったんだ。


『残念ながら、結構、真面目な話でな…』


そう言って、ルースさんが静かに語って聞かせてくれたそれは―――――




――――― 第二騎士団の様子がおかしい。


その言葉が囁かれるようになったのは、いつの頃からだったのか。


常に開かれていた筈の隊舎の門が、まるでその内部を隠すように閉じられている事が多くなった。

気さくだった団員達の顔立ちが、何処かよそよそしくこわばってきた。

おまけに、周辺を含めその警備が恐ろしいくらいに強化されている。

そのくせ、何かの伝令のように早馬が頻繁に出入りするようになった。


最初は、何処かの国と何かトラブルでも起こって、もうすぐ戦でも起きるんじゃないかと言うような噂だったらしい。確かに、そう考えるのがまっとうだし、普通ならその通りだっただろう。

しかし、それがいつの間にか別の意図をもって語られるようになる。


『国王からの使者を追い返した』

『糧食の備蓄を始めたらしい』

『隣国の使者が頻繁に出入りしている』


なぜ、そんな風に噂が変質していったのか。誰も分からないままだったというけれど。


『もともと、第二の団長は、貴族との折り合いが悪かった』

『どこそこの王族と、仲たがいをしたらしい』

『国王の前で、暴言を吐いた』


もう、ここまで来たら、正しいか正しくないかきっとそんな事は二の次になっていってしまっているんだろう。


『第二騎士団団長、ガイ・ヒューバーに謀反の兆しあり』


知らず知らずのうちに変質していく。噂とは確かにそう言ったものだけど。







「―――― 悪質すぎる…」


冷たい北風に髪を煽られながら、あたしは消えそうな声で呟いてみる。

病院の屋上。

現実の中、あたしがきちんと此処にいるのに、あっちの世界にこれほどまでに引きずられる。

まだまだ寒い季節の中、体は冷えてきているのに、頭の中はかっかかっかと逆上のぼせ上ったままみたいに、気持ちが、思考がどうやっても落ち着けない。


噂は噂だ。

それが真実が真実でないかは、流している人間にもきっとわかってなどいないだろう。

現代のこの社会ですら、噂は決して侮れない。一度立てられた噂は、どうやってもなかなか消えることなんてない―――――― その事が、はっきりとした形で完全に否定されるまで。

ましてや、テレビもインターネットもないあの世界では、噂、それこそが情報源になる。むしろ、何も知らされることの少ない庶民だからこそ、微かな違和感を肌で捕えて、そこに、噂の影を重ねて真実を言い当てることすらあるだろう。

けれど――――


「有り得ないんだから、絶対…」


誰が最初に流したのか知らないが、余りにも悪質すぎる。

反逆。

なによりも、忌み嫌われる行為。

あんな不名誉な噂。ガイにとっては致命傷になりかねないと思うのは、決してあたしの思いすごしなんかじゃない。

栄光ある第二騎士団の団長。

剣の腕は比類なく、その勇猛さゆえ、スーベニアの両輪と謳われた騎士。

ガイが受ける賞賛が増えれば増えるほど、それをねたむ者が表れてしまう事も当たり前で。

唯でさえ、貴族出身ではないってことで、一部の上層部からは白い目で見られてる。そんな風にすら聞いている彼の状況なのに、根も葉もない、こんなとんでもない事をこんなにも声高に言い立てられたら――――― どれをとっても、決して謀反を証明できるようなほどの事実は無い筈なのに。


ガイの顔が浮かぶ。

その闊達な笑みを見たのは、そんなにも昔の話じゃない。


――――― おい、坊主。


そう言って笑いかけてくれたガイの顔には、いつもと変わらない明るさが有ったのに。


―――― なあ、あれ、ガイ・ヒューバーだろ?


思い出したのはあの時、ユーリーを呼びとめた男の声。

少しの怯えと隠しきれない嫌悪と――――― あれは…もうあの時から、噂は始まっていたのだろうか。


無意識に親指の爪を噛む。

冷静に冷静に。

心の中で、誰かが呟いているのに、あたしはそれに耳を貸せない。


だって、あたしはそこに居るから。

あそこは、あたしのもう一つの世界なんだもの。

何も出来ない――――― それこそ、小石一つ持ち上げることすら出来なくても、あたしは間違いなく、当事者の一人。

こうして、二つの世界の行き来出来るからこそ、有り難い事にあたしには考える事が出来る。誰にも邪魔されずに、考えを纏める事が出来る。

その考えを、ユーリーにすら伝える事が出来なくても。


ユーリー。

もう一人の夢の中のあたし。

夢の中で、あたしの感覚も記憶も、完全にユーリーと一つなのに、ユーリーは、やっぱり、あたし自身では無くて。

今、ユーリーが持つ動揺と、あたしが考える不安とは決して一つではない。

ユーリーは、その真っ直ぐな心根のままにガイを、また周囲をも信じようとしている。

こんな噂はすぐに潰える。

すぐに元の王都に戻ると。


けれど、あたしはそんな風には思えない。

ガイを信じてる―――――けれど、噂の怖さをも、あたしは解っているから。


何か起こっている。

何かが変わろうとしている。

あたしの夢の世界が、優しい夢として終わらなくなっている――――――





「――――おい」

「え?」


掛けられた声に振り向くと目の前にポン!と何かが降ってくる。

反射的にそれを受け取って――――― 


「た、たけし?」


眼前にいきなり現れた見慣れた姿に驚く。


――――なんで…?


なんでこんなところに居るの?






なんとも、中途半端ですが、本日中にもう一話、更新予定です。

ブログ、活動報告の更新はその後に行います。

もろもろのお礼も、その時に…

いつも、見てくださってありがとうございます。

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