その三十九 一息つきましょう
謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
やっと…始動いたします。
今年も、どうかよろしくお願いいたします。
―――――― うっ… まぶし…
ピッカピカのお日様が、思いっきり眩しくて目を細める。
……朝ね、朝よね? 朝なのね!!
おっはようございま~~~す!! みなさん、お元気ですか~!!!!
絶対に音にはならないけれど、気持ちよく叫んでみる。
久しぶりにこちらでの朝日を見てしまいました。目を見開いた途端に飛び込んでくる日の光。気持ちよく就寝したすぐ後に見る、素晴らしいくらいに澄み切った朝の空――――― ああもう、なんてすがすがしいんでしょう!
体の隅々まで活力が漲ってくるようでございます。
おはようございます、皆様。
おはようお日様!
おはよう、ユーリー!!
ようやく、あっち―――― いわゆる、現実世界でのすったもんだが落ち着きまして、本日は心持ちも軽くうきうきと、現在あたしは夢の中。
―――――― はい。こちらでの朝は本当に久しぶりでございます。おかげでテンションも、もう、アゲアゲ?矢でも鉄砲でも持って来いって感じですかね――――― 実際に持ってこられたら困るんですが。
何時にも増してご機嫌な、ぶっちぎりのこの状態。
今日はきりきり行きますよ。
さあ張り切って、今日も一日がんばりましょう!!
……とまあ、この、とんでもなくも、るんたった!なあたしの精神状態も、今はもう、むべなるかな。しばらくはどうか、我慢してやってくださいませ。
何しろ、結構なところまでごたついた感のある、あたし―――― こと、神部有里の現実世界でのお見合い騒動は、その後、なんだかんだと言いつつもそれなりに収まるところへ収まって、今はもう何一つ無問題。何の憂いもございません。
そこまで言いきっちゃっていいのかって?――――― 確かに、お見合い自体は、成功…とは言えないんだけどさ。
さりとて、完全に失敗とまで行ってないってとこが味噌だわね。だって、光子叔母さんの機嫌もそこそこなところで落ち着いてくれっちゃったりしたんだもん。
何故か? ――――― うふん、だって… だってねぇ?
あたし、抜群の、目玉商品の、取り置きに、成功いたしました~~!!
えへん! ブイ!
思わず、片手を付きだして、Vサインまでやっちゃいそう。
取り置き――――って確かに、そこらへんの本屋の新刊なんかじゃないから、取りに行ったその時に、絶対に残ってるとは限りませんけどね。
とにもかくにも差し押さえ? いやいや、二年後の仮予約。仮だろうが何だろうが、なんにも無いよりよっぽどまし。良くやったあたし! ハラショー!! 万歳! こ~れでしばらくお見合いから逃げれるぞ!
あの後、
なんだかんだ言いつつも、どうしても一緒に行くと言ってきかなかった剛史を引き連れて、あたしは光子おばさんの所に正直に出頭いたしましたんです、はい。
出頭―――― もう、気分はどこぞの売られ牛? ドナドナなんぞが流れるような気分では有りましたけどね。でも、やっぱり、そりゃ~行かざるを得ないでしょう? こっこまでいい加減なことしていたら、もうお詫びで済むのかなんなのか… 一応身内の光子おばさんはともかくも、相手方の佐々木さんもいらっしゃる訳だから。そりゃ~もう、戦々恐々としながら、恐る恐るその場に顔を出したんだけど。
その頃にはもう、先に行ってた西條さんの方から、いろいろと―――― …まあ、なんだ。よくはわからないけれど、なんだか全部、説明が済んでしまっていたようで。佐々木さんも光子おばさんも、なんだか妙に和やかにご歓談あそばしていた。
でもって、剛史と二人して、思いっきり頭を下げようとしたあたしたちに、
「もう、大丈夫ですよ。心配しないで」
何も謝らなくても良いですから。
と、にこにこ言って笑ってくださったのが、何を隠そう佐々木のおじさまで。
すっごいすっごい有り難かったけど、その横で、にっこりと微笑んでいた西條さんが、なんだかねぇ…?
――――― だから、あなたのその微笑みが、なにより怖いんですってば。
まあ、なにはともあれ、その後あたしと西條さんは、「それでは、また…」と握手をして、和やかにお別れをしたんです。「二年後にね?」との、西條さんの意味深な視線が、あたしでなくて無関係な筈の剛史の方を向いていたのは御愛嬌って事で良いんでしょうか。
あのね~もしもし? 解ってますよね? あたしの片思いの相手は剛史じゃありませんよ~?
何とも憮然としたあたしの顔にプッと、一つ噴き出して、西條さんはそのまま、手を振った。
『二年後、楽しみにしています』
一週間後に届いたメールには、もう、噴き出すしかなかったけどね。
なんでも、会社の都合でインド行きが早まったとかで、『このメールは成田からです』とかって、打ってくるんでやんの。
え?なんでメールが来るのかって?
しっかりお互いのメールアドレスを交換したからですよ~ おほほほほ…
だってねぇ? いろいろと、お互いの状況も知りたいじゃん?
『契約破棄の時は速やかに連絡を頂かないといけませんからね』
な~んて澄ました顔で西條さんてば言うんだもの。…それは、こっちのセリフだって~の!
だから、今は結構気の置けないメル友状態なんです、あたしたち。西條さんのちょっとスパイスの効いたメールは、慣れてくると癖になるんだなぁ~、これが。ちなみに、しっかり剛史もメールアドレスとケー番ゲットされてました。――――誰に?…って、もちろん西條さんにですよぉ。こっちにも偶にメールが来るらしいけど、絶対あたしには見せてくれないの。まったくな~に書かれてるんだか。あの西條さんだもん。剛史が良いように遊ばれてるだけだと思うんだけどね。
そうそう、その、剛史なんだけど。
あの騒動で、あたしたちの間にあった何とも言えない気まずい空気はものの見事に払拭されてくれまして。おかげさまで前と一緒の思いっきり本音で怒鳴りあえる腐れ縁に戻りました。
腐れ縁―――― ケンカ友達かな? うん。それぐらいには格上げしてやっても良いかもしれないなんて思ったりしてるんです。
どうです? あたしも心が広くなったでしょう?
確かにいっつも憎まれ口ばっかの奴だけど、『諦めるな』って言ってくれたあの一言が嬉しかったりしたんだよね。それに、職場で、あいつとポンポン言葉の応酬してないと、なんか、こう、調子が悪いって言うか、今一ノリが悪いって言うか…
毒されてる? いえいえ、これ、一重にあたしの、この、ひろ~い心根の賜ですよね。
そうだ、そうだ。自画自賛! 誰も言ってくれないから、この際だから自分で言っちゃいま~す!
有里ちゃん!あんたはえらい! えらいぞ~~!!
さてさて、朝のユーリー君。
おはよう! 気分はどうかな?
お久しぶりのおねーさんによーく顔を見せて―――――って、鏡が無いと見られないんだっけ。ユーリーはあたしで、あたしはユーリー。なんだか、久しぶりだからこの感覚って凄く新鮮な感じ。
記憶は――――OK、OK。きちんと例のシステムは稼働してるみたいね。
あたしがこっちに来られなかった間のあれやこれやが一瞬のうちにあたし自身の記憶になる。ふ~ん。別段変った事も無い感じ? 色々とこまごまとした出来事は有るけれど、とりたてて特筆すべき事は起こってないのね。なんだか、ホッ…。
だってねぇ。あたしがこっちに来られない間に、懸案になっていたあれやこれやが、解決してたりなんかしたら、ちょっとばかり、悲しいじゃん。例えば~、ガイの事とか~、アレクの事とか~アレクの事とか…
まあぶっちゃけ、アレクに関しての事があたしにとっては最優先なんだけど、それでも、ガイとミルヴァーナ姫の事とかって凄くすご~く気にならない? 野次馬根性、あんまり良い事じゃない無いなってのは解っては居るんだけどさ。でも、そこはそれ、あたしだって好奇心ってものがあるし。
その… どうしたって、その結果はあたしの大事なアレクに関わってくると思うしね。
朝一の仕事で厩に向かうユーリーの目線で、少しだけ色を失った庭をぼうっと見ながらあたしは自分の意識をあえて散漫にする。そうした方が彼の記憶を辿りやすくなるのはもう、経験則から解ってるから。
一応プライバシーの観点からあんまりしないようにしてたんだけど今回だけは許してね。なんか本当に久しぶりなんで気分は軽く浦島太郎状態なんだもん。
え~と… そうか、あれから一カ月…二か月? 詳しい日付まではわかんないけど、何時の間にか季節は冬。…本当に長い間、来れなかったんだな、あたし…
そう言えば、現実で、お見合いに引きずりまわされてる間、なんでかあんまり来れなかったもんね。あっちでは一カ月ぐらいにしかならないけど、あっちとこっちじゃ時間の流れが違う筈だし。確か、こっちの方が流れは少しだけ早いはず…
…え? え?え~~~~!?
なんと! この間にユーリー君てば一つ年齢を重ねちゃってるじゃないの!
う~ん。十六歳になっちゃったのか~ 十六って言えば高校一年だよね。この間まで中学生だったのに…その瞬間を見逃すなんて、おねーさんにとっては一生の不覚! 今さらだけどおめでとう! 少しは大人に近づいちゃったりしたのかな?
そうか。母上からは手紙と温かそうな胴着が送られてきて――――― 今、着てんのがそうね。うん。確かに軽くて凄くあったかい。
此処は日本より気候は温暖だから、冬になったからってあっちほど、凍えるみたいに寒くはならないけど、やっぱり冬と言う以上、朝晩は、それなりに冷えるもんね。うん。流石母上。良いもの送ってもらったね。
でもって… おお!ユーリー! あんたってばアレクから、プレゼントなんて貰ってんの?!
いま、腰に下げてる細身の短剣。――――― くっそ~…いいな~うらやましい…
え? なんですって? ガイからも?
なになに? 首に巻く…何て言うんだこれ? チョーカーと聞こえるけどあたしの知ってる装飾品じゃなくて。
『戦の時は忘れるな。鍛えられない急所だからな』
坊主は、な~んか、あぶなっかしいんだよなぁ~―――― なんて…
なんて…なんて…
なんて、うらやましいんだユーリー!!
あたしの居ない間に、随分と良い思いをしてくれちゃったじゃないのよ! まったくもう!
―――― でも、アレクには会えてないのね。この前あたしが来た日――――― あの、初めて頭なでてもらった日からユーリーも、アレクには会えてないんだ。それはそれは…
贈り物も、副隊長経由で渡されたみたいだし。なんか、本当に、随分長い事隊舎にすら顔を出してないみたい。
副隊長の話だと、王宮と領地を行ったり来たりで、第一騎士団の仕事は、今のところ、副隊長に丸投げ状態…って、あんた、どんだけよ!!
でも、そうすると、今日もきっと会えないよね~ 楽しみにしてきたのにな~ ちょっと…、いや、だいぶ、がっかり。
まあ、仕方ないか。
何しろ、将来の宰相候補だもんね。
国王陛下の信頼も厚いし、忙しいのは、もう、当たり前だったし…
―――――― はいはいはいはい。おねーさんは大人だかんね。『会いたかったのに~!!』なんてダダは捏ねませんよ。
ええ、だって、ダダ捏ねたってだ~れも気付いてくれないんだもの。思いっきり空しいじゃん。
とりあえず今日は、久しぶりのユーリーの働きぶりを堪能するとしましょうか。
だって、また、来れるし。
きっとそのうち会えるよね。うん。
―――――――――― あたしのその希望的観測は、その後、大幅に変更を余儀なくされる事になった。
大変…大変お待たせをいたしました…
ようやく、今年の一発目でございます。
昨年の最後の更新以来、お気に入り登録やカウンターがびっくりするくらい増えまして、現在、お気に入り600件をはるかに突破。PV45万、ユニーク8万を突破させていただきました。本当に本当にありがとうございます。
詳しいお礼や事情などは、ブログか活動報告にて。
本年も不定期並びに出たとこ勝負の更新になりますが精一杯書きたいと思っています。どうかよろしくお願いいたします。
今年のチャレンジとして、アルファポリス様の『恋愛小説大賞』にエントリーしてみることにしました。2月いっぱいの事なので、会員の方、よろしければ投票してやってください。