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その三十四

長らくお待たせいたしました。ようやく続きです。

――――― かっぽ~~ん……


なんか、二時間ドラマでおなじみに音がする。

たしか、鹿脅しししおどしって言ったよね。

何処にあるんだろ… ああ、あんなとこに有るね…


かっぽ~~ん…


なんとも、マの抜けたこの音で、本当にライオンが逃げるのかな…?

いや、ライオンって、日本にライオンは居ねーし。この場合、シシはししでも、鹿の事だったよね、たしか。


かっぽ~~ん……


……あたしの現実逃避も、だんだん堂に入ってきたぞ。


「少し、砂利道になりますが、足元大丈夫ですか?」

「あ、は、はい」


砂利道って言ったって、大きな石が配置良く並んでいて、その上がきちんと遊歩道のようになだらかに削られて、歩きやすくなっている。

この上を歩けってことよね。この程度なら慣れないヒールでも大丈夫。


「晴れてよかったです」

「はい?」

「雨が降っていたら、こんな風に外に出ることはできないでしょう?」

「はあ…」

「あのままでは、お互い気づまりですし。佐々木さんは良い方なんですが、やはり目上の方々が一緒ではゆっくりお話も出来ませんしね」


にっこり。

…あなた、その微笑みは反則ですから。


「……やっぱり、解ります…?」


慣れてないの、丸わかり?


「あなただけでは有りませんから」


僕も慣れないので…

少しだけ困ったような顔が、一瞬年齢を忘れさせて―――――


「付き合わせてわるかったですか?」

「い、いえ! 助かりました! ありがとうございます!」


確かにあのまま、あの中に居ても困っちゃったけどさ。


か、可愛い…?

今、可愛いとかって思っちゃった? あたし。


……えっと、え~っと、三十三。三十路、とっくに過ぎてる男の人に、可愛いってなによ!


『このギャップに、やられちゃうんですよ』


―――――そうか、これですか。


これが、彼の持つギャップの魅力って訳ですね。

その所為であたしの緊張が少しだけ緩む。なんとも、ほんわか…みたいな? 

…かといって、この人と二人っきりって…


さて、何を話せばよいのやら。


「え~と、あの…」

「はい?」

「西條さんは、その…」


口に出したは良いが… えっと、何が聞きたいんだっけ?

いっちばんに聞きたいことは有るけれど、それを聞いてしまうのは、やっぱり、余りにも不躾って奴だと思う。


「なんでも、聞いていただいていいですよ」


その為に、こうして二人きりなったんですから。

そう言って、あたしを覗きこむようにしてまた、にっこり――――― どきっ…!と、してしまったではないですか!


思わず視線を反らせてしまう。ああ、態度悪いな~とは思うけど、反らした筈の耳元にくすくすとした笑い声が響くから、もう、そのままでいいやって思っちゃう。


――――― ああ、心臓に悪い…


うう~~やばい。ああ、やばい。あたしってばどきどきしてる。ついでに、絶対、顔、赤くなってるよ!

知っててやってる? え? この人ってば解っててやってんの?!

なんて人… 敵ながらあっぱれ?――――― って、敵じゃないし!味方でも無いけどさ!



いや、もう本当に、この西條敦也さんって方ってば。

初見の背中から感じた事でもあるんだけど、何とも言えない雰囲気があるんだよね、この人は。

イケメン…では無いの。多分、そんな風に表現できる感じの、一目見たときから感じるような無茶苦茶に華やかなものは決して持ってらっしゃらない。

顔立ちはむしろどちらかと言えば地味な方だし(いや、人の事言えたりなんかしないんだけど)背だって決して高くない。正直、顔とか背とかだけだったら、アレクを例に出すまでも無く、剛史辺りを持ってきたとしても、十二分に勝ち目は有るんじゃないかと思う。腹はたつが。


でも、この人の魅力と言うか力と言うか… その何とも言えない雰囲気には、はっきり言って剛史辺りじゃ勝ち目は無い。うん。多分、絶対ね。

きっと写真なんかでは解らない、いっそオーラとでも言ってしまったほうが早いような存在感――――もう、なんと言うか、『デキる男』オーラとでもいうの? それが、決して押しつけがましくなく感じられてしまうのだ。


からかってるようでいて、相手を不快にさせない。

相手の事を考えているようで、決して自分から意識をよそへ向けさせない。

大人で、それでいて何処か子供めいて。

これ、天然でやってる? もし、解っててやってたら… お、恐ろしい…よね? うん。

営業向き…と言うか、天性のひとたらしって言うか。

この人に口説かれて、「いいえ」と言える強者っているんだろうか? ―――― なんだか、本当にいなさそう… 


営業さんってみんなこんな感じなのかなぁ…

職場にはめったに営業なんて来ないし、たまに来ても、深山さんがきっちり相手してくださってるし。

……もしかして、あたしの人生経験が足りないだけ? 初めて会った人にこんな風にふら~となっちゃうなんて… ――――いやいや、なってないし! ふらっとなんて、してないし!

いっくら、好み、どんぴしゃだからって、それだけでふらっ…と… なんて、してな…いはず。うん。きっと。


頑張れ自分。負けるなあたし。当初の目的を思い出せ!―――――って、目的…?

えっと、目的ってなんだっけ…?


そうよ、目的とかって言う前に、あたしってばなんにも考えないで、あれよあれよという間に流されてこんなとこに来ちゃってるんだもんね。

それはそれで情けない… いや、今更そんなこと言ってる場合じゃないんだけど。



でも、しかし。

する気なんて、ないし。


あたし、まだ、結婚なんて、本当に、する気、ないし!


たとえ西條さんが、これ以上ないようなめちゃくちゃ好みの良い男だからって、世間的に見ても、絶対お勧めの優良物件だとしても――――― あたしが、今好きなのはアレクだし! アレク以上に好きになるなんてありえないし!

ここは、絶対流されちゃいかんだろう!



「――――― 西條さんはどうして、お見合なんかされたんですか?」


少しだけ驚いた顔 。


「…これはまた、根本的な質問ですね」


呆れてる?怒ってる? ―――― え~い! 全然読めないわ!

でもね、もう、こうなったら、不躾だろうがなんだろうが聞いてやる。

だって、これだけの良い男だよ?

仕事も顔も、普通だったらそこらへんにいる女の人、とっかえひっかえしてもきっと大丈夫なんではないかと思えるぐらいの優良物件よ?

そんな人が、こんな風に、お見合いに出てくるだけでもよく考えたら怪しすぎる。

あたしはともかく、この人に、この場に出てくるメリットが、余りにも無さ過ぎる。


「そっくりそのままの質問を、あなたに返しましょうか?」


うわ~~~~…… 笑いながら言いきったよ、この人。

これって、腹の探り合い? それってあたし好みじゃないんだけどな。


「あたしは自分が解ってますから」


だから、もうドきっぱり言い切ってやる。

だって、言いたくないけどこの年まで、ま~るで男っ気なしで来た、おばさん泣かせの有里ちゃんだもん。おばさんが、『あたしが、絶対に良いお婿さん見つけてあげる!』って燃え上ってしまうのもむべなるかな。あたしはあたしを知ってるからね。


だからって、無理やり結婚したい訳でもない。それなりに夢もあんだよ、あたしにも。

そこら辺の女の子の機微って奴、ちょっとおばさんには通じないしな~


「おやおや…それはまた…」


クスッ…

その、小さな笑いはどういう意味ですか?


「僕をどんなふうだと思われてるんでしょうか?」


し、質問がえし! しかも、くすくす笑いながら。


――――― うわ~~~っ… 性質たち悪い…


でも、どうしてかいやな感じがしなくって、思わず振り返って凝視した西條さんから目が離せなくなる。

大人で子供の振りをする、少し黒い出来る人―――――


「僕がこの場に居る目的は一つだけです」


あたしの視線をしっかりとつなぎとめて、西條さんは言い切った。しかも、にっこり笑顔つき。

なんか、この後聞きたくない…


「僕は…」


…に、げたい…


「僕は、結婚相手を探すためにここに居るんですよ」


―――――― ジーザス…


いっちばんありえない答えを、西條さんは極上の笑顔つきで言ってのけてくれた。








ようやく、続きです。

なんとか今月中にこのお見合いの件を解決させるつもりです。

お待たせしないで更新できるよう、鋭意努力中です。どうかよろしくお願いします。

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