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その二十七

昨日の続きです。

半年前、やっぱり同じように我が家にお見合いを持ち込んだ光子おばさんに、正面切って立ち向かえなかったあたしは、姑息にも絡め手を使って逃げられるもんなら逃げてしまおうと思ったのだね。とりあえず写真だけは見て。その上で、お相手と目された男性を好みそうな独身の知り合い(女性)に、それとな~く声をかけて、話を進め…――――た時は、こうなるとまでは思ってなかったんだけど。


「あれで、みっちゃんのプライドが揺らいじゃったからねぇ…」

「だから、あそこまで行っちゃうって思ってなかったんだって!」


いや~、まさかまさかで、どんぴしゃりだったんだな、これが。あれよあれよという間に、その二人の間で見合いが成立し、思った通りというかなんと言うかその場で意気投合をしてくれちゃったりして。挙句の果てに光子おばさんの成婚率をアップさせることにまでなってしまったんだね、これが。


「結果オーライでいいじゃない」

「あの件に関しては、自分の成果にはカウントしないとさ」

「そこまで、こだわんなくっても…」


――――― 光子おばさん、こっち方面には、ある意味、命賭けてるからな~…


もしかして、あたしにもおばさんのお見合い成立の極意なんてもんが遺伝してんじゃなかろうか。

うわ… そんなもんが遺伝しても嬉しくないぞ。


そんなことをつらつらと思いだしているあたしを後目に、我が家のおふくろ様はせんべいを食べ終えたらしく、ずず…と渋茶を飲み干して口を開く。


「あんた、今…というか今までずっと、誰とも付き合った事ないんだろ? ――――まあ、あんたと付き合うなんて奇特な奴、いるかどうかも分かんないけど、とりあえず今いないんなら、話のタネに一遍見合いなんてのをやってみるのも良いんでないかい?」

「奇特ってなんだよ。奇特って!」


あんたの娘は珍獣か! 今とか、ずっととか、なんであんたが知ってんの! 


「あんただって、結婚願望がない訳じゃないだろうが」

「……そりゃあまあ、そうだけど…」


一応、これでも女ですから。結婚とか恋愛とかに夢が無いでもないけれど。


―――――― 実は、今になって思いっきり初恋中とか、言えないよねぇ、やっぱり。


昔から男友達は多かったが、色っぽい話になったことはついぞない。あたしも、これっと思えるような人もいなかったし、それはそれで不自由もなかったし。


「無理に、とは言わないけど、やっぱり人並みな事はやってみても良いと思うね、あたしゃ。あんたの旦那はともかくとして、あんたたちの子供には、あたしもお父さんもそれなりに夢ってもんはあるんだから」


……そんな風に言われると、返す言葉なんてごさいません。


孫に『じいじ』と呼んでもらう事。言ってて恥ずかしいこれが、あんまり自己主張ってもんをしなさすぎるあたしらの親父様のささやかな夢だってことは十分過ぎるほど承知しております。

もちろん、あたしだって、折角女に生れた以上、子供の一人や二人、生んでみたいし育ててみたい。この際旦那は――――― いらないとかって言ったら、殴られるな、きっと。でも、さっき、おんなじような事、言ってたよな、かーさんも。


「ユウの方はさ。何のかんの言っても男だし、ある程度の年齢になっても子供は持てるだろうけどさ。だけど、あんたはやっぱり女だし。この頃じゃ、ある程度、年齢いってても子供はちゃんと産めるだろうが、育てるには体力あった方がやっぱり楽っちゃ楽だからねぇ。お互いに」

「お互いに?」

「そう。いくら年より若く見えてもばばだから」

「婆って誰よ」

「そりゃ、あたしの事」


けろんといったよ、この人は。確かに、あんたはもう五十とっくに過ぎてるってのに、下手したら三十半ばに見えようかってぐらいの童顔だけど!


「自分で若いとかって言うな! ―――― てか、婆って何、婆って」

「正確には、『ばあば』って呼んでほしいかねぇ。あんたが勤め続けるにせよどうにせよ、どうせあたしが面倒みる事になるんだから。少しでも、あたしの体力があるうちにしてくれると助かるんだよねぇ。子供の相手ってのは、思ってる以上に体力勝負だから」


しみじみとそんな風に言われると妙に納得してしまう。

なんか、先の事まで一応考えてんのね、この人も――――― ってか、違うだろ! 話、思いっきりずれてっぞ!


「ま、みっちゃんの件はまだ考えるだけでいいからさ。一回、会ってみるのも良いかもよ。経験に」


大口あけて反論しようとしたあたしを見透かしたようにおふくろ様は言ってくれる。確かに、いい経験にはなるだろうけどさ。


「――――― そんないい加減なの、相手の人にだって失礼じゃん」


全然まったく、結婚なんて、今はする気もないのにさ。


「それぐらい軽い気持ちで良いって事。深く考えるような事でも無いってことさね。こーゆー事は、あくまでもお互いの縁ってもんだからね。みっちゃんも、そんな事ぐらいわかって言ってるんだからさ」


そうまで言われると、あたしはうなずき返すしかない。


「さ~て、そろそろユウも帰ってくるかねぇ。――――― 有里、見合いの件、あたしがユウに言うからね。あんた、黙ってんだよ」


――――― ま~た、この人は。


なにウキウキしてんだか。あたしだけでなくこの後、兄貴でも遊ぶ気だな、こりゃ。


「ハイハイ」


呆れたようにひらひらと手のひらを振ってやる。

るんたった!と鼻歌でも聞こえそうなおふくろさんの後姿を見送って、あたしが最後のお茶に手を伸ばした時それはいきなり降ってきた。


「―――― そういや、この頃、剛史君見かけないねぇ。元気でやってるかい?」


一瞬息が止まりかけて、手にした湯呑をひっくり返しそうになる。


「……さあ、この頃、見かけないし…」


嘘は言ってないぞ。このひと月、本当にその影さえもあたしはこの目で見ていない。


「あんた、おんなじ職場だろ? 見かけないってことがあろうかい」

「同じだって言っても、担当するトコ違いすぎるもん。――――― 何の噂も聞いてないから元気なんじゃない?」


良いにつけ悪いにつけ、剛史は病院では注目されてた人間だ。何かあったら、院内僻地のあたしたちにも話はきっと届くだろう。


「昔馴染みだってのにつれないねぇ… ユウも会いたいと思ってるだろうし。見かけるような事でもあったら、また遊びにおいでって言っときな」


―――――― そんなこと言えるもんか!


いっその事、洗いざらい此処でぶちまけてしまえば、厄介事が全部ぜ~んぶ解決するんではなかろうか。


思わずそんな誘惑に囚われてしまったあたしを、いったい誰が責められる。

最後の最後に思いっきりの爆弾をぶちまけて、さっさとおふくろ様は居間を後にする。

残されたあたしは――――― 


一つ大きな溜息を吐いて、それからゆっくりと食べおえた食器を片づけ出した。






ようやく、きりの良いところまで更新できました。本当に長い間お待たせいたしました。

この間に、お気に入り登録が400を超えさせていただきました。ユニークアクセスも、50000を超えて… う、嬉しいです!本当にありがとうございます。

…でも、この後も、きっと更新、遅れます。最初に謝っておきます。すみません。

なかなか思うように更新できませんが、どうかゆるゆるとお付き合いくださいますようお願い申しあげます。

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