その二十一
思ったより時間かかってしまいました。再開いたします。
「――――― で?」
「で?」
「どうなってんの?そっちの状況ってば」
そう言いながら、手にしたジョッキを一気に煽る。
くーっ! 駆けつけ一杯のビールは最高! 五臓六腑に染みわたるってこういう事を言うんだよね。
すきっぱらの胃にダイレクトに来るもんね。あんまり身体にや良くないって解ってても止めらんないわ。
「う~~ん… こんなにもライバルがいるとは思わなかったってトコ?」
結構苦戦。
そう言いながら、同じ様にジョッキを一気飲みしているのは此処のところ、妙にお仲間じみている平川真由美サン。場所は言わずと知れたいつもの居酒屋。
「――――― て言うか。最初に思ってた以上にあっちからこっちから、邪魔なのがうじゃうじゃうじゃうじゃ出て来てるって感じ? 山本センセってモテんのね~ 今さらだけど」
「……それは、あたしもビックリした」
確かに、奴が最初に赴任してきた時から、こりゃ~ヤバいかな? とは思ってたんだけどね。
昔から見慣れ続けた顔の造作はともかくも、たっぱはあるし若いし、曲がりなりにもお医者様。三拍子、いや四拍子ぐらいは配偶者としての条件は整ってるもんね。しかも病院はどちらかと言うと女の比率が高いって相場は決まってるもんだし。
「此処の所にフィーバーぶりはちょっと半端無いわね。改めてびっくりって感じ?」
「…あのね…」
バタン!とわざとのようにテーブルに突っ伏した真由美から、低―い声が降ってくる。
「今更、あんたがそれを言う…?」
座っていたカウンターの椅子の上、くるりと身体を廻して真由美はあたしにその指を付きつける。
「いっとくけど、そんな事へーぜんと口にしてんのはあんただけだかんね! まったく、この鈍チンが!」
おいおい。人を指さすのはマナー違反なんじゃないのんかい?
「第一フィーバーって何よ、フィーバーって。あんた、言語センス古過ぎ!」
…其処突っ込む? って言うか、
「だって、剛史だよ? あの剛史」
まったく、あんなのの何処が良いんだか…
独り言の様にジョッキに消えたあたしの言葉を、耳ざとくも拾い上げたらしく、真由美が思いっきりの溜息を付く。
「改めて、なんであんたにこんな事言わなきゃなんないのか、あたしにはそっちの方がわかんないんだけど! ―――― いい? 山本先生ってば凄いのよ。地方とはいえ国立大の医学部にストレート合格。さらに、しっかり医師免許も一発合格。研究室じゃ抜群の器用さで様々な実験に関った挙句、残ってくれって懇願する教授陣を後目に臨床を希望するや、研修が終わったらその全てを振り切ってさっさと地元への就職を決めてリターンしたって話じゃないの!」
「え? そうなの?」
「そうなの!――――― ってか、マジ、知らなかったの?!」
「えっと…」
ははは… 全然存じ上げません。
「…それって、ホントに剛史の事?」
「ホントもホント! なに?其処まで信用無いの?!」
え~~っと… ごめんなさい。真面目にありません。
……結構凄かったんだね、剛史ってば。
「で、何でそんな事あんたが知ってんの?」
「これはね! 常識の範囲なの!常識の!!」
――――― そうか。個人情報がこんなにも流れてしまうのは常識の範囲なのか…
妙な所で今さらながら感心しているあたしは、結構この時点で酔っちゃってるね、きっと。
そんなあたしを後目に、真由美は一人でヒートアップ。
「しかも、顔だちはそれなりで、性格も言う事無し! 腕も良いから患者の評判も悪くないと来た日には、これでモテなかったらそれはそれで変でしょうが!」
「顔と性格に反対票一票」
「どんだけ面食いなの!あんたってば!!」
ぜーっぜーっぜーっ…
息、切れてますぜ、おねーさん。
「別にあたしゃ面食いって訳じゃないと思うんですが…」
「自覚が無いからなお悪いわ!」
いや、自覚はしてますってば… ―――――― でもね。あたしはあのアレクに見慣れてる人間なんですの。あの人間離れした凄まじいまでの美貌を、此処一年ばかし身近で拝察し続けてきた人間なんですってば。アレクのあの月さえも裸足で逃げだす様な美しさに比べれば、たとえどんなイケメンだって…
―――― ああ見せたい! 写真持って見せてやりたい! それこそ、全世界中にでも見せびらかしてやりたい!! これがね~ これがあたしの好きな人なんだよ~って! そ、それが出来ればこんな苦労は…!!
一人、とんでもなく不可能な事を、思わず知らずつらつら考えてしまったあたしを見ながら、真由美が大きなため息をまたひとつ。
「――――― あ~あ。ま~さか、こんな事になるとはねぇ~ センセ落とすより、周りのライバル蹴飛ばす方が大変なんて思ってもみなかったわ」
ぐびっ!
おい… 何時の間に日本酒なんぞ注文してんだ。しかも冷酒。小さなグラスにガラスの徳利から少し黄色がかった透明な液体が惜しげもなく注がれる。
「それ、なに?」
「久保田」
「ずるい! 大将!あたしにもグラス!」
ぐびっ…
うう… 美味しい…
水よりもまったりとして、しかもさらっとのどを焼く様な呑み口が… れ、冷酒、さいこー!
ようやく更新出来ました。今回は少し中途半端…と言うより前振りです。この次からこのターンのメインへ入ります。
でも、頑張った…と思う。思いたい。一応予告通り五話分…なんとか、なりそうなところまで持ってきました。
この後8/30.9/1.9/3.9/5に一話ずつ更新していく予定です。とりあえず、きりのいいところまで…
5日の分以外は、後書を付けずに更新していくつもりですので、ここで、注意書き。シリアス…とまではいかないと思いますが、精神的にキツイシーンなど出てくると思います。どうかご了承ください。
何時の間にか、ユニーク40000超えさせて頂いてます。また、お気に入り登録や評価。凄く凄く嬉しいです。本当に励みになります。ありがとうございました。