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その十四 大地と馬と

お久しぶりの更新です。

今回、会話が少なめですが、良ければ我慢して読んでやってください。

馬は良い。

きちんと愛情を込めて世話をすれば、必ずそれに応えてくれる。

だから、昔から馬の世話は苦にならなかった――――――― とは、ユーリーの心の声。



今、ユーリーとあたしは、職場兼住居である第一騎士団の隊舎のうまやに居る。

いつものように―――――― あたしは、また、夢の中。


前にも言ったことあるかもしれないけど、厩の番をしてくれてる厩番のじいさん(なんていったら怒られるけど)の補助的な役割を勤めるのも、見習いたるユーリーの大事な仕事の一つだ。厩の番をする人間は、それこそ何人も此処で働いてはいるけれど、馬の世話なんて、人手がいくらあっても余る事なんてありゃしない。それこそやろうと思えば仕事など、いくらでも出てくるような環境だ。


此処に居る馬は、それぞれが持主たる騎士が誇る名だたる名馬ばかりであり、王宮の―――― それこそ、王家の厩にも匹敵するほどの規模と威容を誇っている。それを、一手に引き受けて采配しているじいさん(名前?そんなもの忘れちゃった。だって、本人は『長』と呼んでくれって言ってるし、あたしは『じいさん』で通してるもん)は、この厩の中では、誰よりも偉い人なんである――――― それこそ、騎士とはいえたかだか見習いでしか無いユーリーなど、顎で使ってしまえる程に。


ま、それも当り前か。

こっちの世界には、電車も自動車も、もちろん自転車すらも無いからね。移動は馬か馬車。そうでなければ徒歩。歩くしかないのだ自分の足で。


それを実感した時は、この世界の人の丈夫さに思わず脱帽いたしました。

だって、ただ歩くんだよ。何処に行くにも、ひたすら自分の足だけで。


ユーリーに初めてそれを実践された時、あたしは自分の体力を使った訳でもないのに、精も根もつき果てた思いがしたもんだ。だって、半日以上歩き続けて、それが当り前って状態で。

確かに疲れちゃいるけれど、そうしなければ目的地なんかには着かないから至極当然といった状態で。一日だけの遠足とかじゃなくってね。ただ、何処かへ着く為だけに、歩く。歩く歩く…そうよ!歩く事って、実は紛れもなく移動の手段だったんだわって、思いっきり教えてくれちゃった。

この時ばかりは『負けた…』と思っちゃったもんね。いつもは、あたしの方が保護者みたいな気持ちでユーリーの中に居たからさ。結構マジに悔しかった事を思い出す。


せめて、自転車があればな~なんて、本当に切実に思ってしまった事を思い出す。――――― 自転車の原理って、結構あたしなんかでも解りそうな気がしない?


実は、なんとかしてこっちで造れないかと真面目に考えちゃったりしたんですよ、わたくしは。だって、絶対便利だと思わない?! 

自動車とか電車とかそんな複雑怪奇なのは、流石にあたしの頭じゃはなっから理解するのは無理だとは思うけど、自転車ぐらいならなんとかなりそう…

なんて考えて、我に返ってちょっと待て。

出来る出来ない言う前に、原理の理解の言う前に!

『誰が、どうやって、造んのさ!』―――――― と思わず自分で自分に突っ込んでしまいました、その時は。


な~に忘れてんだか、あたしってば。自転車を造るだの造らないだの言う前に、もっと大事な事がある。

そうですよ。そうなんです。

そもそもどうやって、それをする? あたしは、此処に、居ないだろーが 実際には!!。


――――― 忘れてやしませんか?神部さん。あたしは、こっちの世界では何ひとつ動かす事が出来ないんですよ? 物はおろか、人も気持ちも知識でさえ――――― それこそ、こうしてお邪魔しているユーリーの夢、一つすら。


ああ、なんてもったいない…… とか、その時思ったあたしは罰あたり?

だって考えてもみてください。例え自転車であったとしても。あんな便利な乗用機械、こっちの世界で発明なんてしちゃったら。完全ではなくても、それらしいものが造れたら…


――――― あたしってば、マジ、凄くない? 天才秀才、歴史に残ったりしませんか? 


そんでもって造った自転車、アレクに見せたりなんかして、「これは便利だ」とかって認められたり褒められたりして。あんまり便利だからって、「大量生産出来ないか?」とかって相談されたりなんかして。


そうなったら、もう、工場とか作っちゃって、造り方とか皆に教えて『先生』なんてよばれちゃって。特許とかパテントとか登録商標とか独占して、教える代わりにその対価を払ってもらう事にして。自転車一台に付きいくら、とか。十台造ったら、これだけ、とか。そこまで行ったら、ほっておいても、あたしは見る見る国一番のお金持ち――――― ……すみません。余りに即物的過ぎました。


これだからダメなんだよね~ 世間ずれした大人って――――― いや、駄目な大人はあたしだけか。

ともかくも、遠大な妄想の果てのあたしの大金持ち育成計画は、本当に頭の中での計画だけで頓挫致しました―――――― 今思えば、あまりにばかばかしいけれど。


ともかく。

そんな事情の世界だから、馬ってものは今の日本からでは比べモノにならないくらい生活に密着している貴重で大事な生き物だ。特に、騎士とかって仕事は、本当に馬が無いと始まんないしキマらない。


向こうの現実世界で、ファンタジーとか戦記とか読んで、一応理解したつもりだったけど、やっぱり実際にそれを体感するのとは大違い。だから馬は、これ以上ないくらい大切にされているし、値段も高価だ。それこそ、あたしが現実の日本で見る、その辺の車なんかよりよっぽど重要だし、必要だ。


だから、見習いは馬の大切さを再認識する意味も込めて、しっかりその仕事の手伝いをさせられる、らしい。――――― まあ、あたしが見る所、これって一つの試験みたいに思えるんだけど。


騎士が立派な騎士である為に――――― 自分を支えてくれている人々の力を知ること。ちゃんと、その事に感謝できること。正確には騎士の仕事ではないだろうこれらの事を、きちんと腐らずにやりとげる事が、ここに入団して良いと言う隠れた条件――――― って思うのは、あたしの穿ち過ぎかしら。


だって、ユーリーと一緒に見習いとして此処に来たのって、実は後二人ばかりいたんだけど、一か月もしないうちにさっさと別の部署に廻されちゃったりしてんのよ。ユーリー以上に、結構良いトコのお坊っちゃんたちだったのにさ。確かに、何かって言うとすぐサボってばっかしの役立たずのボンボンだったから、いない方が楽って言ったら楽なんだけど。


だから、今現在、第一騎士団ここで、見習いを続けてるのって実はユーリー唯一人。あたしが言うのもなんだけど、この子は働くことを骨惜しみしたりしないからね。時間はかかってもしっかりきちんとやる様に―――― って、これは故郷くにの母上様の口癖なんだけどさ。


いや~、実はあまりに良い子過ぎて、あたしだってこの子の中に入ってその感情まで共有してなかったら、思わずその性根を疑ってかかったりしてるかも。


でも、中に居るからこそわかる。

この子は、ただ、一生懸命なだけだって。


馬の世話に関しては、これはラッキーなんだよね。故郷の家に居る時から、馬の世話はユーリーの仕事だったんだもの。一応彼の家にも使用人は何人かいたけれど、主を失くした貧乏男爵家には、それこそ何人も厩番を雇う様な余裕なんて無かったから。




堅い布で馬の背を撫でているユーリーを、あたしは彼の中から彼の目線で眺めてる。

馬って、思ってた以上に綺麗な生き物なんだよね。こうして、傍で見るまで、思ってもみなかったけど。

つやつやと光る皮膚、なびく鬣。あっちの現実世界で、馬とこんなにも近くでお知り合いになる事って普通の生活してたら無いもんね。慣れている所為で、ユーリーは馬を怖がらないし。怖がらなければ、馬の方でもユーリーに心を開いてくれているみたい。


結構賢いのよ、馬って。自分を嫌ってる人間や、怖がってる人間がすぐわかるんだもの。

あたしだって、最初はほんとに怖かった。思った以上に大きいし、言葉が通じる訳じゃないしね。

でも、流石の野生の本能も、ユーリーの中の規格外なあたしの存在までは気付かなかったみたい。慣れた仕草で接するユーリーに、ここに居る馬たちはあんまり苦労する事無く懐いていったし…

――――― って、気づかれたらそれはそれで大変じゃん。あたしってば、何言ってんだか。


「―――――ユーリー」


世話に没頭していたあたしたちは、不意にかけられた声にびっくりして振り返る。


「団長!!」


――――― アレク~~~~~~!!!!!


いきなりですか!?

いきなり、お目見え?!


厩の戸口、差し込む日の光りを背に受けて―――――― おお!! 絵になる! カメラ! カメラがどうしてここに無いの!!

お久しぶりだね、あたしのアレク。本当にお久しぶりでお顔を拝見出来たんだから、この程度のアゲアゲテンション、どうか大目に見て欲しい。

この場合、ユーリー本人のテンションもやっぱり上がってしまってるから、その勢いたるや二人前?

いいの! だって、ユーリーもあたしも、『団長LOVE』なんだもん!


「お久しぶりです! お元気でしたか?」


あれ?これってあたしの台詞じゃないよ?


「…お前に、そう言われるほど私は此処に居なかったか…?」

「ああ、はい! いえ、あの…」


あらら… そうか。馬に気を取られ過ぎたけど。


そうね。ユーリー自身もアレクと会うのは久しぶり…だね。さりげなく探った記憶の中にも、此処んトコ、隊舎でアレクをお見かけした記憶が無い。


「ここのところ、王宮に詰め切りだったからな。情けない…」


こんな事では、団長失格だな――――― 心底、がっくりと来ているアレクの様子に二人して驚くと同時に焦ってしまう――――――― と、あたしが思う前に、ユーリーが焦ったようにその口を開いていて。


「い、いえ! 第一団の団長は、団長以外にはありません! たとえ、たとえいらっしゃらなくても、団長は、ここの、団長で! 僕…いえ、私は、団長がいらっしゃるからこそ、こうして此処でお世話になれて、凄く、嬉しいですし! 他のお仕事が大変なのはわかっていますから、長い間いらっしゃらなくても団長は団長で…!」


珍しい…

ポカンとした、アレクの顔があたしの視界に入る。


―――――― ユーリー、ユーリー。


いや、聞こえはしないだろうけど―――――― ごめん、突っ込んでいい?

舞い上がって、何言ってるか整理できてないよ、君。


プッ…っと小さく噴き出す音がしたとおもったら―――――― これまた珍しい… アレクが声をあげて笑いだしている。


「ありがとうユーリー。持つべきものは、良く出来た従者だな」


――――― うわ……


鏡を見た訳じゃないけれど、ユーリーの顔が思いっきり紅潮して行くのが感覚としてわかっちゃう。

今頃、きっと、真っ赤だね。言いたい事を整理して話すべきだとは思うけど、これ、掛け値無しのこの子の本音だし。


クックックッと、まだ笑い続けてるアレクの様子がなんだかすごく楽しそうだから、この際、あたし的には良しとしちゃおう。アレクのこんな楽しそうな笑い顔なんて―――― …眼福眼福。当分これで、あたしも楽しく暮らせそう。


「ユーリー、今、動かせる馬は有るか?」

「はい。団長の馬はどれでも大丈夫だと思いますが… 何処かへお出かけですか?」


真っ赤な顔のまま、そう答えたユーリーに決して他意は無かったんだよ。


「お出かけか…」


そうオウム返しに呟いたアレクの顔が、一瞬だけ何か企んでいそうに見えた… なんてのは、きっとあたしの気の所為で… 


「そうだな。たまにはそれも良いか」

「は?」

「そうだ。お前も一緒に来い」

「はい?」

「遠乗りだ。少し飛ばして来たくなった。ユーリー、付き合ってくれるな?」

「え?あの、団長?」


忙しいって言ってなかったっけ? 遠乗りって…そんなの行っちゃって大丈夫?

口に出さないあたしたちのそんな問いかけを解ってしまっている様に、アレクは彼にしては珍しい笑みを返してきた。


「たまには私が逃げても罰は当たるまい。馬には乗れるな?」


その、何処かいたずらっ子の様な微笑みに、あたしと―――――― そして、ユーリーが勝てる訳が無い。


「は、はい!」


あたしたちは思いっきり大きな声で返事をして、慌てて馬具置き場の方に駆けだした。






やっとカメ…更新です。

ええ… やっと、書けました。今回本当に会話があんまり無いんですが… 最後に、ちこっと出せましたので、次回、しゃべってもらおうと思ってます。 どうしてこう、説明文が入ってしまうのか…

おかげで、PV10万アクセス突破いたしました。来て頂いている皆様、ありがとうございます。次は、もう少し早い目の更新を…頑張りたいです。

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