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その十三 -2

はい。予告通り続きです。


真面目にお腹は減っている。

もう既に、待ったなしって感じまで。


小難しい話はね~ 腹ごしらえのその後その後。さ~て、「いっただきま~す!」――――― はい。ご挨拶は忘れずに。


ビールも手っ取り早く来て、なんとなく二人で乾杯なんかまでやっちゃって、其処からはただひたすら、もそもそもそもそ、自分の食欲を満たすことに終始する。


「あ!このつくね美味しい… ちょっとはまりそう」

「ああ、それ? 隠し味にしそが入ってんだよね。あたしも好物… 一つ頂戴」

「一つだけよ。じゃあ、代わりにその煮付けの味見させて」

「これ? いいよ。食べてみ」

「ん… う…思ったより食べやすいかも… あたし、魚苦手だったけど、これならいけそう」

「正直に美味いって言ってみな。天下の石鯛様だぞ。ここのオーナー、魚料理にかけては、ここらへんじゃ右に出るもの居ないんだからね」

「病院の御用達ってのもわかるわ~ 近いし安いし、美味しいし… 此処にして良かった」

「此処にしてくれてよかったよ。変なバーとかに連れ込まれたらどうしようかと思った」

「何気に失礼ね」

「いや、思ったまんまだけど」


もぎゅもぎゅもぎゅ…

食べるって行為は、人と人の垣根を少し下げる効果が有るのかもしれない。ついでにそこに適量のお酒が有ればなおさらね。

あたしは基本的に、食べてる時あたしを不快にさせない人間は無条件で好きになる。その定義に従って行けば、思いもかけずこいつってば合格ライン。あたしは、ご飯を美味しそうに幸せそうに食べる人は大好きだ。


「…しっかし、あんた、結構量いけるのね~ ダイエットとかって目の色変えそうなタイプなのに」

「それなりには気を使うけど… 食べる分は運動で消費するようにしてる。この体型維持するの、それなりに気を使ってんのよ」

「いや、気を使ってもらわないと困る。何にもしないでそのナイスバディって言ったら、あたしたち、普通の女の立つ瀬がない―――――ちなみに、バストのサイズ、聞いていい?」

「…男だったら思いっきりセクハラ発言よ、それ」

「いや、男でも女でも、気になりますでしょう」

「…70のE」


うわっ…やられた…

流石と言うか何と言うか…


「お返しに聞いてあげる、あんたのサイズは?」

「…ノーコメント」


悪かったな。どうせ75のBだよ! 自分で話振っといてなんだが、こう言う時は話題を変えるに限る。


「――――― で?そろそろ本題にまいりませうか?」

「本題?」

「あたしへの御用件。一体何の御用でしょうか?真由美サン」


逃げたわね…

あからさまな非難はこの際こっちへ置いておこう。何と言われようとも、自慢できない事を答えるつもりはありませんぜ、おねーさん。


「あらたまって聞かれるとなんなんだけど… この際だから、聞いとくわ」


はい。なんでしょう。


「有里って、山本センセと付き合ってんの?」


――――― は?


なんて、おっしゃいました…?


「…え~と、どう言う事でしょう…?」


なんだか、同じ様なセリフをどっかで聞いた様な気もするが…


「どう言うって言葉通り。山本先生はあんたの彼氏かって聞いてるの」

「~~~~~~!!」


本日、二度目の撃沈。


「あ…、あ…、ありえないだろう!それ!!」


今日は何? なんかの厄日なのか!?


「え?違うの?そうだって聞いたから一応確認をと思って」

「何の確認だ、それ!…って言うか、いったい病棟での会話はどうなってるんだ!」


たしか、これって今日の昼休みにもお聞きしましたよね。ええ。たしか深山さんから、ああもうはっきりと!


「ない!ぜ~ったいにない!金輪際ない!何が起こってもありえない!」

「…おっそろしいまでの否定形だけど、もっぱら病院では評判よ?あんたとセンセが付き合ってるって」

「どこがどうしたらそうなる!」

「だって、良く一緒に呑みに行ってるって」

「弱みに付け込まれておごらされてるだけだ!」


実際は一度もおごった事無いけど。


「よくしゃべってるって」

「どつきあいの口げんかだろうが!」

「名前で呼び合ってるし」

「腐れ縁! もう十年来の知り合いなんだから仕方なかろうが!」


ぜーぜーぜー…


「奴はね、あたしの兄貴の友達なの! おかげでもう十何年もしたくもないのに顔突き合わせてんの! あれは、天敵! そう!あたしにとっちゃ、紛れもない天敵だかんね!!」


良く言えば腐れ縁。悪く言えば――――― もう、これ以上有り得ないくらいの天敵さん。マジ、これ決定。


ああ…もう!何処をどうとったら、そんな話になるんだか…

あたしの平穏を、返せ! あのバカ!


「――――― じゃあ、狙ってもいい?」

「はい?」

「あたしが、おとしても良い?」


真顔で、真由美があたしを覗き込んでくる。うわ…


めれ… あんたのアップは女でも落ちそう…」

「うふん。ありがと」


一応褒め言葉と取っておくわ――――― な~んて、にっこり笑ったお顔がなんか怖いですよ、真由美サン。

初めて、剛史を真正面から狙ってくる肉食女子を拝見しました。

ちろ…っと赤い舌がグロスを塗った口もとから覗いて… 

エ、エロいよ!! マジ、エロい! 流石、エロ川! 絶対に言わないけど――――― 君は凄い!


「まあ、せいぜいがんばって」


どうせ他人事ひとごと他人事たにんごと


「…というか、剛史ってそんなに魅力的?」


あたしはそうは思わないんだけどな~

なんて事が、思わずぽろっと口から零れ出る。その途端、猛烈な勢いで反論を浴びせられた。


「何言ってんの!あの身長、高学歴に高収入!使い古しだけど三高のそのトップに君臨するお医者様よ! 狙わなくってどうするの!」

「…その分、悪食の毒舌家だけど」

「ノープロブレム!そんなもん許容範囲の内でしょう!」


――――― あ、そーですか…

そーゆーもんなんでしょうか?世の中は。


あいつの性格とか、嗜好とかってのはこの際あんまりかんけーないのんか?

それはそれで、なんとなく、腑に落ちないと言うか、納得いかない様な気もするんだが…


「…でもさ~」


一応、思いついたから言っておこう。


「あれ落とすんなら、あんた少し方向性間違ってるような気がするんだけど…」


――――― なんでだろ。

言うつもりの無かったこんな事が、思わず口から飛び出した。


「剛史のね~ 女の趣味って、あんたみたいなタイプじゃない様な気がすんだけど」

「え?なに?そうなの?何で知ってんの?」

「いや、実際に聞いた訳じゃないけどさ」


口に出してからびっくりする。

こんな事に口をはさむつもりはこれまで全くなかったと言うのに。


「あいつ、兄貴の友達だって言ったじゃん。どうも、似てるらしいんだよね、趣味とか好みとか…」

「だから?」

「だから、えっと、あの…」


うわ…

ヤバい。これ言うつもりなかったんだけど。


「何よ。はっきり言いなさいよ」


此処まで来たら誤魔化しなんて、無しだからね――――― はい、ごもっともです。

うう… 近来まれにみる失言だぞ、あたしってば。


「…あのさ。間違ってたらごめんだけど」


こうなったら、洗いざらい言っちゃうよ。


「あたしらが中一の時、当時中三だった神部祐樹―――― あたしの兄貴、追っかけまわしてた東中の平川ってあんたのことでしょ?」

「~~~~~~!???」


途端に、真っ赤になって慌てふためく真由美の顔に溜息一つ。

…ああ、やっぱし図星でしたか。世の中って、ホントに狭い。


「な、な、な… 何で知ってんの!」

「いや、あん時、ウチの兄貴、マジ、本気で逃げ回ってからねぇ~ 実はとっても良く知っている」


それこそ、あんたが知らない様な事までね。


兄貴が中三になったばかりの5月ごろだったかな。それから、だいたい半年余り。これでもかってくらい追いかけまわしてくれたって話を、実はあたしは剛史から聞いてんだよね。

元々そう言う恋愛関係に全く免疫が無く、思いっきり疎かった兄貴にとって、それは嫌がらせ以外の何物でもなかったって事は…やっぱり流石に言えないか…

兄貴ってばあの時、ノイローゼ一歩手前まで行っちゃってたんだよね。これも絶対言えないけど。


「あんたが『ゆり』って呼んだ時に確信したんだけど。別の中学行ってて、あたしの名前知ってるのって、兄貴関係ぐらいしか思いつかないし」


訥々と、一応言葉を選びながら言ってみる―――― あれれ? 真由美さんてば顔真っ赤。

ううん… 流石に恥ずかしい過去だよな~、これって。


「まあまあ…古い話だし… ごめんね~古傷抉っちゃって」


きっと、真由美にとっても若かりし頃の暴走って事で、収まってるんだろうから、この場でこれ以上追及しようとは思わない。いや、兄貴にしてみたら、また違う感慨が有るだろうけどさ。


しみじみ一人で、過去の感慨に浸っていたら、やがてポツンと真由美が呟いた。


「……ゆうきさん、元気?」

「へ?」

「…えっと、その…神部さん…今、その…」

「ああ、兄貴?」


少しは悪いと思ってるんだろうな~、これって。

あたしは、少し安心して、聞かれた事に答えて行く。


「兄貴はまだ一緒に住んでる…って言うか、あたしら二人とも、まだ実家に居るし。今はね~なんか、高校の教師なんてやってる。専攻は理科。若い女の子に囲まれてる癖に、年中モテナイって騒いでてさ~」


あはは…

との笑いに、真由美は乗ってこなくって。


あの、すみません。何かしゃべって頂けませんか?

何となく、場が持たないんですけれど…


ごほん。と咳払い一つして、あたしは本来の話題に返る事にする。今話してんのは、兄貴の事じゃない。剛史の事、剛史の事… どうやら、真由美の聞きたい事もそれだったようだから。


「―――― ともかく。あの二人の趣味って似てんのよ、どうやら。どっちかって言うとあんたみたく『女』って感じじゃなくてさ。どういうのかな~こう…清楚?とか、つつましやかとかそっち系が好みみたいよ」


正面切って聞いた事無いけど。


「………」


…あの、そんなに本気で考え込まれても困るんだけど。


「ま、まあ? あたしが言うのもなんだけど、あんた本当に美人だし、色気も有り余るほどあるから… え~と、剛史は、うん。剛史はね、落ちるかも」


兄貴は無理だけど。

ええ、これも関係ないから口には出さないで心の中で言ってみる。


実は此処だけの話、うちの兄貴がモテナイのは、さりげないアプローチって奴に免疫がなさすぎるせいだとあたしは常々思ってる。そのトラウマの原因が、何を隠そうここにいらっしゃるこのおねーさんの余りにも強引なアプローチの所為だってのは――――― やっぱり言わない方が良いだろう。

さりげなく少しだけ強引な女の子じゃないと…って、あんたは何処の乙女だって兄貴に突っ込んでしまったのは一回や二回じゃない。

理想のタイプが某ラ○プラスの姉○寧々さんだってことも―――――― 絶対言っちゃいけないよね、これ。


「ま、まあ、とりあえず呑もうか」

「う、うん。そーねー、つきあったげる」

「日本酒イケる?」

「ばっちり」


すみませ~ん、追加おねがいしま~す。

大声で、馴染みのバイトのにーちゃんに声をかける。


なんだかな~――――――― なんだか、言っちゃいけない事とか、聞いちゃいけない事とか、一杯言っちゃったり、聞いちゃったりしたみたいな?


「と、とにかく、呑もう!」

「賛成!」


呑んで忘れよう!―――――って、出来る訳ないけどさ。


なんとなくなんとなく。

何かが動いた気がする夜だった。






無事、仕上がりました。更新成功!―――― よ、よかった、出来た…

文字数を見てみたら、分けて正解… すんごく長かった。

次は夢…かなあ… もう、出たとこ勝負です。宜しくお願い致します。

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