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その十二

「――――― 失礼します」


と、ドアを開けて入ってきた人物を見て、あたしは本当にびっくりした。


いや、別に、知ってる人間が急に訪ねて来たとか、会いたくない奴が大挙してきたとかじゃなくて。

入ってきたのはたった一人。

しかも、女の人だったんだけど。


―――――― な…な…な…


なんちゅー、スタイルしとんねん、われ!――――― い、いけない… つい、昔近所のテキヤのにーちゃんから習った、関西弁、柄悪いバージョンが出てしまいました。


し、しかし。

そこに、にっこりと立つナース服をお召しになった女の方の風情と言ったら!


ボン! キュ! ボン!ってこういうの?

思いっきり飛び出した胸と、張り出した腰のラインの真中で、きゅっと引き締まったウエストが信じられないくらい細く見える。

えっと…この病院。それ系のナース服って置いてたっけ? え?なに?これ普通の標準服?普通のナース服が、どうやったらこんだけ悩ましくも身体の線を強調してしまうんですか!?

ピ、ピンク… そう、いっそピンクのナース服でも着せといたら余りにもぴったりじゃないですか!おねーさん!

しかも、お顔もそれ系に、大人のお色気満載って感じの美人さんですね、あなた…

その美人さんが、事務室の中をゆっくりと見渡してからにっこり笑ってお口を開く。


「こんな所にいらしたんですか?山本センセ。お探ししましたよ。午後の診察の手順など、しっかりお聞きしたくって」


―――――― うわ~~~~っ!!


これは、エロい! まじ、エロい!!

こえ! こ、声までマジにクる… 

いやもう下品で申し訳ないけれど、女でもこれだけきちゃう声ってどうよ! 某有名な泥棒振り回す悪女を彷彿とさせてくれますがな。

一体全体、全身これ、エロ!――――って感じのこのお方は…


「や、やあ。平川さん… す、すぐに行くつもりだったんだけどね… 俺にも、色々予定が有って…」


――――― 怯えてる…


なんて珍しい。あの剛史が思いっきりビビってる。

剛史、あんた何ヘタレてんの!―――――って、気持ちわかるけど。これだけの迫力で来られたら、なまじの男は引くかも…って、それはそれで情けなくないか?


この美人さんが剛史をその方向で狙ってるってのが、この短い時間でも、ビンビンと部外者のあたしにでも丸わかり。男なら、思いっきり喜んでみんかい!甲斐性無し!


いや、しかし凄い事は凄い。一回とっ捕まったら、もう逃げられないって感じ?

こんなにはっきり剛史にモーション掛けてきた人も初めてだが、それがこんな強烈な方とは。


…でも、いったいどなたさんで?―――――って言うか、こんな看護師さん、この病院にいたっけか?


「こんにちは、平川さん。あなた、病棟じゃなかったかしら?」


にっこり笑いながら、自分から声を掛けられるあなたが凄いです!深山さん!


「こんにちは、深山サン。実は山本先生、午後から病棟担当ですの。ですから、お仕事に少しでも落ち度がない様に、あらかじめ注意点をお聞きしておこうと思ってお探ししてたんです」


まだ、慣れないものですから…


――――― あの~… 言ってる事のしおらしさと、態度と声音が一致しないんですけど~…


「…深山さん、どなたです?」


本当はこそっと聞きたかったんだけど。

でも、本人の目の前で内緒話なんて事は出来ないし。一応同じ職場なのに、名前も知らないままで…ってのはいただけない。…でも、なんで深山さんは知ってんの?

その疑問には、深山さんがあっさり答えてくださった。


「ああ。神部ちゃんは、月曜日ちょうどおやすみだったものね。その時に紹介があったのよ。七月から入られた平川さん。外科病棟の担当になった筈…でしたよね?」

「ええ」


にっこり。

…蛇とマングース…? 

にっこり同士のその微笑みが怖いってーの!


「平川さん。こちらはこの病院のもう一人の栄養士の神部さん。よろしくね」

「…初めまして」

「初めまして。平川真由美ひらかわ まゆみです。よろしくお願いいたしますね」


またまたにっこり。笑顔になんか含みが有る様な気がするのは気のせいでしょうか…

え~と…これは牽制って奴ですかね。

ご心配なさらなくても、あたしには剛史これに手を出そうなんて考えはこれっぽっちもございませんから――――― なんて、言ってやる義理もないから言わないけどね。


でも、あれ?

なに…?

なんか、この人、引っかかる…んだよね。

どっかで… う~ん…どっかで会った事が有る様な…


「さあ、山本センセ。ここではなんですから、場所を変えて、指導していただけますかしら?」

「いや、あの…それがですね…」


おお! 心底剛史が押されてるぞ。有る意味強者つわもの――――― いや、剛史ってばこういうタイプが苦手だったのか? 

有る意味蚊帳の外での攻防は、所詮他人事ひとごとの外野席。せいぜい楽しんでしまおうかと思ったんだけど。


―――― でも、やっぱり。

うん。絶対あたし、こんな感じ知ってるぞ。

前にも有った。確かに有った…!

え~と…平川…?

平川…ひらかわ…ひらかわ… …かわ…


「あ~~~~~っ!!」


思い出した!

思いだしちゃったよ!


「エロ川!?」

「なんですって!?」

「やっぱり、エロ川!!」

「なんで、そのあだ名… え…? 神部…? 神部って… もしかして、ゆり!? あの男女おとこおんなの!?」

「男女って言うな!」

「そっちこそ、昔の変なあだ名出してくるんじゃないわよ!」


間違いない…間違いない!

こいつ、高校で一緒だった同級生だ!

お互いに所属集団が違い過ぎて、余りにも接点がない…筈だったのに。


有る一点に置いて、あたしは彼女を知ってるし、きっと彼女もあたしを知っている筈。


「なにしてんのよ!こんなとこで!」


さっきまでの甘ったるい声じゃなく、結構ドスの効いた怒鳴り声でエロ川が叫ぶ。


――――― おねーさんおねーさん。

今までのしおらしさは何処行った?


「いや、それはこっちの台詞。あたしゃ、三年前からここで働いてんだけど」

「え?! マジ!? 知らないし!そんな事! 何で居るのよ!」

「なんでって、就活して入れたから」

「そんなこと聞いてるんじゃないわ! なんで、此処なの!」

「それ以外、受けなかったから」

「だから! そうじゃないって言ってるでしょ!!」


なんか、相手が興奮すればするほど、あたしってば変に冷めてっちゃうんだよね。


「まあまあ、落ち着いて。あんまり興奮すると、化粧はげるよ?」

「だ、誰に行ってるの!」

「あんたにだってば。え~と、エロ川?」

「だから、その名で呼ぶなって…―――――! あ~!山本センセ!!」


その声にふっと、目線をドアに向ければ、


「そ、そろそろ、午後の回診なんで… すみません。お邪魔しました、深山さん!」


ぺこりと深山さんにだけ・・・お辞儀をして。


「「あ―――――!」」


―――――― 逃げた!


逃げやがった。

おい!お前が当事者だろうが!!


「うん!もう!!! 折角捕まえ掛けたのに!! いい!? あんた!罰として今日、あたしに付き合いなさい!!」

「はあ!?」


びしっ!と人差し指を突き付けて、思いっきり高らかにされた宣言にあっけにとられる。


「ちょ、ちょっと! あんた、何言って…」

「仕事終わったら迎えに来るからね! 逃げんじゃないわよ! 良いわね!」


お邪魔しました!

それでも、しっかり深山さんには挨拶をして行ったのは、社会人として、上出来だとは思うけど…


「…なんなんですか…?」


え? あたし、今晩あいつに付き合わなきゃなんないって事…?


「さあ、なんなのかしらねぇ」


独り言の様に漏れたあたしの言葉に、律儀に深山さんは応えてくれて。


「とりあえず、今日の残業は無しにしてあげるわね」


後で報告、よろしくね~


「深山さん…」


あたしはこの場合、良い上司を持ったって喜ぶべきなんでしょうか…?


言葉もなく突っ立っているあたしを置いて、深山さんは足音も軽く、午後の業務に出て行った。









今回、同時更新。

また、新キャラです。私的には結構お気に入りのキャラなんで… この後、結構出てきそうです。

次は、やっぱりノミュニケーションのシーンになりそうです。


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