その十一
今回、二話同時更新です。
「匿え!」
―――― って、いきなり人のテリトリーに入ってきておいて、第一声がそれかい!
「やなこった!」
一昨日きやがれ!
売られたケンカはかってやるぜ、三倍がけで!
「ちょ、ちょっと神部ちゃん。いきなり『やなこった!』ってのはあんまりでしょう。どうかされたんですか?山本先生」
とりなす深山さんのお言葉が耳に刺さりますが…
あたしとこいつとの因縁は、何度も言いますがもう十年越し。
素直に反省なんぞするには、あたくしも少々トウが立ち過ぎておりまして。
そのままの、思いっきりケンカ腰の姿勢で、飛び込んできた剛史を糾弾する。
「で、なに?一体何の御用? 仕事に関する事以外は、受け付けたりなんぞしないからそのつもりで」
「しょっぱなから、ケンカを売るな!このバカ娘! 聞いてないのか!頼むっつったろうが! しばらくでいいから、此処に居させてくれって言ってるんだ!」
「は? なんで」
「いいから! 訳は後でちゃんと話すから!どっか隠れるトコって…ないか?ないのか?!」
「ちょ、ちょっと待て! そんなでっかい体で何机の下なんかに潜ってんのよ! それって、隠れた事になってないから! って言うか、思いっきり見えてるし!」
何なんだ、いったい…
いきなり人の机の下に潜り込もうとするなんて。自分のガタイを考えろって!
いや、もうそれ以上に、情けないから止めてくれ。ナース達の夢を壊す気かい! 一応あんた、この病院では若手ナンバーワンなんだから。
とりあえず話を聞かにぁあ治まるまいと、あたしはしゃがみこんだ剛史の横に同じようにしゃがみこむ。
「いったい何があったってーの? あんたみたく図太い奴に、怖いものなんてあったっけ?」
「人を人外の化け物みたくゆーな! 俺にだって怖い物や苦手なものはちゃんとある! ――――― そもそも、何で俺が、こんな風に逃げ回らなきゃならない事態に陥ってると思ってるんだ! 責任取れ!」
「ああ!? なんで、あたしが責任取んなきゃなんないの! って言うか!意味不明! もうちっと、日本語勉強してこい!」
「成績について、お前にどうこう言われる筋合いはない!」
「なんだと!? やっぱりケンカ売ってんのか、こら!」
「やるか!?」
「やってやる!」
「―――――― 二人とも、論点ずれてるし…」
呆れた様な深山さんの言葉に我に返る。
ヤバいヤバい。
一瞬頭がヒートアップしちまったぜ…(一瞬か? いや、そこ、突っ込むとこじゃないし)
「で、山本先生。落ち着いて状況を話していただけますか? こちらとしても、何が何だかさっぱりわからないんですが」
「…深山さん…」
振り返って深山さんを見た剛史の眼はまるで小動物の様。
―――――― なんか、地獄に仏って感じだぞ。本当に大丈夫か?
「すんません。何も言わずに、しばらく此処に居させてください。お願いします」
「それは、まあ、仕事に差し支えなければ、かまいませんが…」
なんとも、歯切れの悪い深山さんのお返事に、剛史が改めて口を開こうとしたその時に。
トントン。
軽いノックの音。
「失礼します」
それと同時に開けられたドアの向こうの人物に、あたしは思いっきり驚いたのだった。