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遺された音源  作者: なやまじ


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希望のナビゲーション

 坂本探偵事務所には決まった定休日がない。顧客からの依頼は曜日に左右されないものも多く、中には土日限定の依頼まであるからである。ただし業務がなければ土日は基本的に休日になり、また土日が出勤日になった場合は平日に振替休日をもらえる。それは、普段から労働基準監督署に目を付けられているという事情があるためで、会社も極力休暇を附与しようと努力しているのである。

 振替休日となったある平日、裕一は住まいのある葛飾区から横浜に向かって車を走らせていた。父の焼香に来られた方々からいただいた箱菓子が母から段ボール箱で送られたので、その一部を横浜に住む妹の遥香に届けるためだった。最初から別々に送ればいいものを、宅配料金をケチって裕一にまとめて送ってきたのである。妹が荷物を運んでくれたら食事を奢ると言うので、父の楽曲調査の途中報告も兼ねて車を走らせていた。裕一の住む葛飾区金町から横浜市までは一般道で二時間近くかかる。

 都道三一八号線を南下し始めてすぐ渋滞に巻き込まれた。しばらく続いたノロノロ運転の後で、その渋滞の原因が工事現場での片側交互通行だとわかった。自動車のカーナビゲーションシステムの画面をみると、現在裕一がいる渋滞場所に赤い印が付いていた。カーナビの渋滞情報というのは道路交通情報システムによって警察や日本道路交通情報センターなどから二十四時間体制で収集・配信されており、ドライバーは走行地点周辺の渋滞場所を知ることができる。裕一はハッとした。渋滞理由は事故や天候、通行止めなど様々あるが、道路工事もそのひとつに含まれる。つまり渋滞場所を目的に車を走らせ、もしそこが道路工事現場ならば、そこには必ず交通誘導員がいることになる。

 裕一は車を方向転換させ、中野区方面へ向かった。妹にはSNSで到着時刻変更を伝えた。間もなく妹から返信メッセージが届いたが、読まなくても自分に対する非難だということぐらいわかる。

 やがて中野区内に入った裕一は目的もなく車を走らせて、カーナビが示した渋滞場所を訪ね歩いたが、いずれも自然渋滞ばかりだった。その一方で、せっかく工事現場に遭遇したのに、渋滞が起こっていないためにカーナビに表示されないこともあった。カーナビに表示のない工事現場に遭遇した場合に即応するため、裕一はスマートフォンでキャット安全警備の制服を調べた。彼らのグレイを基調とした制服を頭に叩き込み、突然目の前に工事現場が現れてもキャット安全警備か否かを判断できるように準備した。

 裕一は午後五時まで中野区内を走り回ったが、結局キャット安全警備の警備員を発見するには至らなかった。だが根気強くこのエリアを流し続ければ、いつか出くわすに違いない。

 横浜に到着した頃には午後六時を過ぎていた。妹が住むマンションの入口近くに車を停め、携帯電話で到着を告げ、母から送られてきた箱菓子を彼女の部屋に運びこんだ。

「こんな時間になると知っていたら、何も会社を休む必要なんかなかったわ」

 遥香は憤慨していた。この状況で妹に食事を奢らせるわけにはいかなかった。彼女を車に押し込み中華街を目指した。目的地を伝えると、妹は店に到着する前には機嫌を直していた。

 本格的な中華を味わいながら、裕一はこれまで自分が調べた成果を伝えた。妹は途中から目を輝かせ「よくここまで調べたわね」と感心していた。

「加倉田とペアを組んだことがある同僚のうち八人の氏名が判明した。この中に音源を渡した人物がいるかもしれない。彼等に一人ずつ接触してみるつもりだ」

「最大の疑問はその人物がどうやって音源を入手したのかということよね。物置にあったカセットテープには触った形跡がなかったわけだし。もしかしたら、パパが他のカセットテープにダビングしていたんじゃないかしら」

「遥香が言う通り埃をかぶっていたんだ。ダビングのために持ち出した痕跡はなかったよ」

「違うの。ダビングしたのは最近ではなくかなり以前かもしれないってことよ。その後、パパはあのマスターテープを他のガラクタと一緒に段ボール箱にしまい込み、そのうち物置に移したんじゃないかしら」

「昔カセットテープがダビングされていたということか」

「そう。何本ダビングしたのかは知らないけど、少なくともそのうちの一本が加倉田の手に渡ったのよ」

父は高校生の頃、バンドのために曲を書いていた。バンドで演奏するために、事前に各メンバーにダビングしたカセットテープを渡すことは十分に考えられることだ。

「キャット安全警備の同僚や関係者に、当時のバンドメンバーがいるのかもしれないな」

「バンドのメンバーであろうとなかろうと、業務報告書と葬儀の芳名帳に同一の名前があれば、そのパパと親しかった人物が加倉田に音源を渡した可能性はあるわね」

「お袋に芳名帳のコピーを送ってもらおう」

 食事を終え、妹をマンションまで送り届けると、裕一はその場から田舎の母に電話し、芳名帳の写しを送ってくれるよう頼んだ。

「ところで父さんから警備員の知り合いがいるという話を聞いたことない?」

 母はしばらく考えて、「さあ、あの人からそんな話を聞いたことはなかったわ」と答えた。

 数日後、芳名帳のコピーが郵便でアパートに届いた。さっそく警備報告書の控えと照合してみると、乙藤誠という名前がどちらにも記載されていることが判明した。ありふれた名前ではないので、同一人物とみて間違いないだろう。これは乙藤誠を介して父とプラチナエンブレムがつながったことを意味する。乙藤が父のバンド仲間だったら確実だろう。

 裕一は芳名帳に記された東京都足立区青井の彼の自宅を訪ねてみようと思った。

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