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遺された音源  作者: なやまじ


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盗作疑惑

 翌日、在来線と新幹線を乗り継いで東京へと戻った。父が高校卒業と同時に音楽活動を辞めたのなら、あのテープは高校卒業前に録音されたものではないのか。

(高校時代のバンド仲間なら、あの曲のことを知っているかもしれない)

 ひょっとしたら葬儀の参列者の中に昔のバンドメンバーがいたかもしれない。裕一は芳名帳を控えてこなかったことを悔やんだ。

『オセロ』について調べると、唄っているのはプラチナエンブレムというバンドで、作詞作曲者は加倉田良一というバンドでボーカル担当の二十五歳の男だった。ホームページを見ると、プラチナエンブレムの五人はそれぞれ地方から上京して知り合い、アルバイトで日銭を稼ぎながら中野のアパートで共同生活を送っていたらしい。長い下積みの末、ようやくプロダクションに認められデビューできたが、まったく売れずアルバイトを辞められなかったようである。また、加倉田良一の紹介ページによれば、彼はファンからリョウという愛称で呼ばれ、楽器店や警備会社、家電の訪問販売などのアルバイトをしていたようである。初めて目にする写真の加倉田は、黄色く染めた髪を肩まで垂らしている目の細い男だった。

 裕一は『オセロ』以前に発売されたプラチナエンブレムの曲をいくつか聴いてみたが、演奏はうるさく、耳に残る曲はひとつもなかった。そんな雑音を聴いた後で『オセロ』を聴くと、まるで突然変異のように素晴らしく聞こえた。だがそんな主観が盗作の証明にならないのはもちろんである。これまで音楽界に無数の一発屋が存在したのは、盗作などしなくとも神の悪戯で奇跡が起こることがあるからだ。

 裕一は盗作疑惑を自ら調べてみようと思った。手始めに、探偵事務所社員の立場を利用して、彼等が所属する山内プロダクションを直接訪ねてみることにした。坂本探偵事務所は尾行や浮気調査だけでなく企業信用調査も手掛けているので、探偵社の企業訪問はそんなにおかしなことではない。

 山内プロダクションの事務所は甲州街道に近い新宿区西新宿三丁目の古びた雑居ビルで、廊下にトイレ洗浄剤の匂いが漂っていた。階段を三階まで上り、廊下を突き当りまで歩いた。事務所までの壁にはプラチナエンブレムのポスターが何枚も貼られていた。プロダクションの稼ぎ頭に出世したのかもしれない。

 ノックをして事務所の扉を開けると、スタッフの若い男が振り返り「セールスはお断りですよ」と不愛想に言った。

「ある依頼者からプラチナエンブレムの盗作疑惑を調べてほしいと頼まれまして、お話を伺いにお邪魔いたしました」

 その男は「盗作って何のことだよ」と裕一を睨みつけた。

「きみ、失礼じゃないか」

 六十歳前後の髪の白い男性が後ろの席から立ち上がり、大きな声を出して近付いてきた。裕一は殴られるのではと身を縮めたが、名刺を差し出すと、それが彼の癖なのか、彼も反射的に名刺を差し出してきた。弱小芸能事務所というものは仕事を得るために名刺をばらまくと聞いたことがある。何かの拍子に声が掛かることを期待しているのだろう。名刺から、その男が山内プロダクション社長の山内翔太だとわかった。

「興信所というところは、調査先に知られないようにこっそり調べるものじゃないのかね」

「それは依頼の内容によります」

 調査手法に決まりなどない。より多くの情報を引き出せる方法が正解なのである。

「まあいい。どうせ依頼主はスバル芸能社だろう。ウチが売れたもんだから、あちこちであることないことをペラペラ言いふらしている乞食会社だ。おたくもあんなチンケな会社と取引して恥ずかしくないのかね。調査代金を踏み倒されるのがオチだぞ」

 改めて山内社長にプラチナエンブレムの盗作疑惑をぶつけてみたが、曲作りの過程には一切関わっていないらしく、本当に何も知らないようだった。もし知っていたなら、もっと言いわけがましい態度をとる気がした。

「加倉田良一さんに会わせていただけませんでしょうか。本人の見解を伺いたいのです」

「そんな馬鹿馬鹿しい目的のためにタレント本人に会わせる社長がいると思うか。何が会いたいだ。頭の弱いファンみたいなことを言いやがって。いいか、あの乞食社長によく言っておけ。乞食なら乞食らしく、テメエで食い物を見つける努力をしろってな。他人の成功に言いがかりをつける暇があるのは、決しておまえではないってな」

 芸能界では珍しくないのかもしれないが、山内社長はかなり個性的な人物に見えた。

「ところで加倉田さんはいまどちらにいらっしゃるのですか?」

「ふん、彼らはツアーで日本中を飛び回っているよ。何てったって売れっ子だからな。そちらで勝手に探せばいい。いいかね、君が言うように本当にリョウが盗作をしていたのなら、もうとっくに売れていてもよかったんじゃないのかね。何年かかったと思っているんだ。売れなかったという事実こそが、彼らの潔白の証拠じゃないかね。さあ、わかったらとっとと帰ってくれ。そしてスバル芸能社には、残念ですが盗作はありませんでしたと伝えろ」

 裕一は事務所から追い出された。バタンと閉められたドアの向こうから、山内社長が「調査料はたっぷりいただくんだぞ」と叫んでいた。

 数日後、プラチナエンブレムの公演予定を確認しようと改めてホームページを閲覧して、ある変化に気付いた。加倉田の職歴に記載されていた警備会社に関する文言が消えていたのだ。一方、ほかの職歴はそのまま残されていた。なぜ警備会社の文言だけが、裕一が山内プロダクションを訪問してすぐ削除されたのか。それは警備会社が盗作に何らかの関りがあるからではないのか。裕一は彼が働いていた警備会社の割り出しをしようと思った。

 しかし警備会社は東京都内だけで約二千社もあるらしく、これらをすべて当たるのは容易ではなさそうだった。しかも平成十七年に全面施行された個人情報保護法によって多くの企業が情報公開に慎重になっている。門前払いされることも少なくないだろう。加倉田本人に直接聞ければ話は早いのだが、素直に打ち明けるような人物ならホームページを修正したりなどしなかっただろう。

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