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遺された音源  作者: なやまじ


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自身の烙印

 年が明けると、裕一の元に山内プロダクションから著作権譲渡契約書が届いた。書類の送り主はプロダクションだったが譲渡の当事者は現在著作権者として登録されている加倉田良一で、被譲渡人は父になっていた。ただし父は故人であるため、相続人が代理人になる。

 著作権の侵害は親告罪であるから、創作者自身が訴えない限り盗作者は一切の法的罰則を受けないことになるが、創作者である父はすでに故人のため訴えることはできない。つまり、加倉田良一はあくまでも自分の作品であると押し通すこともできたのだった。

 加倉田良一は年末放送の国民的歌番組で『オセロ』の作詞作曲のクレジットが変わった件について、マスコミから何度も取材を受けていた。マイクを向けられた彼は、質問されるたびに「作者が不明だったので便宜上自分の名前を使っていたが、作者が判明したので変更しただけだ」と答えていた。意地の悪い記者もいたが、加倉田の回答は一貫していた。

 妹に書類を見せるために、裕一は会社帰りに電車で横浜まで行った。

 遺産相続は通常配偶者が半分、残り半分を子供たちで分割する。しかし裕一と遥香は母の生活を考え、相続権はすべて放棄していた。今回の著作権についても、母がすべて相続することになった。

「加倉田さんにとって『オセロ』は重荷だったのね」

 たとえ作者が故人であっても、他人の作品を自作曲だと偽り続けるのはかなりのストレスになることなのだろう。彼らが『オセロ』に続くヒット曲を生み出せなければ、世間はあっという間にまぐれ当たりの一発屋の烙印を押し、いとも簡単に記憶から消去するのだ。

「作者はともかく、彼らが『オセロ』により全国的な知名度を得たことは事実なんだ。その優位性を活かしながら、自分たちのやりたい音楽を世に問うていきたいと思ったのだろう」

 この著作権譲渡の件で、加倉田良一から裕一に電話があった。

「おかげ様でいい思いをたくさんさせていただくことができましたよ」

「僕は何もしていませよ。楽曲がすべてを決めるわけではありません。バンドが魅力的だったから売れたんだし、そう信じなければ続けられないのは加倉田さんだって知っているはずです。ほかのメンバーにも失礼になります」

 裕一は、感謝すべきは自分のほうなのだと思っていた。彼らが『オセロ』をヒットさせたおかげで、それまで関心が乏しかった父について多くのことを知ることができたのだ。

「教えてほしいことがあります。大晦日のテレビ出演は、加倉田さん本人にとっても田舎のご家族にとっても晴れ舞台だったはずなのに、なぜわざわざあの番組でクレジットを変更したのですか?」

 加倉田は電話口で「口調がまるで芸能レポーターみたいですよ」と、声を上げて笑うと、「あれは僕の覚悟の証明なのです」と言った。

「覚悟?」

「当初事務所側は作曲者を訂正することに反対でした。山内社長は、一年も前のヒット曲を穿り返してどうしようと言うのだ、いまさら面倒を起こさないでくれと言っていました。営業価値が下がると思ったのでしょう。それなら、僕たちはあの番組には出ないと伝えました」

「社長はさぞ驚いたでしょうね」

「ええ。最後にはすべて受け入れるから、あの番組にだけは出演してくれと言うわけです」

 プロダクションとしては当然の判断だろう。あの国民的音楽番組は視聴率が高く、その影響力は未だに凄まじい。出演することで知名度や注目度は高まり、ギャラも上がり、翌年の事務所の売上に直結する。そんな人気番組からのオファーを辞退するくらいなら、芸能事務所の経営から手を引いたほうがいい。

「作曲者名を変更することで一部のファンが離れるとは思いませんでしたか?」

「それこそが覚悟なのです。真実を偽ったまま表舞台に出続けることこそが最大の裏切りではないでしょうか。自分はそれが許せなかったの。すべての嘘をさらけ出して新たなスタートを切りたかった。ファンにその覚悟を示すために、あの番組に出たのです」

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