序章
息子の小学校入学祝いに買ったのは自転車だった。入学後の最初の土曜日、二人で自転車屋までの約十分の道のりを歩き、息子は時間をかけて装飾が派手な一台の自転車を選んだ。
帰り道で、二人は歩道を歩きながら自転車の素晴らしさを語り合った。息子は一度も運転したことがないにもかかわらず、自転車を引きずりながらその利点を声高に語っていた。二人は自宅には立ち寄らず、自転車の練習のために近くの公園へ行った。
多くの子供たちがそうであるように最初はバランスを崩して倒れてばかりいたが、何度も挑戦し、なんと一時間足らずで補助輪なしの自転車に乗れるようになった。幼少期の自分は何日も補助輪を付けて感覚を体に叩き込んでから、満を持して補助輪を外した記憶がある。だからこそ息子の運動神経のよさが誇らしかった。
その公園は父親が高校生の時に整備された公園で、当時はまだボール遊びが禁止されておらず、子供たちが自由に遊んでいた。近所の住人たちも庭にボールが飛び込んできても目くじらを立てることはなく、暖かい目で見守ってくれていたような気がする。
その日、息子は日が暮れるまで公園を自転車で走り回った。親ばかと言われればそれまでだが、本当に運動神経に恵まれているのかもしれない。そのうち時間が気になりだした。帰宅時間が遅いと妻が心配する。
公園の端にそびえ立つ柱時計を見上げた。しかしその時計は故障しているらしく、盤面のガラスには太いガムテープがバツの字を描くように貼られていた。自転車で走り回っている息子を呼び寄せ、並んで帰路についた。息子は自転車に上手に乗れたことで、終始誇らしげな様子だった。




