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第一章 三話 「底の太陽」


「110番、ついてきなさい」


「ありゃりゃ、今日は僕からか」


「いいよ、また後で話そ」


「うん、また後で!」


 ……アイレと出会って一ヶ月ほど

 経っただろうか。

 あれから新しい子供は来ていない…

 私達はすっかり打ち解けていた。

 アイレが実験から戻ってくる度、

 私は少しだけ生きている気がした。

 最近は実験がない時間が待ち遠しくて仕方ない。


「107番、ついてきなさい」


「……はい」


  すぐに立ち上がり兵士の後に続いた。

 

 ――今日は人体実験か、

   魔獣と戦う方が楽なのだけれど。


 瞬く間に身体中に機械が取り付けられる。

 視界は塞がれていてわからないが、

 何やら機械を操作しているような音が聞こえる。

 勿論、ルノは人体実験の経験がある。

 

 ――今日のは痛くないといいな。


「よしいいぞ、始めろ」


 ――ガチャン


 突如、

 骨の奥から焼けるような衝撃が一瞬で

 身体を貫いた。

 あまりの痛みに唇を噛みしめる。

 いつもはこんなに痛くない、それどころか

 少しチクっとする程度。

 今回のはその比ではない痛みだ。

 …幸い痛みは一瞬だった。

 予想だにしない出来事に驚きつつも呼吸を

 整える。

 一瞬だったからなんとか耐えられたものの……

 まだ続くのだろうか…

 ルノは昨今の実験に慣れていて戦闘力も高い為、

 怪我や痛みを感じることは少なかった。


「なにをしている、続けろ」


 ――あんなのずっとされたら…


 ――ガチャン


 ――死……


 再び激痛が押し寄せる。

 痛みに耐えられず身体を動かそうとするが、

 装置でしっかり固定されていて指先ひとつ

 動かせない。


「ぎゃあああああああああああっ!!」


「ふ……フハハハハハ!素晴らしい…!

 実験は成功だ!」


 少女の意識はそこで途絶えた。


輝骸(きがい)の魔女の…誕生だぁああっ!」







 


「う、こ…こは……」


 身体が重い。痛い。寒い。

 頭も痛く、まぶたが重くて開かない。

 ゆっくりと目を開けると、視界がぼやけ、

 ピントが合うまで数秒かかった。

 

 見慣れない床が視界に入る。


「私は……確か…」


 ここは前の雑居房とは違い狭い独房のようだ。

 

 ……思い出した。

 普段とは格の違う痛みの実験を受けて、それで…

 …腕が…動かない。

 天井から伸びた鎖が両腕と繋がっているようだ。

 多少左右には動かせるが

 それでなにができるというのだ。

 前までいた雑居房も薄暗かったが、

 ここはさらに暗い。


「こんな事…今まで一度も無かったのに……」


 今までは昨日のような毎日の繰り返しだった。

 いや、正確には一ヶ月ほど前か。

 アイレと出会った頃から毎日、

 対魔獣実験ばかりだった。

 その頃からだろうか、

 今までの退屈な毎日が変わり始めたのは……


「くっ…」

 

 いくら動かしても腕が自由になる事は無い。

 アイレも見当たらない。

 …状況は最悪に近い。


「私も……あいつらのお眼鏡に…

 かなわなかったのかな…」


 このまま消えていった子供達の所へ

 行くのだろうか…

 正直、まともに話した事はない……けど、

 同じ境遇の仲間だった。

 あの世とか信じてる訳じゃないけど、

 もし会えたら…仲良くなれるかな……

 ……もうダ……メ………意識……が………………


 全てが黒に沈み込んでいく。

 そんな中、遠くから何やら声が聞こえてきた。


「やつは何処だ!?必ず捕まえろ!」


「逃すな!追え!」


 それに何やら激しい足音も聞こえる。

 それらは次第に遠くなると、

 小さな足音がすぐそこまで迫っているのに

 気づいた。

 気配に気づいたルノは意識を取り戻す。


「――だれッ!?」


 足音の主の正体は少女の予想とは全くの

 逆だった。

 まるで、

 閉ざされた牢の隙間から差し込む光のように。

 氷のように冷えた心に、

 その声が射し込んできた。


「…やっと見つけた!」


 その声は、相変わらず太陽のように明るい。

 その声だけが、

 確かにルノを絶望の淵から引き戻した。

 ルノの内側に残っていた最後の灯に、

 そっと火を灯したように……


「…アイ……レ?」

 

 少年はランタンを片手に、

 深緑のマントを身につけそこに立っていた。

 が、節々から見える彼の身体は傷だらけだった。

 少年の体躯でその場に立っているのが

 不思議な程に。

 頭から血が流れているというのに

 少年は笑って見せた。

 

「アイレ……なんで…」


 その顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりと

 熱くなった。

 思わず涙がこぼれそうになるのを、

 必死に堪える。


「友達だから。それにまだ答えを聞いてない」


「……答…え?」


「外の世界を一緒に冒険するって話…

 ……もしかして覚えてない?」


「……覚えてる、覚えてるよ」


 涙が頬を伝った。

 自分でも驚くくらい素直に、声がこぼれた。

 ずっと心の奥に押し込めていた願い。

 叶うはずがないと諦めていた願い。

 その答えを、やっと言葉にできた。


「だったら――行こうよ」


 アイレは2本の指先から放った風の刃で檻を

 破壊、

 そのまま器用にルノの拘束も解いて見せた。

 鉄が床に落ちる甲高い音が、

 牢の暗闇を切り裂いた。


「僕は、君と一緒に外の世界を見たい。

 空だって、大地だって、ぜんぶ……!

 だからルノ。一緒に来てくれる?」


 ルノは胸の奥に溜まった震えを、

 深く息に変えて吐き出した。

 そして――


「……うん。行く!」


 重く覆っていた暗闇が剥がれ落ち、

 心の奥に灯る火が大きく燃え上がる。


 光は遠くない。

 絶望に沈みかけた世界の中で、

 確かに未来が輝いて見えた。


「そういえばアイレ、

 そのマントどうしたの?」


「これ?ここに来る途中に拾ったんだ〜。

 冒険者みたいでかっこいいでしょ?」


 少年はマントをはためかせ、

 勇ましい(?)ポーズをとって見せた。


「うっ…!?」


 アイレは急に腹部を抑えて片膝をついた。


「…大丈夫!?」


「……へーきへーき…冗談だって」


 口ではそう言っているが彼の表情は

 曇ったままだ。

 ここへ来るのも過酷なモノだったに違いない。

 その過酷さは彼の身体の傷が物語っていた。

 アイレは身体を痙攣させながら

 ゆっくりと立ち上がった。


「よし、じゃあ行こうか」


 それでも表情に輝きを取り戻したアイレ。

 ルノは彼が強がっているのは百も承知だったが、

 何も口に出さず彼の後に続こうと

 一歩を踏み出した。


「――ッ!?」

 

 刹那、全身に魔力が爆ぜるように迸る。


「身体が…熱い……!」


「ルノ!」


 堪えきれずその場にへたり込む。

 おかしい…こんな感覚は知らない。

 いつもの魔力が迸る感じではない。

 確かに本来の魔力は戻って来ているのだが、

 それとは別の魔力が私の身体を巡っていた。

 明らかにいつもの魔力じゃない…

 青黒く、禍々しく、そして異常なまでに強い。

 私に本来流れている青白い魔力が

 その強大な青黒い魔力を(ふち)取っている。


「ルノ、その魔力……」


「…へい……き…」


 ――そう言って、強がってみせた。

   本当は制御するだけで精一杯で

   まともに身体を動かせないのに。


「110番が脱走したぞ!」


「魔法の反応を感知!

 対魔法装備で捕獲せよ!」


 多くの足音と兵士達の怒声が響く。

 このままでは二人とも捕まってしまう。


「ごめん…やっぱり私は動けそうにない、

 先に行って」


 せめて、せめて彼だけは元の世界に戻って

 平和に暮らして欲しい。

 彼はこんな所で死んでいい人間ではないのだから。


「あそこだ!魔女の独房を破壊しているぞ!

 抑えろ!」


 足音が近づいている。もう時間がない。

 私は……ここまでかな……


「ルノ、これ持ってて」


 彼はランタンを私に手渡し、突然――


「きゃっ……!?」


 私を背負った。


「…何やってるのアイレ!

 これじゃ貴方まで…」


「ダメだよ、

 そんな事したら一緒に外へ行けないでしょ?」

 

 ダメだ、話を聞いていない。

 思えばアイレは自分が話す事ばかりだったかな。

 そんなことを考えていると、

 彼は躊躇なく扉を蹴破って廊下に出た。


「いたぞ!動くな!」


「捕らえろ、男の方は殺しても構わん!」


 数人の兵士と鉢合わせる。

 出会い頭ってやつだ。

 兵士たちの手には拘束具と、魔法阻害弾。

 殺気が、廊下を満たす。

 

「しっかり捕まっててね…

 僕、結構速いから……!」


「え?ええ…」


 反射で彼の首に両手を回す。


 その瞬間――

 アイレの足が床を蹴ると同時に

 空気が悲鳴を上げた。

 僅かな風切り音と共に

 兵士たちの間を稲妻のように駆け抜ける。

 兵士達はあっという間に見えなくなっていた。

 

「……やるじゃん」


「…へへ、でも、もう限界……」


 アイレの肩が大きく揺れる。

 息が荒く、足元もふらつき始めていた。


「……実は僕、魔力量少ないんだよね…

 魔獣は一撃で倒せたからよかったけど…」


「ダメじゃん……でも、助かった」


「へ、えへへ」

 

 ――でも、今のは速かった。

 

 それにいつの間にか乱れていた

 魔力の流れも正常だ。

 なんならいつもより調子がいい感じ。

 ……私の中で渦巻く、あの異質な魔力。

 今の私が使うより、彼に託した方がいい。

 

「じゃあこれでどう?」


 私は魔力を制御し、全力の半分ほどを身体に纏う。

 密着するアイレにも、その魔力は流れ込んでいく。


 ――よし、うまく制御できた…!


「これで私の魔力を貴方も使えるはず…」


 ルノの膨大な魔力を受けたアイレ。

 彼は思わず目を見開いた。


「おぉ!すげーっ!!」


「……大事に使ってよね、

 無くなったら終わりだから」


「まっかせて!一気に駆け抜けちゃうから!」


 ……不安だ。

 


 

 

 

 


 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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