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第一章 二話 「外の世界」


 ルノはガチャガチャという物音で目が覚めた。

 廊下から足音と話し声……?が聞こえる。

 

「…ッ!?離せっ!」


「大人しくしてろ、力で勝てると思うな」

 

 足音の主は兵士と見た事ない少年だった。

 黒髪に碧眼で優しいそうな目をしている


「…フンッ」

 

 少年は兵士に私達の雑居房に放り込まれた。

 兵士は一暼(いちべつ)もせず去っていく。


「……」


 少年は動かない。

 兵士の足音だけが響いていた。

 やがてそれもなくなり辺りは静寂に包まれる。

 短き間を経て最初に静寂を破ったのは

 新しく来た少年だった。


「…ってて、扱いが雑だなぁ……」


 周りは反応しない。

 ルノは少し少年の反応が新鮮で気になって

 見つめていた。

 これまでに何度も新しい子供が

 やってきていたが、

 彼らが入ってくる時に泣いたり喚いたりする事は

 あっても、軽口を叩くような事はなかった。


「君、凄いね」


 つい口から言葉が出てしまったが、

 これはルノの本心だった。


「えへへ、そうかな」


 少し嬉しそうに答えた少年は

 ボロボロの服についた汚れを手でサッと払いって

 立ち上がるとこちらに向き直った。


「僕はアイレ、君は?」


「…ルノ」

 

 自分の名前を思い出すのに少し時間がかかった。

 過去の事なんて何一つ覚えていないと

 思っていたけど、名前は覚えていたようだ。

 この名は親がつけてくれたモノなのだろうか……

 そんな事さえ霧がかかった様で曖昧だった。

 …人に名を名乗るなどいつぶりだろうか。

 というか、まともに会話したのもかなり

 久しぶりだ。

 差し出された手にゆっくりと自分の手を重ねる。

 

「これからよろしくね!」


 少年は満面の笑みを私に向けた。

「魔女の家」で人間の底知れぬ悪意を

 まだ小さな身体で

 一身(いっしん)に受けてきた少女は

 その輝きが太陽のように感じた。

 少年の笑顔が腐敗していた少女の心を

 浄化していく。

 …だがすぐに現実に引き戻された。

 ……少年は知らない。

 ここ「魔女の家」が(ろく)でもない

 施設だという事を…

 きっと良い家族、才能、人間関係にも恵まれ、

 何不自由なく過ごしてきたのだろう。

 私はアイレと名乗った少年がこの施設で

 生き抜くのは厳しいと直感した。


 ――まぁ、私には関係ないけど…


「…わかってる?今の状況。

 そこまで物分かりが悪いとは思えないけど」


 少年の将来に興味はないが、

 久しぶりの話し相手。

 柄にもなく話しを続けようとしていた。


「大丈夫、ここって魔法について

 研究してるんでしょ?

 僕、自慢じゃないけど魔法だけなら

 兄さんにだって負けないんだよ」


 ……ただ能天気なだけか。

 小さくため息をつく。

 

「兄さん……ね。」


「兄さんは凄いんだ!

 僕と双子で歳も一緒なのに、

 なんでもできるんだよ!

 いつも僕を助けてくれるんだ!

 あの時だってーー


 ルノは聞いてないのに語り出した少年の話を

 しばらく聞いてやる事にした。

 自分の口角が少し上がっているのに気づいた

 ルノは呟く。

 

「アイレ、君は眩しいね」


「ん?なに?」


「なんでもないよ」


 再び語り出した少年を尻目に

 ふと牢屋の外を見る。

 ……気付けば実験の時間らしい。


「107番、ついてきなさい」


「…ルノの服についてるのと同じ番号だね」


「……そう、これから実験。」


 いつものように兵士について牢屋を出る。

 二度と会えるかわからない少年に

 捨て台詞のようなモノを残す。

 

「…生きていたら、またあとでね」


「うん!またあとで!」


 あまりに元気よく返されたらものだから

 ルノは少し笑ってしまった。

 笑ったのが気づかれないよう、

 顔を背けてその場を後にする。


 コツコツコツ……


 廊下に二つの足音が響く。


 ――兄弟…か。

 

 ルノは生まれた頃の記憶が曖昧だ。

 いや、曖昧というかもう何も覚えていないし、

 思い出せない、

 両親や兄妹…がいたのかわからないが……

 物心ついた時には魔女の家(ここ)にいた。

 それに少女からしてみればもう関係ない事だ。

 二度会うこともないだろう。


「さぁ、ここだ」


 ――今日も魔獣か、最近多いな。





 


 ……アイレはまだ戻っていない…か。

 他の子供達も戻ってきてないようだ。

 …珍しい。


「アイレ…だっけ、死んでないといいけど」


 座り込んで目を閉じる。

 初日だし、簡単な検査と実験だと思うけど…


「ただいま〜あれ、他の子はまだかな?」


 兵士に連れられて来た能天気な少年は

 戻って来た。

 初日で帰ってこない事だって珍しくない。

 奴らのお眼鏡にかなわなかった子供達は「処分」

 される。

 ……この話は以前に兵士達が話していたのが

 偶然聞こえただけだ。

 本当か嘘かもわからない。

 ここでの暮らしが何日、

 何年になるかもう数えるのは辞めてしまったが、 少なくとも4年はいる気がする。

 それでもこの「魔女の家」の目的はわからない。

 別に興味もないが、どうせ碌でもないのだろう。


「おかえり、無事だったんだね」


「魔法だけはちょっと得意なんだー」


「…やるじゃん」


 少年は「えっへん」と得意気だ。


「ねえ、アイレ。……もしかして、ここが“普通の施設”だと思ってる?」


「うん? うーん……施設っていうか、なんだろう。こことは全然違うけど、僕のいたところもある意味研究所みたいなとこだったからさ」


「……へぇ」


 その後は二人で「魔女の家」の外の話をした。

 ……と言っても私がアイレの話を一方的に

 聞いていただけだが。

 どうやらアイレは魔法都市で生活してした

 らしい。

 しかも魔法学院に通っていたとか。

 私は彼の話に出てくる森や、川や、山。

 魔法都市の街並みや、彼の兄も見た事はないが、

 きっと彼の目にはどれも輝いて

 映っていたのだろう。

 

「でさ、今度は外の世界を

 冒険してみたいんだ! 」


「外の…世界……」

 

 ――ガチャ


 食事の配膳用の扉が空いた音がした。

 いつもと同じ質素な食事が二つ運ばれる。

 ……もうそんな時間か。

 

 二つ……ということは他の子供達は

 戻ってこないだろうな。

 私とアイレだけか……

 二人まで子供の人数が減る事は、

 ルノの「魔女の家」での生活の中でも

 初めての事だった。


 食事を始めるルノとアイレ。

 辺りには二人の咀嚼音(そしゃくおん)だけが

 響く。

 少ししてその静寂を打ち破ったのはルノだった。

 

「食事の量、少ないと思わない?

 私はいつもこれだから平気だけど」


「ん?そうかな?いつも家で兄さんと食べる時も

 こんな感じだよ」


「……そう」


「?」


 少女は少年の事を誤解していた。

 思えば彼の話の中には豪勢な暮らしや、食事、

 両親の話題が一切無かったのだ。

 恐らく、両親はどちらもいない。

 兄と細々と暮らしていたのだろう。


「それよりさ、さっきの話の続きだけど…

 魔女の家(ここ)を出たらさ、

 一緒に外の世界を冒険しようよ!」


「……」


 ――考えた事も無かった。

「魔女の家」を出て外で暮らす。

 私達みたいな子供が急に外に出て生きていけるの

 だろうか、そもそもここから出る事自体、

 そう簡単なものとは思えない。

 だが私の思いとは裏腹に少年は夢を語る。

 

「勿論兄さんも一緒に来てもらってさ、

 兄さんがいればどんな事が起きても

 へっちゃらだよ!」


「……考えておくよ」


 その後も二人は眠るまで話し続けた。

 

 

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