第一章 一話 「魔女の家」
「107番、ついてきなさい」
「……」
ここは通称「魔女の家」
才ある子供達を誘拐、拉致し、
日夜魔法に関する実験を行っている。
その種類は様々で、魔物と子供を戦わせたり、
開発した魔法薬の効果を子供達で試したりなど
多岐に渡る、非人道的な組織、施設である。
魔法都市の近郊に位置する魔女の家は
森の地下に存在するが、
その全貌は今も隠されたままだ。
兵士の男は鉄格子の鍵を外して
囚人、もとい被験者の様子を伺っている。
周りの子供達が逃げ出す様な事はない。
皆、まるで生きたまま死んでいるかのようで、
微動打にせず俯いたままだ。
まだ二桁もない年の子供達であるにも関わらず、
その表情は一人残らず絶望に満ちていた。
「何をしている107番、早くしなさい」
「…はい」
――私の番号だ、…いかなきゃ。
107番と呼ばれた少女は透き通る様な白髪が
肩まで伸びている。
藍色の瞳。身長は120㎝程だろうか、
薄く汚れた布の様な服を身につけている。
靴などは何も履いておらず、
魔力を外部から制御する為のチョーカーを
首に付けている。
少女は兵士の後に続くが、その足取りは重く
俯いたまま歩いている。
ふと他の部屋の子供が目に映る。
その子供は何かを訴える様な目でこちらを見ていた。
「ボサっとするな!また痛い目にあいたいか!?」
廊下に怒号が響き渡る。
が、少女が特に表情を変える事は無かった。
「…ごめんなさい」
「……まぁいい」
子供達はここの大人達には逆らえない。
逆らえば瞬く間に首に付けられたチョーカーから
電流が流れる仕組みとなっている。
「ここだ、中へ入りなさい」
声に反応して足を止める。
顔を上げると見慣れた純白の扉が
聳えていた。
少女のチョーカーに反応して扉が開く。
部屋の奥では禍々しい姿の魔獣が
少女を睨んでいる。
「グルルルルルゥ…」
興奮している魔獣を前にしても
少女の表情は変わらなかった。
低いブザー音がこだますると首下のチョーカーから
青白い光が放たれる。
――魔力が、戻ってきた。
身体中に力が迸る。
――正直、対魔獣実験は嫌いではない…
痛くないし…なにより――
ルノは右手を大きく振り払う。
刹那、少女に飛びかかった魔獣の足元に
巨大な魔法陣が現れ、極太ビームと言うべきだろう
青白い光の柱が魔獣の一切を蒸発させた。
――すぐに終わるから。
「あの魔獣を一撃…か……」
その様子を魔法で強化されたガラス越しに
上から見下ろす影があった。
「……やはりあの少女、他の子供達はおろか、
大人の魔法使いをも越える圧倒的な魔力量だな…」
そう語る男は純白のローブを纏っている。
フードを深く被っており顔はよく見えない。
「…"魔女"にするなら
彼女を置いて他になし…か……」
――そろそろ、「彼」の出番だな。
男の高笑いが響く。
そんな話を知る由もないルノは、
部屋まで戻ってきていた。
当然魔力は使えない。
チョーカーはとうに光を失っていた。
――また減ってる。
先程までいた子供たちがいなくなっている。
今朝は7人ほどの子供達も今はルノを合わせても
4人まで減っていた。
ルノはまだ幼いが状況が飲み込めないほど
子供では無かった。
いや、この家が彼女をそうしたのかも知れない。
周り子供達も変わらず俯いたり
蹲ったままだ。
「本日の実験はここまでだ。
食事を取った者から就寝するように」
小さい扉から夕餉が運ばれた。
一人分ずつアルミのお盆には乗っているものの、
コッペパンと薄味のスープといった
とても質素なモノだ。
――いただきます。
心の中で唱え、パンを頬張る。
程なくして食べ終えると食器を鉄格子付近に置く。
この施設には窓がない。
実験室に向かう時にも見当たらないのだ。
そもそもここが地上か地下かも少女には
わからなかった。
周りの子供達も食事を終え、
睡眠に入ろうとしていた。
――私も寝よ。
どうせ寝ても寝なくても明日はやってくる。
一日など短い方がいい。
私達はきっと死ぬまでこんな毎日なのだから。
もちろん枕などはない、雑魚寝である。
首や身体が痛む事も多いが慣れたモノだ。
――明日はやってくる、か……
横になって瞼を閉じる。
少女の意識はゆっくりと闇へ沈んでいった。




