第3章:星の城と五人の王子(前編)
まぶしい――。
光に包まれた視界は、まるで天井のないプラネタリウムの中に落ちたみたいだった。
全身を駆け巡る浮遊感が収まり、足元に確かな感触が戻った時、私はゆっくりと目を開ける。
そこには、言葉を失うほどの絶景が広がっていた。夜空よりも深く、どこまでも広がる濃密な青。
その中に、まるで無数の宝石を散りばめたように、きらめく星々が瞬いている。視線を上げれば、空高くそびえ立つ、幻想的な城が目に飛び込んできた。
建材は透き通るような銀色の輝きを放ち、いくつもの塔が夜空に向かって伸びている。その全てが、本物の星屑で造られているかのようだ。
「ここが……ルキの世界?」
私が立っているのは、その城の中庭のような場所だった。床は透明なクリスタルでできていて、その下には、まさしく宇宙のような広大な空間が広がっていた。
無数の星々がゆっくりと巡り、銀河が渦を巻いているのがはっきりと見える。私は本当に、“空に浮かぶ城”に立っているのだと、全身で感じた。
風がそっと頬をなでる。その風も、星の香りがするかのようだった。
再会、そして明かされる真実
そのとき、後ろから、軽い足音がした。振り返る。
「ほのか!」
――ルキだった。
銀色の髪を夜風になびかせて、彼は迷いなく私の元へ駆け寄ってきた。その表情には、画面越しでは決して感じ取れなかった、生身の人間だからこその安堵と喜びが浮かんでいる。
さっきまでの“画面の中の推し”ではなく、ちゃんと息をして、私のために存在している“彼”が、今、私の目の前にいる。
「来てくれたんだね。本当に、ありがとう」
ルキは満面の笑みを浮かべ、私の手を取った。その手は、昨日公園で感じたよりも、ずっと確かな温かさを持っていた。彼の指が、私の指に絡みつき、優しく握られる。
「この世界へようこそ、夢咲ほのか。ここはノアリウム界——星の王たちが棲まう場所。そして君は、この世界に光をもたらす“星の鍵”だ」
……あれ?今、ちょっと物騒なこと言われなかった?私の頭の中では、疑問符がいくつも飛び交った。
「え、私って鍵?どこか開けちゃったりする系!?」
「うん、“運命の門”をね」
ルキは当たり前のように、きっぱりと答えた。彼の真剣な瞳は、私の混乱を少しも理解していないようだ。
「いや、さらっと言わないでよ!?それ、重大案件じゃん!?鍵って、私自身がってこと!?物理的に開けちゃったりするの!?」
私の叫びに、ルキは困ったように眉を下げた。
「そうだよ。君の魂の輝きが、この世界の扉を開いたんだ。でも、大丈夫。君なら、きっと選ばれる」
彼の言葉の意味を、このときの私はまだ知らなかった。ただ、彼のまっすぐな視線と、私の手を握る確かな温もりが、私の不安を少しだけ和らげてくれた。
王子たちの謁見
ルキに導かれ、私は煌びやかな大広間へと案内された。
そこは、これまで見たどんな建造物よりも壮麗で、天井には星座が描かれ、壁には銀河の歴史が記されているかのようだった。
しかし、私の視線はすぐに、広間の中心に立つ人影へと向けられた。
そこにいたのは、ルキにそっくりな5人の男性——彼の兄弟たちだった。皆、顔立ちは端正で、並外れた美貌を持つ。けれど、それぞれがまったく異なる雰囲気を纏っていた。
まず目を引いたのは、最も奥に立つ男性。すらりとした体躯に、知的な光を宿した眼鏡。彼からは、静かで重厚なオーラが漂っていた。
きっと彼が長男:ゼフィロスだろう。冷静沈着で、この国の全体の統治者。まさに知略派といった雰囲気だ。
その隣には、筋肉質で堂々とした体格の男性。顔はルキに似ているのに、どこか近寄りがたい、荒々しい雰囲気を纏っている。
彼が次男:カリオン。戦士タイプで腕っぷしが強く、表情からは、ふとした皮肉が垣間見える。
さらに隣には、中性的な美貌を持つ、優しい雰囲気の男性がいた。彼からは、穏やかで癒しのオーラが感じられる。
きっと三男:セレス。医術と癒しを司る王子に違いない。
そして、一番隅に、まるで影のように佇む男性。彼はほとんど表情がなく、その存在自体がミステリアスだ。
彼が四男:ノクト。無口で影のような存在、そして暗黒魔術を操るという噂も聞いたことがある。
そして、彼らの中心に、誇らしげに胸を張るルキ——五男。彼は“歌と光”の力を持つ、希望の王子。だが、この国の中では最も位が低い、末っ子王子だという。
つまり、私が今いるこの場所は、ノアリウム界の王城であり、目の前にいるのは、彼らの国の未来を担う王子たちということになる。