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第5章:クールな王子の独占欲(中編)

 談笑のあと、ゼフィロス王子はふと真面目な顔に戻った。

 紅茶を一口飲み、カップをソーサーに置く。その所作は、どこまでも優雅だった。


「では、質問に入ろうか。核心に迫る」


「うっ……はい。覚悟はできてます」


 いよいよ本番だ。私は姿勢を正し、少しだけ緊張した。


「君は、ルキのどこを愛している?その感情の根源はどこにある?」


 ストレートすぎる質問に、私は思わずたじろいだ。愛している、か。まだ、そこまで確信があるわけではないのに。


「えっ……ええっと……顔、ですかね。完璧な造形だと思います。あと、歌声も」


 思わず本音が出てしまった。だって、本当にあの顔は国宝級だと思うし、歌声は魂を揺さぶるほど美しい。


「外見への好意。動機としては表層的だが、否定はしない。

 しかし、それだけでは深い関係性には至らないだろう。……他には?君が彼に惹かれる、決定的な要因は?」


 ゼフィロス王子は、私の言葉を一つ一つ丁寧にメモしている。まるで、私の心を分析するカルテでも作っているかのように。


「声も、優しいところも……。あと、私を助けてくれた、その、強さとか……。

 私が婚約破棄されて、本当に絶望していた時に、彼は私を救ってくれたんです。何もかもが嫌になっていた私を、彼は否定しなかった」


 彼の質問に答えるうちに、私はルキの魅力について、改めて考えさせられた。


 確かに、彼の歌声に惹かれ、儚げな姿に心を奪われたけれど、それだけじゃない。


 彼が、絶望していた私に手を差し伸べてくれたこと。私を“大事な人”だと言ってくれたこと。

 それが、何よりも私の心を温めてくれたのだ。


「なるほど。“癒し”か。“守られている”と感じたかい?その感情は、君にとってどれほどの価値がある?」


「……うん、たぶん、そう。彼がいてくれたから、私はここにいられる。彼が、私の唯一の光でした」


「それは“依存”ではないか?君が彼に救われたという事実が、君の感情を“恋”だと錯覚させている可能性はないか?」


 ぐさっ。彼の言葉が、私の心の奥底に突き刺さる。そう、私自身も薄々感じていたことだった。ルキに救われた私は、もしかしたら彼に依存しようとしているだけなのかもしれない、と。


「……わからない。だって、あのとき私、すごく弱ってて。婚約破棄されて、居場所がなくて、どうしようもなかった。

 そんな時、ルキが来てくれて、優しくて、救われたような気がして——でもそれが“恋”なのか、“逃げ場”だったのかは……私にもわからない。

 私自身の気持ちが、まだ整理できていないんです」


 私は正直に答えた。自分の気持ちが、本当に“恋”なのかどうか、私自身もまだ迷っていた。


「……君はとても正直だ。そこに嘘はない。偽りのない感情は、時に人を迷わせる。だが、その迷いこそが、真実への道を開くこともある。君の心の揺らぎこそが、君の真実を示している」


 ゼフィロス王子は、そう言ってゆっくりと手を伸ばした。


 彼の指が、私の耳にかかる髪をそっと払いのける。その指先が、わずかに私の頬をかすめた。温かくて、真剣で——彼の指先が触れた瞬間、心臓がドクリと跳ねた。ルキとは違う、大人の男性の、知的な温かさ。


 それは、私を分析する彼の言葉とは裏腹に、不思議なほど優しく、そして心を揺さぶるものだった。


「君は、恋を“理性”で理解しようとしている。だが——恋というのは、本来“矛盾”を抱えたものだ。それは、論理だけでは解明できない、複雑な感情の絡まり合いだ」


 彼の瞳が、私の目をまっすぐに見つめる。その深い黒い瞳の奥に、何か熱い感情が揺らめいているように見えた。


「苦しいのに求める。見ていたいのに怖い。時に傷つけ合っても、離れられない。

 それでも、相手の幸せを心から願えるかどうかが、本物の恋の一端だと、僕は思っている。

 君の心には、まだそこまでの確信はない。だが、それこそが、君が“星の鍵”としてふさわしい証かもしれない」


 彼の言葉は、まるで私の心の奥底を覗き込んでいるかのようだった。


 そして、彼の指先が、再び私の頬に触れた。今度は、もっと長く、そしてもっと深く。彼の指が、私の頬の輪郭をなぞるように、ゆっくりと動いた。


「ゼフィロス王子……?」


 私の声は、ひどく震えていた。彼の視線、彼の指先が、私に何かを訴えかけているように感じられた。


 それは、分析や理屈ではない、もっと個人的な、熱い感情のようなもの。


「……ごめん。分析するつもりだったのに、僕の方が少し、感情に引っ張られてしまったかもしれない。君の存在は、僕の冷静な心を揺さぶるようだ」


 彼はそう言って、ゆっくりと指を離した。その顔は、ほんのり赤く染まっているように見えた。まるで、彼自身も私への感情に、戸惑っているかのように。

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