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灰の王

作者: vector

灰の王よ来たれ

すべてのものが焼き尽くされたとき

残されたものを頼りにあなたは玉座にたどり着く

灰の王よ来たれ

灰の王よ来たれ


目を覚ますとそこは一面満点の星空の砂漠だった。

吹きすさぶ冷たい風はどこか肌寒く、地表の砂を流れるように運んでいた。

月明りのみがあたりを照らし、見渡せば、ぽつぽつと砂丘から岩山が突き出すだけの殺風景であった。夜のせいか、すべての色が失われたがごとく、星空以外すべて灰色のように感じられ、風の中に少し、墓場で焚かれる香のような匂いがした。


ここはどこで、私は誰なのか、そして何のために。そのすべてがわからない。

砂に手を付き、ゆっくりと立ち上がると、自分がぼろきれしか羽織っていないことに気付く。

向かうべき場所はどこなのかわからずにいると、風の吹きすさぶ方向の遥かかなたに、明かり見えた。その明かりは少し揺らめきながらも、遠く離れたここまではっきりと見える火の明かりのように感じられた。だがどこか消え入りそうにも感じた。


ただ何故か、そこに行くべきだと感じた。そこしか行くところがないからかもしれない。明かりが示す場所以外、あたり一面に他のものは何もなく、ただ無為に歩くだけだと思ったからかもしれない。そして、遠い火に安らぎを感じ、ゆっくりと歩きだすと、足に砂の重みを感じた。砂は足にまとわりつかず、ただ足の裏から砂の冷たさのみが伝わってくる。時折、砂を踏みしめた跡は足の裏の形がくっきりと、残火がくすぶるように光り、そして消えた。遠い火の明かりと自分との間に無限にも等しい距離があるように感じたが、何故か時間は許してくれるように思えた。


どれくらい時が経ったかもわからないほど歩を進めたが、結局何も思い出すことはなく、すべてがわからないことについても不安や恐怖を感じることは無かった。それが不思議とも思わなかった。歩きながら時折、何故自分は火に惹かれたのだろうかとふと考える。燃える火の揺らぎの美しさか、あるいは区別なく平等に変化をもたらす存在だからか、焼き付くすほどの熱がわたしの原動力のように感じるからか、自分の中で答えが浮かび上がっては沈んで行く。


突然風が強くなり、肌寒さが突き刺すように感じるが、震えることは決してなかった。ふと夜の砂漠の遠く離れた先に、人影がみえたような気がした。呼び止めようと、声を出そうとしたが言葉にならず、砂に足を取られて距離を詰めることもできなかった。そうしているうちに人影は消えていなくなっていた。


再び歩を進めるうち、ようやく明かりに近づいてわかったことがあった。

明かりの正体は小さな太陽だった。

細きれのような雲の下にある、その小さな太陽は、丘の上にある大きな石柱に支えられた神殿と、その丘のふもとにある町らしきものをわずかに照らしていた。白いレンガ造りの街に人の気配はなく、石造りの大通りが真っすぐと丘の上の神殿へと延びていた。


少し砂にのまれた街に入るとき、ふと気になって屈んで砂を手に取る。

砂はどこか灰のようにも感じられ、重みのある灰といった方がしっくりと来るようであった。その灰はこれまでの道中の足跡同様、手に取ると残火が吹き返すかのようにほのかに赤くゆらめくのであった。街へ歩みを進めていくうちに、街には人の気配どころか、生活の跡さえ感じられず、月と太陽にわずかに照らされた室内が虚無を感じさせた。街の大通りは、丘の上の神殿と幅がさして変わらず、その何もない石畳の通りが広く長く神殿へと続いていた。


長々と歩き果てた末、神殿へ到達し、その高さを仰ぎみると、首を真っすぐ上に向けてようやく三角屋根のてっぺんが見えるかどうかという壮大な大きさであった。視線を下ろすと四角い柱が何本か天井をどっしりと支えており、その先のアーチ状の扉のない大きな入口が、神殿の奥先へと続いていた。そして、入口から見える神殿の奥には一つの玉座があった。

玉座へ引き寄せられるように、アーチをくぐり神殿内部へ入ると、神殿の外見に劣らず内部も壮大な造りとなっていた。派手な装飾こそないが、天井や壁面には何かが巡り1つの円環をなす様が描かれており、神殿全体を支える柱は並木通りのように玉座へと続いていた。

やがて玉座にたどり着き、大きな黒い石造りのシンプルな玉座の前に立ち尽くしていた。

その人が座るには大きすぎる玉座にはだれもおらず、周囲に人の気配も無かった。

ふと、目を覚ます前、脳裏に囁かれた言葉を思い出す。


灰の王よ来たれ


それだけは覚えている。だがそれだけで他には何もわからなかった。

すると、程なくして玉座の裏からどこからともなく人影が現れた。

人影はやがて月明りに照らされゆっくりと浮かび上がる。

身の丈は大柄な人より頭2つあるはいは3つほどの、顔のない女性の姿をした何かであった。それは肌色ではなく無機質な擦れた金属のような表面を持ち、薄い灰色のタイトな、飾り布を肘から垂れ下げている生地の薄いドレスを着ていた。それはゆっくりとこちらに近づいて、やがて玉座の横に立ち、従者のように、だが女王のような威厳を携えて、体の前に手を組んで、こう語りかけてきた。


「玉座は待っていた。」

「結局、あなたのみがここにたどり着く。それもまた一つの運命。」

「灰に再び火を灯し、一つの巡りを閉じなければなりません。」

「灰の王よ来たれり」

「灰の王よ来たれり」


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