取りに行こう
カフェが閉店になった後、レインは廊下をウロウロしていた。それをシルクが見かけて声を掛けた。
「レインさん、どうしたんですか?何か心配事でも?」
「ああ、シルクか。あの話、聞いたか?ラブフラワーの事。」
レインは立ち止まってそう言った。
「ああ、聞きましたよ。ラブフラワーって、高価なんでしょ?」
「そうだよ。欲しくたって僕たちには手に入らないよ、普通は。」
レインが言った。普通は、と少し語気を強めて言ったレインに、シルクはハッとした。
「レインさん、もしかして、手に入れたいの?」
そこへ、ダイヤがお風呂から出て歩いてきた。
「何の話ですか?」
頭をタオルで拭きながら、ダイヤが言う。
「ラブフラワーだよ。」
シルクが言った。
「えっ、レインさん、手に入れたいの?」
ダイヤが驚いてレインを見た。
「お前達、ちょっとこっちへおいで。」
レインは自分の部屋に二人を招き入れた。
「あのな、ラブフラワーは子供を作る道具だけど、それだけじゃないんだよ。」
レインが部屋に入るなり言った。
「どういう事?」
ダイヤが聞く。
「愛し合っている二人が育てると、実が成る。愛し合ってるかどうかが、あの花で分かるんだよ。」
レインが言った。
「レインさん、愛を確かめたいって事?」
シルクが言った。
「お前達は、確かめたくない?」
レインがいたずらっぽく笑って言った。
「た、確かめたい・・・かも。」
シルクが最後は弱々しく言った。シルクは不安なのである。あれから時々メタルは部屋に来てくれるのだが、メタル本人が言ったように、シルクが魅力的だから、ただ体を求められているだけなのかもしれない。最初はシルク自身がそれを望んだのに、いつしかメタルの本心が知りたくなっていた。愛があるのかどうか。
「僕は、分かってるし・・・。」
ダイヤも、最後は尻切れトンボだった。ハイドと自分は仲良しだ。大好き、と言えば僕も、と返してくれるハイド。だが、いかんせん年下だ。やっている事は子供同士の遊びばかり。ハイドの本当の心が分からないというのが正直な気持ちだった。ハイドは小さい頃に両親を亡くしている。仲良しの相手が欲しいだけで、恋愛ではないのではないか。その証拠に、恋人同士がするような事は、ほとんどしていない二人だった。ハイドが若いから、と思いつつ、自分からはなかなか積極的になれないダイヤ。実は欲求不満でもあったのだ。
「僕は、知りたいんだ。あいつ、全然手を出さないどころか、何も言ってくれないからさ。」
レインが言った。
「でも、今僕たちみんなに子供が出来たら大変じゃないですか?」
シルクが言った。
「そうですよ。僕らにはまだ早いって、レインさんいつも言ってるじゃん。」
ダイヤも言う。
「子供はまだ要らないよ。ラブフラワーは、愛し合う所を見せると実が成るんだけど、何度も見せないと子供にはならないんだ。一度だけ見せて、後は見せないようにすればいいんだよ。」
レインが言う。
「そうなんだ・・・。でも、見せないようにって、どうやって?」
シルクが言うと、
「簡単だよ。布をかぶせるとか、部屋の外に出しておくとかすればいいだろ?」
レインがしれっと言う。
「そういうもん?間違えて出来たりしない?」
ダイヤが言う。
「できちゃったら、みんなで育てりゃいいじゃん?」
レインがにこやかに言う。
「まあ、確かに・・・それで、どうするんですか?ラブフラワー、取りに行くんですか?」
シルクが言った。
「明日、トラックで運ばれちゃうんでしょ?」
ダイヤも言う。
「そう。だから、朝早くから取りに行こうかなーと思って。二人とも、一緒に行くか?」
レインがそう言うと、シルクとダイヤは力強く頷いた。