3 魔法習得と初戦闘
魔術協会に入ってみると、複数のプレイヤーとNPCが沢山いることが伺えます。
受付は……、あそこですね。
「すみません、受付はここであってますか?」
「はい、そうですよ。何かご相談があるのですか?」
「えーと、魔法を覚えたいのですけど……。」
「わかりました。適正はわかりますか?」
「闇です。」
「ほぉ、珍しいですね。」
そういうと、手元の用紙に何かサラサラっと書いてゆく。
「それで、こちらへ来られた目的は『魔法の習得がしたい』であってますね?」
「はい、そうです。」
「分かりました。魔術協会へ登録とかはしていませんね?」
「はい、来たのも今日が初めてで。」
「わかりました、ではいくつかの質問にお答えください。」
そう言われて名前と属性、および称号などを聞かれました。
それに対して簡単な応答をした後、
「ふむふむ、念のため詳しい属性診断は行いますがご了承ください。では、これを持って2番の部屋へお進みください。」
そう言われたので、渡された羊皮紙を持ち二番と番号が書かれた部屋に進んでみます。
扉は開いており、中にはいかにも魔術師っぽい人が一人いました。
「……属性診断か? 紙をもらおう。」
「は、はい。」
フードの奥に隠された目がこちらを妖しく見つめます。
その目に気圧されながら、私は紙を渡します。
ここまで作り込まれているとは、やはりこの世界は非常に素晴らしいですね。
「……まずはその水晶に触れてみろ。」
そう言われたので教会で見た水晶に触れてみます。
反応は教会のものと全く同じで触れると黒く輝き出しました。
「……これは驚いた。」
「珍しいんですか?」
目を見開く魔術師にそう問いかけると、コクリと小さく頷き言葉を続けます。
「闇属性は何度も見たが……、ここまで綺麗な闇は初めてだ。魔法を習得したいのだったな? これなら一部中級まで覚えられるだろう。少し待て。」
そういうと、古めかしい鈍器になりそうな本を捲り、横に用意した紙に何かを書いてゆきます。
「……ふむ、こんな物だろう。」
そう、一言言うとペンをペン立てに入れて何かブツブツ呪文を唱えたあと、私に紙を渡してきます。
「……では魔法習得の時間と行こうか。」
「こ,この紙は?」
「メモのようなものだ、気にするな。」
そう言われると気になるのが人情というものです。
チラリと,横目で見てみるとそこにはダークフォース、ダークボール、シャドウ、ウォーターボール、サンドボールと、書かれていました。
使える魔法でしょうか?
「……さて、とりあえず初級魔法の練習と行こうか。貴様ら異邦人はこれを見たら覚えるらしいな。」
そう言われて、後ろの棚からいくつかの巻物をとり、私に差し出してきます。
そこにはわたしには理解できない言語で内容が書かれています。
「……見終えたか?」
「え? いや、これ読めませんよ?」
「見るだけで構わん。」
そう言われて、再度見直します。
中には文章のようなものが書かれていると思われますが実際のところどう言ったものかわかりません。
ー魔法【ダークフォース】を取得しましたー
脳内にアナウンスが流れて、思わず身体が強張ります。
「……習得できたようだな、ではこれだ。」
そんなことを五度ほど繰り返したでしょうか。
現状教える物はないと言われて部屋を追い出されてしまいます。
「おや? 魔法は覚えれましたか?」
「あ、神父様、アナウンスが聞こえたので覚えれたと思います。」
「それは良かった。では、実践といきましょうか。」
「え?」
実践? と言うと?
「分かりませんか? 魔法とは攻撃です。攻撃ならば対照が必要です。つまり雑魚狩りですよ。」
「わ、わたし武器持ってませんよ!?」
「ちょうどよくナイフを持ってたので差し上げましょう。さて、問題はありますか?」
「え、えーと。ぼ、防具がありません!!」
「野兎如きにダメージなどありません。いざとなれば私が守りましょう。」
嗚呼、素敵!!
じゃなくて!! 強引すぎません!?
「ま、魔法使ったことが無いのですが……。」
「皆最初は同じです。私が教えて差し上げましょう。それとも、他に何か問題でも?」
「あ、いえ。」
私が騒いだことにより周りから注目を集めてしまったようです。
暫し反省。
ですけど神父様? あまりに突然すぎませんか? それは。
「では街の外へ向かいましょう。」
「分かりました。」
まあ、やると決めたわけですので頑張るだけ頑張りますよ。
ええ、本当です。
別に、何考えてんだコイツなんて思ってませんから。
などと、言い訳しているうちに街の外へ。
大きな壁を超えると、広々とした大草原が広がっており大自然の雄大さを感じられます。
「ここら辺ならばホーンラビットが丁度良いでしょう。」
「ホーンラビット……、角のあるウサギですか?」
「ええ、このゲームにおいて最弱を名乗れる弱いモンスターです。」
神父様はこちらに目もくれずそう言う。
淡々とした言葉には、隠しきれない不気味さがあります。
まぁ、そうして黙って10分ほど歩いたでしょうか。
川で水を飲んでいる可愛らしいツノの生えたウサギがいました。
「丁度良いところに一匹いますね。残酷ですが、練習台となってもらいましょう。」
「はい。」
ウサギに向けて手を向けます。
えーと、名前はダークボールでしたか?
「そういや、魔法発動の仕方はお分かりですか?」
「えっ?」
念じれば出てくるのではないですか?
「その様子だと勘違いしてますね。このゲームにおいて魔法は事前に決められている呪文を言った後、スペルを言えば発動します。」
「えぇ……?」
いや、説明されてませんけど?
ゲームにしては不親切すぎませんか?
「協会では説明されませんでしたか? ああ、そう言うことですか。」
「どう言うことですか?」
「いえ,本来ならばチュートリアルイベントなのですがおそらく私が介入したせいで強制的に切られてしまってますね。」
「えぇ……。」
淡々と言っていますが貴方が戦犯ですよ? 神父様。
貴方がイベントをぶつ切りにしなければシナリオ通りに進んで呪文知っていましたからね?
「協会に戻って呪文を聞き直さなければなりませんか……、はぁ。」
「いえ,その必要はありません。初級魔法の呪文は全て共通ですので。」
「あ、教えて下さるのですか?」
「ええ。私も闇魔法はある程度扱えますので。」
「では教えてください。」
「構いませんよ。取得した呪文は何ですか?」
「えーと、ダークフォース、ダークボール、シャドウ、ウォーターボール、サンドボールです。」
「ふむふむ、基本的な闇属性ですね。」
「教えてくれますか?」
「当然です。この中で最も有効なのは、ダークボールですね。」
「ダークボールですか? 闇の球が出てきそうですが。」
「ええ、その認識で構いません。呪文は『闇の球よ現れよ、【ダークボール】』です。」
「えぇ……、」
恥ずかしすぎませんか?
この年でこれを言うのはかなりキツイですよ?
「冗談です。ワードとして中に闇と球が入っていれば問題ありません。」
「ホッ。」
本当によかったです。
小っ恥ずかしい思いをしなくて。
この年で厨二病ごっこは精神的に来るものがありますから。
「では早速唱えてみますね。」
スーハースーハーと、息を整える。
「『闇球、【ダークボール】』」
そういうと手の平にポリゴン片が集まり球の形状を形成しあっという間に黒いボールができます。
大きさはテニスボールほど。
黒いソレは質感を感じさせます。
「えっと、飛ばせますか?」
「ええ。前に飛ぶようにイメージしてみなさい。」
「はい。」
言われた通りにしてみるとふらふらとではありますが前に飛んでゆきます。
そして、そのままウサギにぶつかりそうになりヒョイっと避けられます。
「ですよね。」
「当然ですね、私が見本を見せましょう。」
神父様がそう言うと本を片手に近寄ります。
そのまま、近寄ると手に持った本でウサギを背後から殴りました。
え、魔法は?
ねぇ? 魔法は?
「どうですか?」
「えぇ?」
魔法ですよね? コレ。
魔法を教えてもらえるんですよね? コレ?
なんで、本で殴ってるんですか?
しかもその本って聖書ですよね?
色々と冒涜してませんか? 色々と。
宗教的に大丈夫ですか? 大丈夫じゃありませんね。
「あのウサギは素早いので後ろから近づいて不意打ちを狙うのがいいでしょう。また、あのツノは魔法に敏感ですので範囲魔法でもなければまず当たりません。」
「えぇ?」
コレ魔法の練習ですよね?
なんで魔法使わないんですか?
なんでマッスルパワーなんですか?
おかしいですよね? おかしいですね。
なんで平然と筋肉で殴るんですか? 馬鹿なんですか? 脳筋なんですか?
「このような感じです。」
「は? え? は? 魔法に関して教えてくださいよ。」
「初級魔法は火力が低く、使い辛いものですので殴った方が早いのですが……。」
「魔法を教えてくれるんじゃないのですか!!」
「はて? 私は神の教えの元、戦いというものを教えて差し上げるだけですよ?」
もうこの人嫌だ。
なんで言うこと聞いてくれないのですか!!
「とはいえ、魔法の戦い方も有効な時があります。」
「最初っから教えてください!!」
何でわざわざ遠回りするんですか? この人。
「そうですね、もう一匹丁度いいところにいますので魔法で倒して見ましょう。」
視線をそこに向けてみると確かにウサギがいます。
先程の脳髄が飛び散った光景が一瞬フラッシュバックしたので、頭を振り雑念を消します。
「『闇球、【ダークボール】』」
「では、まずソレを使いこなすことをイメージしましょう。」
「使いこなす、ですか?」
「ええ。ボール系の魔法は基礎ながら重要な要素を多分に含んでいます。攻撃能力こそ低いもののその能力は後に応用できうるものですから。まずは、あのウサギに当ててみましょう。」
「はい。」
私はさっきと同じようにイメージしてウサギの元に飛んでいくように念じる。
ボールはさっきと同じように飛んでゆきウサギにあっさり避けられる。
「違いますよ、あのウサギに魔法は当て辛い。だからこそ、当てる直前に起動を変えるのです。」
「出来るんですか!? そんなこと。」
「ええ、当然です。」
そう言うと神父様は軽く詠唱しダークボールを出す。
その形は私のものより丸く大きく、私のものが見窄らしく思えてしまいます。
神父様は一瞬眉を顰めるとボールは自由自在に動き出しまるでソレ自身に意志があるようです。
「こんな風に、ボールは操作を学ぶのに非常に役に立ちます。」
「コレって私でもできるんですか?」
「誰でもできますよ。」
そう言った後、神父様は私をみる。
やれ、と言うことでしょうか?
多分そう言うことなのでしょう。
そう言うわけで軽く詠唱し、ダークボールを出した後、神父様が行った通りにボールを動かしてみます。
最初は少し手間取りましたが案外、空中に頭の中で線を描きソレをなぞるように動かすと言うイメージを行えば簡単にできてしまいました。
「貴方、なかなか良い腕前ですね。目線の動きからして狙ったところへ正確に動かしている。狩りに適した才能です。」
「あ,ありがとうございます。」
「では、容赦なく呵責なく虫ケラを潰すように殺してください。」
い、言い方が汚く無いですか?
なんか、素というか裏の顔というかそんな一面がチラッと出たような気がしますが……。
「分かりました。」
教えてくださってますし、とりあえずやってみましょう。
よいしょっ。
「ああ、惜しいっ!!」
魔法を感じる器官は私の想像以上に敏感なようで、フェイントを入れてみたのですが薄皮一枚のところで避けられてしまいました。
「ふむ、流石に魔法で倒すのが難しいホーンラビットを相手にさせたのは間違いでしたか。」
「やっぱり難しいんですね……。」
「そうなりますね。まぁ、所詮全てコンピューターでありプログラム。生物として成立はしていません。故に行動への規則性は存在します。簡単に言って仕舞えば、できないことでは無いのですよ。」
「初心者にソレを求めないで欲しいのですが。」
「行う努力に初心者も何もありません、神の座の元のに万人は等しく無力なのです。我々が行うのはその中でどれだけ足掻くか。すなわち、どれだけ努力を行うかです。貴方のソレは言い訳にすぎません。」
神父様からのありがたい説教です。
確かにその通りですね。
初心者というのを言い訳にしては今後の社会人になった時に怒られてしまうかもしれません。
正直、あまり好印象は持てませんでしたが言葉の重さは非常に重いですね。
流石神父様です。
また道中、そこそこのプレイヤーと魔物を見かけましたが神父様は無視していましたね。
現実とは違いますがやはりマナーはある様子。
できうる限り、守りたいものです。
と、そんなこんなを考えているうちにとうとう草原の外れにある森に辿り着きました。
目的地はここでしょうか?
「神父様、ここが目的地ですか?」
「そうなりますね。では、戦闘の基礎についてじっくり教えて差し上げましょう。」
神父様の目が鋭く光り私は背筋が凍りついたかのような悪寒を覚えます。
一体、どうされてしまうのでしょう?
はい、更新遅くてすみません。
そして今後はもう大分遅くなります。
理由は、リアル側の影響で全員が集まれる時が少ないからです。
許してくだひゃい