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災厄魔女と優しい嘘の恋人契約  作者: 朝霧あさき
一章『災厄の魔女と恋人契約』
11/16

10、魔女のための部屋



 今の時点で必要だと思うものはメモに書き記した。とりあえずはこれでいいかな。後は要ると気づいた時点で追加注文をしていく形でいこう。

 結局、普段のお兄さんと一緒の行動になってしまった。何ともいえない気分だ。



「えっと、それでは先にお洗濯します? それとも家の中を案内しましょうか?」


「うーん、そうだなぁ。どのみちしばらくこの格好だろうし、うっかり濡らしてしまわないうちに家の案内頼めるかな?」


「わかりました! ではまずは二階から行きましょう。こっちですこっち!」


「こらこら。そんなに焦らなくてもちゃんとついていくから、転んじゃダメだよ?」


「む。自分の家で転ぶほど間抜けじゃないです。子ども扱いしないでください」



 階段の前で立ち止まってお兄さんを睨む。しかしお兄さんは少しも表情を崩さず、ただ穏やかに笑っていた。まさに蚊の食うほどにも思わぬ、である。

 魔女とは言え十代の小娘が睨んだところで怖くないのだろう。

 そりゃあそうだ。隠し持っていた武器の数を考えれば、相当な修羅場を潜り抜けてきた手練れであることは明々白々。司祭様に守られてぬくぬくと暮らしてきた私なんて怖いわけがない。


 でも――顔色を窺われて怯えられるよりかは何倍もマシだ。教会にいた頃は辛いも苦しいも痛いも腹立たしいも、全部隠して笑って過ごさなきゃいけなかったから。

 気を遣わなくて良いぶん楽かも、と階段をのぼりながら後ろを振り返れば、優しげなお兄さんの瞳とかち合った。

 駄目だ。やっぱり心臓面での負荷が大きいかもしれない。



「どうしたの? 前見ないと危ないよ。足を滑らせて俺に抱きしめられたいのなら別だけどね」


「だから、そんな間抜けじゃないですってば」



 たんたんと駆け上がって二階に辿り着く。

 二階は私の部屋と物置用の部屋が三つある。特に説明は不要な場所ばかりなのだけど、ついでなのでお兄さんにどの部屋を使いたいか選んでもらう事にした。広い部屋が良いのか、狭い方が落ち着くのか。日当たりの良さを重視するのか。

 いろいろ説明する準備は整っていたのに、お兄さんは「じゃあリディアちゃんの隣で」と告げてさっさと降りようとする。



「もう、後で部屋を変えてくれって言っても無理ですからね!」


「言わないよ。寝る場所があればそれでいいし。案内が終わったら小屋まで行くんでしょ? 暗くなっちゃったら危ないし、サクサク終わらせよう」


「それは……そうですけど」



 いくら慣れた道でも夜道は危ない。森の中なので獣に出会ってしまう可能性もある。一応私のことを心配してくれているのだと考えたら、文句を言うのはおかしいと押し黙る。

 なんだか私一人はしゃいでいて馬鹿みたい。



「リディアちゃん? どうかした?」


「……なんでもないです。さっさと一階も案内しちゃいますね」



 階段を降りたところにあるのがリビング。うちで一番広い部屋だ。

 特に何があるってわけでもないけれど、太陽の光がいっぱい入るように窓ではなくガラスドアになっている。他はソファが二台とテーブルが一脚。司祭様と繋がる通真珠もここに置いてある。

 そして隣がダイニングと台所。あとは説明が必要なのは地下の食糧庫くらいかな。お風呂や洗面所といった水回りは説明しなくても大丈夫だろう。お風呂を案内した時に見ているはずだ。



「家の中はこんなものですかね。洗濯は外でします。私一人でも苦にならないよう楽して洗えるようになっているので、後で使い方を教えますね。場所はお風呂場の裏手なんですけど……お兄さん?」



 お兄さんは私の説明を聞いているのかいないのか、無表情で「あの部屋は?」と指差した。階段の影になって隠れるように存在している扉。あれはお兄さんには関係のない部屋なのだけれど、気になるというのなら仕方がない。

 私はドアノブを回して彼を招き入れた。


 十五平方メートルくらいの広さだが、四方を木棚で囲まれているせいか数字より狭く感じてしまう。

 右側と正面の棚には魔女に関する書籍が、左側の棚には薬品類が収められている。真ん中の机にはフラスコやビーカー、試験管、積み上がった本の他に、籠に入ったウィッチドロップの花弁がふよふよと光を吐き出していた。

 地味な色合いが並ぶ部屋の中で、真っ赤な傘のついたランプが唯一の彩色を放っている。

 私はくるりと振り返ってお兄さんを見た。



「ここは魔女のための部屋ですよ」


「……へぇ」



 お兄さんは怪訝そうに眉を寄せて周囲を見渡した。

 失礼な。確かに少し散らかっているけれど、それは机の上だけだ。足の踏み場もない酷い有様ではない。彼は感情が読み取れない表情で近くの薬品を手に取ると、光にかざして目を細めた。



「何を作っているんだ?」


「うーん……神が魔女に残した希望を、でしょうか」


「希望?」



 机の上に乱雑に置かれたものの中でもひときわ異彩を放つ一冊の本。私は藍色のカバーに金の装飾がなされた古びたそれを手に取り、中を広げて見せた。



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