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災厄魔女と優しい嘘の恋人契約  作者: 朝霧あさき
一章『災厄の魔女と恋人契約』
1/16

プロローグ 災厄の魔女



 花冠の中心から蛍のような小さな光がふよふよと宙に舞いあがり、空に届くまでにぱちんと掻き消える。


 一本の茎に白い小花がたくさん吊り下がった鈴蘭のような花。ウィッチドロップ。魔女の涙。

 その名の通り、泣き虫な魔女のために神様から贈られたとされる花だ。


 人里離れた森の奥。

 この一面に咲くウィッチドロップは、今は私のためだけに咲き誇る。

 なんの慰めにもならないけれど、空に登っていく淡い光を見ている時が一番心穏やかでいられる気がした。


 歴代の魔女も同じ気持ちだったのだろうか。


 包み込むような甘い香りが立ち込める中、ぷち、ぷち、と一枚ずつ花弁を毟って籠の中に放り込む。

 魔女の感情に反応して吐き出す光を白から黒へと変えるこの花は、私にとって平穏の象徴だった。


 降ってきそうな満天の星空を見上げ、ふうと息を吐く。


 世界の歪みをその身に宿し、あまねく人々に生を願われながらも死を請われ続ける災厄の魔女。その命を終える時に魂を曇らせ世界に呪いをかけたならば、世界はそれ相応の罰を背負う。

 前任の魔女が死んだときは、国が一つ消えたらしい。


 何億と存在する人類のうち、たった一人を生け贄にするだけで天変地異が防げるのならば安いものだが、魔女の感情一つで結局帳尻合わせのように大勢の人が亡くなってしまうのなら、何の意味があって災厄の魔女なんてものが存在するのだろう。



「ああ、ダメダメ。後ろ向きなことは考えてはダメ。今日も元気に健やかに!」



 ぱちんと頬を叩いて辺りを見回す。

 ウィッチドロップは変わらず淡い光を吐き出していた。良かった。安堵とともに後ろに倒れ込むと花びらが舞った。どれだけ千切ろうが踏みつぶそうが明日には元通り。

 災厄の魔女が存在する限り、この花たちも枯れないのだ。


 この場で喉を掻き切って死んでしまえればどれだけ楽か。けれど自死は魂を曇らせる。殺されるなんてもっと駄目だ。こと切れる瞬間、ほんの少しも世界を呪わない覚悟が私には足りなかった。


 そもそも老衰以外で穏やかに死ぬ方法が存在するのだろうか。なんの後悔もなく、憂いもなく、恨みもなく、これで満足だと死んでいける方法が。

 世界が物語のようにハッピーエンドで終われるのならば、どうか――。



「この光が曇ってしまう前に、世界を呪ってしまう前に、なにも感じないように、一瞬でこの命を刈り取ってくれる素敵な王子様が現れますように」



 胸の位置で祈るように手を重ねる。

 魔女だと告げられてから今までずっと、変わらない願い。

 これは、そんな災厄の魔女と呼ばれた私が、運命の王子様に出会う話である。



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