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黒田視点のハンサム

 半寒が夜明けの会に迎えられてから、五日が経過した。

 彼はまだ一般の高校生だ。

 そのため、組織に関わるのは放課後のみ。

 高校生活と秘密組織での活動という、二重生活を強いられる日々が始まっていた。


 まず彼に課せられたのは、サキュバスの誘惑を跳ね除けるための精神鍛錬だった。

 組織が用意した美少女たちが、次々と彼を誘惑する訓練だ。

 これは夜明けの会に加入する者が最初に乗り越えるべき試練であり、サキュバスの魔力「誘惑」に耐えるための基礎的な修行だった。


 サキュバス――それは魔法を操る存在だ。

 攻撃魔法、防御魔法、そして特殊魔法。

 その中でも特殊魔法の一つである「誘惑」は、人間を無防備にし、命を吸い取る力を持つ。

 彼女たちはその魔力を常に身体から放出しており、相手を惑わし魅了する。


 優れた美貌と、人を堕とす魔力。

 そんな存在に立ち向かうためには、鉄の意志を持たねばならない。

 特に、半寒のように女たらしの素養がある人間には尚更だ

 ――はずだったのだが。


「全員惚れさせるとは、やっぱあいつの顔とんでもねえな……」


 頬を掻きながら、黒田はため息交じりに呟いた。

 本来、この試練は誘惑に打ち勝つためのものだった。

 だが、半寒は顔を見せただけで訓練相手の美少女たちを虜にしてしまったのだ。

 甘い声や囁きで彼を誘惑しようとした彼女たちは、逆に自らの心を奪われてしまった。


 これでは訓練にならない。

 黒田は覆面を用意し、半寒に被せた。

 しかし、それでも彼の魅力は衰えなかった。

 覆面越しであっても、彼に近づいた女性たちは、漂う微かな体臭だけで胸をときめかせる始末だったのだ。


 結果として、黒田は精神鍛錬そのものを断念した。半寒には、そもそも誘惑に負ける心配などなかった。相手が魅了する前に、先に彼に惹き込まれてしまうのだから。


 まあ、この展開は黒田にとっては想定内であった。

 サキュバスの模倣として改造されたみどりですら、彼を惑わそうとして逆に魅了されてしまったのだ。

 ただの人間の美少女が、彼をどうこうできるはずもない。


 ――もっとも、みどりは身体能力こそサキュバスに匹敵するが、彼女達が持つ天然由来の美貌やそこから宿す魔法については扱えなかったがな……と黒田は内心で呟く。


 次に彼が取り組むのは、サキュバスに関する座学だった。

 サキュバスの生態、彼女たちの種類、そして組織とサキュバスとの戦いの歴史。

 それらを頭に叩き込む日々が始まった。


 最初の頃、半寒は呑気にサキュバスの写真を眺めて「可愛いなぁ」などと笑っていた。

 しかし、組織の隊員が命を吸い取られ、無惨に消え去っていく映像を目にした瞬間、彼の表情は一変した。


 まだ、サキュバスまで辿り着けた隊員は運の良い方だと黒田は告げた。

 遺跡ダンジョンに挑んだ隊員の大半は、まず彼女達の配下である魔物に蹂躙され、無念に死んでいくのだから。


 その話を聞いてから、半寒は真剣に座学へ取り組むようになった。

 サキュバスや配下である魔物の無慈悲さに恐怖を覚えてくれたのは良い傾向だった。

 サキュバスは美しい存在ではなく、恐ろしい存在だ。

 その認識が、この戦いを生き抜くにおいて最も重要だと黒田は思う。


 昨日でサキュバスに関する学習を終えた半寒。

 今日からは、組織のメンバーや、彼らの役割についての話が始まる。


「夜明けの会」には、黒田や赤沢以外にも多くのメンバーがいる。

 半寒にとって、彼らはまだ未知の存在だった。

 いずれサキュバスの住処である遺跡に向かうため、彼は仲間たちと顔を合わせる必要がある。

 道中には多くの敵が潜んでおり、サキュバスを守っている。

 それらを排除するのが、他のメンバーたちの役割だ。


 半寒には戦闘経験がない。

 だが、彼が戦う必要はない。

 サキュバスを倒すのではなく、彼女を攻略することが彼の使命だからだ。


「ようやく、サキュバスを倒せる希望が見えてきた……絶対に失敗はさせない」


 黒田は手を光らせ、空中にモニターを投影する。映し出されたのは、サキュバスの根城である遺跡だ。


 ここ数日、半寒の動向を追ったり、組織内の問題に対処したりして、サキュバスの監視が疎かになっていた。

 基本的にサキュバスは遺跡の外には出ない。

 しかし、万が一外に出た場合、彼女たちが持つ「誘惑」の魔力は人々を混乱の渦に陥れるだろう。


 ――サキュバスがまだ遺跡にいることを確認して、安心したいだけだ。


 と黒田は心中で呟いた。

 しかし、期待とは真逆の光景がモニターに映し出されていた。


「……なんだと」


 モニターに映る遺跡の光景を見た黒田は、驚愕の声を上げる。


「サキュバスが……消えた?」


 画面の中にあるべき姿がない。

 そこに広がるのは、静寂に包まれた空間だけだった。サキュバスが消えた。

 その意味するところを、黒田は本能的に理解していた。

お忙しい中、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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 何卒、よろしくお願いいたします!

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