優雅な遅刻、華麗な日常、誘拐される非日常。しかし、俺は常にハンサム
「半寒君! 何回遅刻をすれば気が済むの? いい加減にして頂戴!」
HRを終えた頃、俺は鮮やかに教室のドアを開いた。
当然、遅刻だ。担任である高山に怒られる。
遅刻は確定であったが、本当ならばHRには間に合ったのだ。
しかし、俺の通学とは、校門を超えてからが本番みたいなところがあった。
門を超えたあたりでファンである女子生徒達から手厚い歓迎をうける。
ここでスルーをすればまだ間に合ったはずだ。
しかし、ファンの気持ちを蔑ろにするのはハンサムではない。
俺は彼女達の黄色い声援に応え、そこで握手会やサイン会、チェキ会などを開催する。
その後に靴箱を覗くが、中には大量のラブレターが入っている。
手紙の数は俺の靴箱の中だけでは納まらず、隣の半田君の靴箱にも入っていた。
ここでその手紙を捨て、上靴を履き、教室へ向かえばまだHRには間に合っただろう。
しかし、その行動はハンサムではない。
俺は手紙を全て読み、中に記されている連絡先を全てメモする。
途中で、俺だけのラブレターではなく、一部ガチで半田君に向けられたラブレターもある事に気付く。
そこで俺は激しく嫉妬をし、そのラブレターを強奪した。
こうして俺は女子生徒達への好意にハンサム的対応をしまくった。
結果、そのせいで遅刻をした。
道中、制服のボタンも全部盗まれた。
「すみません。先生。ちょっとハンサムすぎて間に合いませんでした」
普通ならば「舐めてんの?」と言われる言動であったが、俺がハンサムであることは学園内では常識だ。
こんな偉そうに俺を怒っている高山ですら校門で俺とチェキ会をしていたのだから。
「まあ、次から気をつけなさいね」
そう言い、高山は教室を後にする。
彼女のポケットから何かが落ちた。
俺のボタンだった……。
普通ならば、「おい! 俺のボタンパクんなや!」
と激怒する所だろう。HRに間に合わなかった原因、お前じゃんと言いたくもなるのが人の常だ。
しかし、その行動はハンサムではない。
俺はマジックを取り出し、落ちているボタンにサインを書き込む。
そして、高山に渡した。
「出席確認、俺だけまだ取れてないですよね?」
半寒池麺という名前が記されたボタンを彼女に渡す。
「ひゃあああああ! イケメンすぎるうううう」
ハンサムが過ぎたのか、高山は気絶した。
こうして、俺の優雅な遅刻は幕を閉じた。
※
その後は、いつもの華麗な日常であった。
1限目の休み時間はファンである女子生徒達と交流会を行い、そこで俺は一人の美少女と放課後、ムフフな行為の約束をする。
2限目の休み時間はその行為が楽しみすぎてトイレで1発抜いた、
3限目の休み時間も前半は先程と同様にファンとの交流会を行い、そこでまた別の美少女とムフフな行為の約束をする。
そして休みの後半はトイレでその行為を思い浮かべて1発抜く。
昼食の時間になるとファン達から弁当を大量に貰う。それと同時にクラスメイトの男子達が嫉妬の限界を超えめちゃくちゃ睨まれる。
教室にいれなくなった俺はトイレで弁当を食う。
基本的には普通の愛がこもった手料理だが、これだけ多くの女性に好かれると、一部歪んだ愛情を抱くものがいる。
自分の血液や、髪の毛を弁当の中に入れてくるやばい奴等もいた。
普通なら、こんなもん食えるか! とその子のもとへ行き、弁当を顔面にぶん投げるだろう。
しかし、その行動はハンサムではない。
一度受け取ったのだから、完食するのがモットーだろ。
俺はやばい弁当を食べきり、その後我慢できず吐き出す。
……え? 嘔吐するのはハンサム的行動ではないって?
心配するな。俺は全身ハンサムだ。
奏でる音も、ハンサムなのだ。
俺の嘔吐音は、イケメン男性声優がアフレコしたのか? と錯覚するほどにはイケメンなボイスだ。
まあ、こうして昼休みは終わった。
その後もこれといって変わらない、ファンとの交流とムフフの約束、そしてトイレで1発抜くという日常を過ごした。
「ああ。今日もハンサムだったなあ」
放課後になり、俺は帰宅をしていた。
この後は、予定がある。
後輩であるしおりちゃんとムフフな行為をするのだ。
何でも、彼女は今日この学校へ転校してきたばかりでまだこの街を詳しく知らないらしい。
「半寒先輩に色々な所を案内して欲しいなあ」
と上目遣いで頼まれたら、先輩として、いや男として断るわけにはいかない。
この町を案内しまくり、最後は彼女の部屋を案内してもらうつもりだ。
既にシミュレーションは完璧だ。
俺のリトル……ではなく、ビック……でもない、エレファント半寒が火を噴くぜ!
「コンビニ寄るかな」
興奮しすぎたせいで、一度トイレで1発抜こうとすると、いきなり背後からブレーキ音が聞こえてきた。
「よう」
俺の隣に、黒の高級車が止まる。
窓を開け、男は俺に呼び掛けた。
会ったことはないな。
渋めの男だった。
年齢は40代後半だろうか。
オールバックで、いかつい顔。そしてタバコを加えていた。
……何か恨みを買われるようなことをしたのだろうか?
まあ、関わりたくない人種だ。
見た目危なそうだし。
「悪いですが、不気味な人とは話してはいけないと教わっていますので」
「覆面被ってるお前がそれを言うか?」
論破された。
俺はハンサムすぎるせいで、素顔で歩くと大変なのだ。
既に俺がハンサムだとしっている連中までは防げないが、覆面を被ることで俺は初対面の女性に顔を悟られず、惚れられない状況を作っている。
「まあ、その変な姿のお陰でお前が半寒池麺だと判別できた」
どうやら俺のことを知っている口ぶりだ。
やはりどこかで恨みを買ったのか?
心当たりはない。というか、男の顔など覚えていない。
「我々も手荒な事はしたくありません、ここは大人しく付いてきてください」
助手席にも人がいた。こちらは女性の様だ。
年齢は20代後半くらいか。
眼鏡をかけた、ナイスバディのお姉様だった。
「……まずいぞ」
真剣な眼差しで彼女を見つめ、俺は囁く。
あのスタイル抜群の肉体を見てしまったせいで、俺のエレファント半寒は爆発寸前だった。
このままでは俺のエレファント半寒は白い咆哮をあげてしまうぞ
「悪いが、用事がある」
「おいおい、釣れねえ事を言うな。もっと話そうぜ。お前の大ファンなんだよ」
「俺がファンサをするのは女性だけだと決めている」
引き留めるおっさんに、俺は応える。
早くトイレへ行かなければまずい!
「そうか、それならお互い遠慮はいらねえな」
二ヤリと笑みを浮かべ、男はある物を取り出した。
黒光りしているそれは、拳銃だった。
「何者だ?」
「話をするのは女性だけじゃなかったのか?」
「おい! 誰か助けてくれ!」
恐怖にかられ、叫ぶも、その声に反応してくれる人はいなかった。
周囲には俺とこいつら以外に存在せず、コンビニの中にも誰もいなかった。
こんな事、あり得るのか?
「そう騒ぐな。ちょっと眠れ」
そう告げ、男は引き金を引く。
瞬間、銃口から弾が飛び出し、俺の額を直撃した。
ああ……ムフフな行為、出来なかったな。
そんな事を思い、俺は唐突に襲ってきた放課後の非日常の中で気を失った。
※
「おいおい。嘘だろ」
半寒に向かって発砲を行った黒田直哉は驚愕する。
撃ったのは本物の弾丸ではなく、麻酔銃だった。
それでも誤って頭部を撃ってしまったのだ。
一瞬焦り、覆面を取った。
そこでまず一つ、眼の前の少年があまりにもハンサムすぎる事に驚いた。
男である自分ですら魅入ってしまうほどの完成された美しさを彼は持っていた。
助手である赤沢萌子はもう完全に惚れており、眼がピンク色になっていた。
「驚くのはそれだけじゃねえ」
次に、半寒が無傷だったことに驚く。
弾丸が命中したのにも関わらず、その綺麗な顔には傷一つなかった
「聞いた話だと、こいつは女の惚れさせるたびに、男から襲撃されるらしい。体は暴行を受けてボロボロだが、何故か毎回顔だけは無事なようだ」
あくまでもほら話と解釈していた逸話だったが、実際にその説を立証してしまった。
「彼なら……あのサキュバス達を倒せるかもしれません」
うっとりとした表情で半寒の顔を眺め、赤沢は呟く。
「そうだな。何より、こいつ自身、肝が据わってやがる」
最後に驚いたのは気絶した後に見せた彼の行動だ。
絶対に自分はどんな時もハンサムでなくてはいけない。
そんな心情があったのだろうか。
寝息はまるでオーケストラの演奏を聴いているかのような上品な音で、寝顔も、間抜けな表情ではなく、とても凛々しい表情で、鼻ちょうちんがハートの形になっていた。
「半寒池麺。こいつに賭けてみるか」
この街に謎のダンジョンが出現し、世界は混乱をしている。
そのダンジョンの探索を行い、中の魔物と戦っている秘密組織の名は「夜明けの会」
その最高責任者である黒田直哉はようやく希望の光明を見つけ、不敵に笑った。