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恋の拒絶とハンサム

 リフトの天井に開いた穴から、淡い光が零れていた。


「面白いものを見せてあげるわ〜」


 エリリカがそう呟くと、黒衣の袖の隙間から白く細い指先が覗いた。

 彼女の気配が変わる。

 静かに詠唱を始めると、空気は凍てつくように張り詰め、黒曜石の柱に刻まれた古代文字が黄色く脈打ち始めた。


「ゲート」


 その一言とともに、黄色い魔法陣が渦を巻くように展開される。

 現実と精神の境界を揺るがすかのように脈打つ紋様。その中心には歪んだ楕円の穴が形成されていく。


「これは……ワープ装置……?」


 みどりちゃんが驚きに息を呑むと、エリリカは軽く頷いた。

 一拍置いて、彼女はふっと笑みを浮かべた。


「このポータルを使えば、封印の結界に直接転移できるわ〜」


「でも、リフトを登れば普通に上層へ行けるだろ」


 仁科が眉をひそめる。

 その指摘に対しても、エリリカは首を振って否定する。


「上層にはクイーン姉様とその配下が貴方達を待ち構えているわ〜馬鹿正直にリフトを登っても全滅まっしぐらね〜。そこを飛び越えて、直接結界に転移した方が得策というわけ」


 そう言いながら、エリリカはポータルの中へと足を踏み入れた。

 その背中に、どこか寂しさのようなものが滲んでいた。

 俺たちも覚悟を決めて後に続く。


 ※※※


 ポータルを抜けた瞬間、空間の密度が一変した。

 まるで空気そのものが凍りついているような冷たさが肌に刺さる。

 薄暗い空間には一切の音がない。ただ吐く息だけが白く浮かんでいた。


 そこは巨大なドーム状の空間だった。

 床も壁も天井も、全てが蒼く透き通る氷で構成されている。

 光源はないのに、氷の奥から淡い光がにじみ出ており、空間全体が神々しい青白さに包まれていた。


 そして、中心にそれはあった。


 氷の祭壇の上に、アレッサが立ったままの姿で封印されている。

 身体は幾層もの氷に覆われ、まるで時間そのものを凍結されたかのように動かない。

 しかし、銀髪は風に揺れるようにゆらめき、頬には微かな血色が残っていた。


「アレッサ……」


 俺はその美しさに息を飲んだ。まるで、今にも目を覚ましそうだった。


「……これが、アレッサお姉様の封印ね〜」


 エリリカの声が震えていた。

 けれどその表情には、怒りでも悲しみでもない、祈りのようなものが宿っていた。


「封印の名前は、《恋の拒絶》……サキュバスにとって最も忌むべき感情――『恋心』を抱いた罰として施された封印よ〜」


 彼女は遠くを見るような眼差しで続けた。


「今ごろ、精神世界の中では、その恋心をすべて消されているはず……」


「精神世界……?」


 みどりが眉をひそめると、エリリカは頷いた。


「ええ〜この封印は二重構造。外では肉体を氷に封じ、内では精神を鎖で縛っているの」


「つまり、アレッサを完全に解放するには、外と内、両方の封印を解除しなければならないんだな」


「ご名答〜外側の封印は、アレッサ姉様を閉じ込めてる氷を破壊すれば解除できるわ〜。でも内側の封印は違うの。アレッサ姉様の精神世界に潜って、本人と直接向き合って対話するしか方法がないのよ〜」


「その精神世界には勿論俺が行くけど……どうやって入る?」


 俺の問いに、エリリカは静かに答える。


「姉様に触れるだけでいいわ〜。私の魔法で、貴方の精神だけを内部に送ることができる」


「そうか……。じゃあ、さっさとやってくれ。一刻も早くアレッサを助けたい」


 そう言って手を伸ばしかけた時、エリリカが俺の前に立ちはだかった。


「待って。先に言っておかないといけないことがあるの」


 彼女の目は、真っ直ぐ俺を見据えていた。


「姉様が封印されたのは、貴方に恋心を抱いてしまったから。だから、精神世界の中では、貴方に関する記憶は全て消されていると思ってね〜」


 少し間を置き、彼女は真剣な口調で続けた。


「――むしろ、貴方は憎悪の対象になっているかもしれない」


 淡々とした口調だったが、言葉の重みは凄まじかった。


「精神世界はね、抗えば抗うほど大切なものが削がれていく空間なの。私は、そこで想いを守ろうとして……眼を失ったわ」


 彼女の視線が遠くを見た。


「標的対象に友情に近い感情を抱いてしまった。その子の生命を吸い取れなかった。その行動はサキュバスに相応しくない。クイーン姉様の逆鱗に触れ、封印されてしまったわ」


 切ない声を発しながら盲目の少女は言葉を続ける


「封印され、記憶を消されても……私の眼には、あの時の景色が残っていた。ずっと忘れないように抗い続けていたの。その代償に眼を奪われたわ」


 それでも彼女は微笑んでいた。その笑顔が、痛々しかった。


「これから行く世界は、貴方にとって辛い世界かもしれない。でもきっとアレッサ姉様も抗っているはず。だからお願い。優しく助けてあげて」


 その言葉には、確かに優しさがあった。 

 俺を利用するだけなら、こんな警告は不要なはずだ。それをあえて言ってくれた。

 つまり、彼女もまた俺を案じてくれているのだ。


「君は優しい子だな」


 そう呟いた俺の言葉に、彼女は何も答えなかった。ただ、少しだけ視線を逸らした。


「……それでも、俺は行くよ。たとえ記憶をなくしていても、また惚れさせてやるさ。俺にはハンサムフェイスと熱い心があるからな!」


 俺はアレッサにそっと手を伸ばした。エリリカもそれに続いて、祭壇に手を置く。


「サポートは、私に任せてね〜精神世界の構造には慣れてるもの」


「助かる。精神世界へ行くのは俺とエリリカの二人にしよう」


「なら、外側の封印は私たちに任せてください。あなたたちが戻ってくるまでに、この結界を必ず破ってみせます」


 その言葉と同時に、みどりが一歩前へ出た。


「もちろん、俺も戦う」


「僕も行くよ!」


 仁科とサクライも、迷いなく武器を構えて応じる。


「気をつけて。封印が緩めば、氷の中から“番人”が目を覚ますはずよ〜。クイーン姉様に気づかれる前に、番人も結界もまとめて倒さないと、全部おしまいになっちゃうわ〜」


 エリリカの忠告に、三人は黙って頷いた。

 氷の結界を破壊しつつ、目覚めた番人と戦い、さらにクイーンに察知されないよう立ち回る。

 極限の状況での戦いは、神経も体力も容赦なく削ってくるだろう。

 だが、それでもやるしかない。

 アレッサの封印を解くには、この戦いを乗り越える他に道はないのだから。


「行こう、エリリカ。アレッサを、取り戻すんだ!」


 誓いを立て、俺とエリリカの2人で精神世界へと魂を移らせる。

 魂だけでなく、アレッサを救いたいという想いを乗せて。

お忙しい中、ここまで読んでいただきありがとうございます。

もし面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークを頂けますと励みになります。

 何卒、よろしくお願いいたします!

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