制圧班視点のみどりちゃんとハンサム
下層を制圧した仁科たちは、奥に設置されたリフトへ向かって真っ直ぐ進んでいく。
左右の視界を警戒するように、仁科とサクライは目を走らせた。
だが、その必要はなかった。
なぜなら、道の両側には、ハートマークの瞳を浮かべて跪き、恍惚とした表情で道を開けている魔物たちの姿があったからだ。
「魔物って、こんなにチョロい連中だったか……?」
仁科は内心、困惑を隠せなかった。
仁科とサクライは「制圧班」に所属している。
敵は人間、それも反社会的な組織や武装勢力が中心だ。
同じ人間ならば、急所も分かるし、身体能力もそこまで変わらない。
武器を持っている者もいるが、振動の能力を使えば大抵は鎮圧できる。
たまに、異能を扱う他組織と小競り合いになることもあるが、それでも所詮は人間同士の戦いだった。
だが――「対魔班」は違う。
相手は異形。常識が通じない生命体。
人外の魔物や、あのサキュバスのような怪物たちを相手にしているのだ。
聞けば、かつては何十人もいたはずの対魔班の隊員は、その多くが命を落とし、今ではまともに戦線に立てるのは青空みどり、ただ一人だけだという。
仁科は、こんな過酷な環境にを主戦場にしている彼女達に敬意を示したくもなっていた。
「青空みどり……あんなに強かったんだな」
顔を合わせたことは何度もあった。
けれど、任務で共闘するのは今日が初めてだ。
正直、制圧班の仲間の中には、彼女を嘲笑う連中もいる。
その理由は単純で、彼女が異能顕現に一度も成功していないからだった。
夜明けの会の中で、唯一、その力に目覚めなかった少女。
そんな彼女が、どうしてここまでの強さを手に入れたのか。
幼馴染をサキュバスに殺され、復讐のために組織に入ったと聞いている。
だが、そのために必要な素質が彼女にはなかった。
だから、自らの身体を改造したのだ。
サキュバスの細胞を取り込み、同じ土俵に立てるようにと。
友の仇である存在の一部を、自らに埋め込む。
その心境がどれだけ複雑なものだったか、想像すらできない。
しかし、現実は甘くなかった。
確かに、一部の能力は再現された。
だが、それは本物のサキュバスとは比べものにならなかったらしい。
そして今、彼女は人間でもなく、サキュバスでもない存在として、半端な立場で嘲笑されることもある。
制圧班の中には、彼女を人であることを捨てたのに、何も成し遂げられなかった愚か者と、陰で指をさす者もいる。
だが、今日の彼女の戦いを見て、仁科は思った。
「全部、間違ってる」
彼女は強い。
それは単なる戦闘力だけじゃない。
まだ治りきっていない傷を抱えたまま、仲間を救うために戦場に戻る覚悟。
その目には、恐怖も、迷いもなかった。
「……直接見なきゃ、分からねえもんだな」
呟く仁科の声は、自然と敬意を含んでいた。
そして、驚いたのはそれだけじゃない。
「半寒さん、相変わらず凄いですね! ファン一号として私も鼻が高いです!」
「ありがとな……まあ、ファン一号ではないけどな」
「この組織の中では一号ですよね?」
「まぁ……それは、否定できねえ」
「ふふっ。やったー!」
半寒と並んで笑いながら会話をする彼女を見て、仁科は唖然とした。
「あんな……柔らかい笑顔、できるんだな」
それが、彼女の素の表情だと直感した。
けれど同時に、それが今までどれだけ封じ込められていたかも感じた。
日々、仲間が死に、隊員が補充されては消えていく現場。
心を開けば、それだけ別れの痛みも増す。
だからこそ、彼女はずっと、自分を閉ざしてきたに違いない。
「俺でも絶対に心を守りに走る」
自分の明るさは、積み重ねた勝利と、守られた日常があるからこそ保てている。
みどりのような環境で笑える気がしなかった。
「そんなみどりちゃんに、ああして自然に心を開かせてるあの男……やっぱり、ただ者じゃねえな」
半寒池麺。先ほど、顔だけで魔物たちを無力化した怪物じみた男。
その正体も能力も、まだ掴みきれてはいない。
けれど、彼の存在がみどりにとって大きな支えになっているのは、傍から見ても明らかだった。
もう、みどりは一人で抱え込まなくていい。
戦場で背を預けられる仲間ができた。
しかもその男は、サキュバスに特化した能力を持ち、女性なら誰もが振り向くハンサムときたもんだ。
「そりゃ、笑顔も増える訳だ」
地球の平和とか、失った仲間達の仇とか、そんな大義なんかじゃない。
年頃の女の子が命を懸けて戦える理由なんて、案外シンプルだ。
――好きな人の役に立ちたい
そんな単純な気持ちが、一番の原動力に決まってる。
青空みどり。
彼女は――間違いなく、人間だ。
「全てが片付いたら、みんなで飯でも行きてぇな」
ぽつりと漏らし、隣のサクライに顔を向ける。
「……」
サクライは静かに同調の意思を示した。
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