ちょっと昔の事を話そうか?前日譚ハンサム
俺の名は半寒池麺。その名の通り世界中が羨望し、同時に嫉妬もする最高の顔を持つ全身ハンサム人間だ。
船頭高校1のイケメンで、街を歩けばナンパかスカウトされる程のナイスガイだ。
告白された回数はもはや覚えておらず、両手に花どころか、花屋が建てられるほどに女を囲っている。
しかし、生まれた時から美男子であった訳ではない。
俺は元々ブサイクだった。
赤子の時から平均体重を上回るデブで鼻はぺちゃんこ。
泣き声も「オギャー」ではなく「オロロロ」「オゲェェェェ」という吐瀉物を吐く時に近い音だったという。
目も白眼をずっと剥いてて危ない感じだったらしい。
あまりにも酷い顔で、俺を取り上げた助産師も二度見したあと数秒悩み、一旦母親の股の中に俺を戻したらしい。
まあ、不細工なだけならまだ救いがあったろう。
人間大事なのは中身だし。
不細工でも親に溺愛されて立派に育ったケースも沢山ある。
しかし、俺は親にも嫌われていた。
何故なら、俺は不細工な上に変態だったからだ。
母乳を吸う時は満面の笑みなのは当たり前、お盛んな時は口に含んでない方の乳を手でくりくり弄ったりしてたらしい。
まあ、これだけならまだ微笑ましいレベルだったに違いない。
「あら! そのくりくりする癖、お父さんに似たのね」
「将来は俺みたいにくりくりする夫になるな!」
みたいな一家団欒のような会話が展開され、あたたかな家庭の絵が生まれてもおかしくない。
しかし、俺の性欲の高さは両親の想像を超えすぎた。
ハイハイの練習の途中に股間を床に擦り付ける事に夢中になり、とうとう俺はハイハイよりも先に精通を覚えてしまったのだ。
最初に覚えた言葉もママではなく、俺がママから出てきた性器の名前を口にしてはキャッキャと笑ってたとのこと。
特に、夜中の3時くらいに叫んでたらしい。
ご近所さんも噂していたとか。
そんな子供に誰が愛情を注げるだろうか?
次第に親は愛想をつかし、物心つく頃には相手にされず、育児放棄みたいな環境で育った。
こんな顔に性格。オマケにチビで毛深くニキビ面だった事から学校生活もうまくいかなかった。
小学生の頃から友達はできず、ずっと馬鹿にされていた。名前で呼んでくれる人はおらず、俺の醜さを総称した「汚物」という不名誉なあだ名で呼ばれていた。
それが浸透しすぎたせいか、出席番号もいつの間にか尾花君の次に呼ばれ出した。
俺の名字は半寒なので、本来なら原田君の次なのだが、先生すら俺の事を汚物扱いしていたのだろう。
幼い頃は孤独感に苛まれ、毎日泣いていた。
一番いじめが酷かったのは中学の頃だ。
靴箱には突然靴はなく、教室に入ると女子の悲鳴が俺の耳に入ってくる。
机には悪意のある落書きがたくさん書かれており、殴られるのなんて日常茶飯事だった。
クソ!クソ!・・・ふぅ。と休み時間、トイレの中で俺はいつも復讐心に燃えていた。
俺を汚物扱いする女子と嘲笑う男子。いじめの現場を見て見ぬふりした後、もう一度見てはちょっと俺の顔を見て笑う教師陣にイラだっていた。
周りは変わらないだろう。何故なら俺がブサイクだから。この地獄から解放されるには、俺がイケメンになるしかない!
中2の夏、俺はイケメン計画を実行した。
夏休み中、俺は本格的に自分を変えようと頑張った。
まず、たるんだ身体をなんとかするためにダイエットをした。
取り敢えず走りまくった。身体も鍛えた。インスタント食品ではなく自炊を始め、不摂生な生活を辞めて早寝早起きをした。次第に痩せ、ニキビも減っていった。
次に脱毛サロンに通った。親に頭を下げて、金を出して貰った。もう俺の事なんて興味ないから何もしてくれないだろうと思っていたが、予想と反して親は応援してくれた。
ただ、変わろうとする姿勢に感銘を受けただけで、俺の容姿は生理的に受け付けないらしく、フェイスガードとアルコール除菌、そしてゴム手袋をした状態で激励をされたのが少し傷付いた。
両親のサポートのお陰もあり俺は金の力で憎き剛毛とオサラバした。
他には洗濯バサミで鼻を挟んで綺麗な筋を作ろうとしたり、毎日アイプチで二重を作って定着させようとしたりと地道な努力をコツコツ行った結果
俺はいつの間にかイケメンになっていた。
身長も何か知らんが190センチ台に突入し、見事な細マッチョの完成だ。
ここまで読んで、「おい、お前1話でダイエットとか美容に気を遣ってる奴は偽物だって言ってなかったか?」と思う連中もいるかもしれない。
俺もそう思う。完全なブーメランだろう。
だが、俺は自分を棚に上げてもいいと思う。
それを平気で行っても許されてしまうほど、俺はイケメンなのだから。
こうして嫌われ者の汚物から泣く子もほの字で黙りながら初潮を迎える顔面国宝へと進化した俺は夏休みを明け、登校する。
ここから、俺の人生は変わった。
学校中の女子が俺に惚れた。
それどころか他校の女子も俺に夢中になった。
周りの掌返しに腹は立たなかった。何故なら、この反応こそ俺が求めていたものだったから。
ああ、なんて痛快なんだろうか。
なんて爽快なんだろうか。
そして、俺はなんてハンサムなのだろうか。
そんな満足感を抱いたまま、俺はイケメンとして中学を卒業し、船頭高校屁と入学した。
そして現在、高2の夏を迎えようとしている。