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新たな仲間とハンサム

「……半寒さん、もうすぐです。転移口が安定してきました!」


 みどりが息を切らしながら、黒田が作ってくれた転移ゲートに乗り込む。

 その額には冷や汗が滲み、彼女も限界に近いことが伝わってくる。


 俺は、振り返った。


 視線の先には、立ちはだかるようにして残された男の影が揺れていた。


「黒田……」


 不器用で、熱くて、無謀で。だが、頼れる組織のボスだった。


「お前、無茶だけはすんなよ……」


 心の中でそう呟いたが、口には出さなかった。ここで言葉を交わせば、きっと後戻りできなくなる。

 黒田が選んだ戦場。俺がすべきは、彼を信じて、生き延びること。


 だが、脳裏には、別の姿が浮かんでいた。

 光の中に封じられた彼女。美しいはずのその瞳が、涙に濡れていた。


『今日のデートは楽しかったですか?』


『私は、貴方に可愛いと思ってもらえたでしょうか?』


 アレッサ・サーキュベーター。

 彼女の問いかけが、まだ耳に残っている。

 だから俺は、あの時、叫んだのだ。


 ――必ず、お前を助ける!!


 あの叫びは、今も胸の奥で燃えている。


「……行くぞ、みどりちゃん!」


「はい!」


 俺は転移口へと飛び、出口目指して空間を真っ直ぐ走った。


 ※※※


 転移が完了した瞬間、視界が明るく開けた。


 そこは、組織の地下本部。

 無機質な金属と白色灯に包まれた広い空間。

 壁際にはモニターが並び、数人のオペレーターが慌ただしく端末を操作していた。


「半寒さんとみどりちゃん! 無事だったのね!」


 駆け寄ってきたのは赤沢だった。

 俺達の顔を見て安堵の息を漏らすと、ゆっくりと駆け寄り、二人を抱きしめる。


「黒田に助けてもらった……あいつはまだ遺跡の中で戦ってる」


 俺の言葉に、その場の空気が一瞬、張り詰める。

 みどりちゃんも息を整えながら、震える声で続けた。


「今すぐにでも、救出に戻らなければ……彼を死なせる訳にはいきません」


「今すぐにって……貴女、ひどい怪我じゃない」


 赤沢の言う通り、みどりちゃんは重症だった。

 全身には血が滲み、服も所々破れていた。

 普通なら立っているのも不思議なほどだ。


「私は半分サキュバスです。治癒能力は普通の人より早いんです……あとは半寒さん次第ですが、できれば急いでもう一度、遺跡へ向かいたいと思っています」


 言葉には、無理を押してでも向かおうという意志が宿っていた。


「半寒くん。どうするの?」


 周囲の視線が彼に集まる。俺も勿論、みどりちゃんと同じ気持ちだった。


「今すぐ助けに行く。アレッサも、黒田も……今度こそ、全員を救い出す」


 黒田は俺たちに逃げろと命じ、自らを犠牲にした。

 みどりちゃんも、満身創痍だ。

 本来なら、休養を取って体勢を立て直し、確実な機会を待つべきなのかもしれない。

 だが、そんな冷静な判断は、頭に浮かばなかった。

 ここで動かなければ、一生後悔する気がした。


 その言葉に、赤沢はじっと俺を見つめたまま、しばし沈黙を保っていた。


「……わかった。傷の手当てが終わり次第、急いで作戦会議を開きましょう。ただし、次は仲間を増やして遺跡に潜入してもらうわ」


 赤沢の真剣な眼差しに、俺は思わず眉をひそめた。


「仲間って……他に戦えるやつなんて残ってるのか?」


 首を傾げる俺とは対照的に、隣でみどりちゃんが勢いよく立ち上がった。


「まさか……! 彼らが任務から戻ってきたんですか!?」


 期待を込めた彼女の声に、赤沢は頷く。


「ええ。予定より早く任務が終わったらしくて、ついさっき帰還したわ」


 赤沢は少し微笑みながら、懐かしそうに視線を落とした。


「そういえば、以前黒田が言ってなかったかしら? 貴方をサポートする戦闘員を紹介したいって」


「……言ってたような、言ってなかったような」


 曖昧に首をひねる俺の脳裏に、薄ぼんやりとした記憶がよみがえる。

 組織に入ってすぐ、座学や訓練で頭がいっぱいだった頃、黒田がそんな話をしていたような気もする。


 そんな矢先、アレッサとのデートが始まり、彼女がサキュバスだと判明して、いつの間にかその話自体、頭の片隅に追いやられていた。


「まあ……仲間が増えるなら、頼もしい限りだな。会わせてくれ」


 そう口にした俺は、ようやく少し前向きな気持ちを取り戻し始めていた。


 ※※※


 作戦会議室の扉が静かに開き、二人の男が姿を現した。


 一人は長身痩躯で、白髪を後ろで束ねた青年。

 無表情の中に鋭い眼差しを宿し、黒のロングコートの下には白シャツと軽装のアーマーを纏っている。

 腰には、細身の双剣が揺れていた。


「ユーゴ・サクライ。近接戦闘に特化した剣士で、冷静沈着。無口だけど任務の成功率は常に100%。一部では人形剣士とも呼ばれているわ」


 赤沢の紹介に、サクライは機械のように滑らかな動きで会釈を返す。その無機質な所作は、まさに熟練の剣士という風格を漂わせていた。


 ——この男が取り乱す姿なんて、想像もつかない。


「え? ええ? な、なぜあの人、覆面を……?」


 次の瞬間、サクライの瞳が見開かれる。

 俺の顔を凝視しながら、完全に動揺していた。


 ……前言撤回。めちゃくちゃ動揺してた。


 まあ、サクライがどんな奴かは何となく理解できた。

 俺は隣に立つもう一人へと視線を向けた。

 対照的に現れたのは、筋肉質で金髪を逆立てた青年。

 陽気な笑顔を浮かべながら、軽量装備をまとっている。

 肩には異様に大きなスピーカーのような機材を背負っていた。


「仁科ライガ。彼は異能顕現いのうけんげんで様々な振動を具現化させ、武器にする。ちょっと騒がしいけど、熱い男」


 赤沢の言葉に合わせて、仁科がにやりと笑う。


「へいへい、お初にお目にかかります! 魔物と戦うのは初めてで少し不安だが、そんな事は気にしねえ! ゴブリンもオークも全部ノリノリでぶっ飛ばすぜ!」


 仁科の明るさに、焦燥で張り詰めていた胸の奥が少しだけほぐれた。

 ……俺も相当、疲れてたんだな。

 彼みたいに、何事も前向きに考える心がないとな。


「おいサクライ。何で彼は覆面を被ってるんだ? あんな変な奴とチームになるなんてこの先が不安なんだが……」


 前言撤回。

 めちゃくちゃネガティブな発言が聞こえてきた。

 どれだけ豪胆に見えても、顔を隠した奴には不信感を覚えるらしい。

 俺の外見が特殊だってことは、どうやら言い訳できそうにない。


「この二人はね、制圧班最高のコンビなの!」


 赤沢が胸を張って言うその言葉に、俺は思わず眉をひそめた。


「制圧班……?」


 彼らは夜明けの会の一員じゃないのか?


「所属が違うの。私やみどりちゃんは、対サキュバス戦専門の対魔班。一方で、彼らは制圧班所属なの」


 赤沢は、俺の疑問にすぐさま応じるように説明を続けた。


 夜明けの会には、戦う対象や戦法ごとに分けられた複数の部隊が存在する。

 制圧班は、国内外に潜伏する反乱分子・敵対組織・重大犯罪者など、対サキュバス以外の危険因子を制圧する部隊だった。

 彼らの活動領域は、戦場でも街中でもなく、社会の闇そのもの。表に出せない事件の後始末を専門とする、影の制圧部隊らしい。


「ごめんなさいね。半寒君には、実際に会った時にちゃんと紹介しようと思ってたの」


 赤沢が少し申し訳なさそうに、両手を合わせて頭を下げる。

 まあ、俺はそもそもサキュバスを惚れさせるためだけにこの組織に入った人間だ。 

 他部隊の話なんて、聞く必要すらなかったのかもしれない。


「なるほど。彼等は、影の仕事人って事だな」


 俺の呟きに、仁科が声をあげて笑う。


「その通り! でも今回はな、影に隠れるのはやめだ。ド派手に行こうぜ、覆面!」


「……」


 その隣で、サクライが無言で頷いた。


「サキュバス関連の任務は俺たちの管轄外だけどな。黒田さんの危機とあっちゃ、断れないさ! 一緒に助けようぜ!!」


 暑苦しくも、どこか心地のいい大きな声が響く。


「……」


 隣でサクライも、静かにこくりと頷いた。

 ……というか、彼は喋れないのか?


「また濃い奴等が加わったな」


 新たな仲間を眺めながら、俺は呟く。

 この頼もしくも愉快な二人が加わったことは、今回の任務にとって大きな力になるだろう。

 俺は深く息をついて、仲間たちの顔を見回した。


「よし、作戦会議に移ろう」


 空気が引き締まった。次の戦いは——これまで以上に過酷になる。

お忙しい中、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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 何卒、よろしくお願いいたします!

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