組織会議とハンサム
黒田からの電話を受けた俺は、至急組織へ戻れと命じられた。
何度も電話をかけたのに出なかったことに対し、大いに憤っているようだったが、それについては仕方がない。
「っと、この群れを突破するのはきついなあ」
俺は、黄色い歓声を上げながら押し寄せる女性たちの群れを見渡し、これ以上素顔を晒すのは危険だと判断する。
素早くポケットから覆面を取り出し、顔を隠した。
歓声のボリュームが一瞬下がる。
「キャー!」の熱狂が「え? なんで隠すの?」という疑問のざわめきに変わったが、気にせず群れをかき分け、花火大会の会場を後にした。
「半寒さーん!!」
その途中、みどりちゃんと遭遇する。
彼女は俺の動向を追っていたらしく、すでに車を手配していた。俺が何も言う前に、黒塗りの高級車のドアがスッと開く。
「乗ってください」
短く促されるままに車へ乗り込むと、ドアが静かに閉まり、エンジンが低く唸りを上げた。
運転手はスキンヘッドに黒縁メガネの厳ついおっさん。
だが、俺の方が圧倒的にかっこよかった。
ああ、俺ってやっぱイケメンだなと再確認しながら、俺たちは組織へと向かった。
「お前、電話には出ろ! 緊急事態だったんだぞ!」
組織に到着するなり、黒田が血管が浮き出るほどの剣幕で怒鳴ってくる。
「悪い。それどころじゃなかったんだ」
軽く頭を下げて謝罪し、俺の身に起きた出来事を説明した。
「何!? サキュバスと遭遇しただって!」
「ああ。しかも、うちの後輩だった……なんなら、さっきまでデートしてた」
「で、デート!?」
衝撃のあまり、黒田は高級感漂う黒皮の椅子から立ち上がり、俺に詰め寄る。
「その様子だと、サキュバスに心を魅了されることはなかったんだな?」
「ああ。むしろ、サキュバスの方が俺の顔に見惚れて鼻血を出してた」
「……は?」
黒田の口がポカンと開く。
「あらゆる兵器や異能の力すら防ぐ鉄壁のサキュバスにダメージを与えたのか?」
「そういうことになるな」
黒田は額の汗を拭き取り、驚き疲れたようにため息をつきながら、ゆっくりと椅子に座り直した。
「もはやお前の顔面は兵器だな。いや、それ以上か……」
「半寒さん、本当にすごかったですよ!」
興奮気味に横から口を挟んだのは、みどりちゃんだった。
「私も現場を見てたんですけど、覆面を外した瞬間、サキュバスが恍惚とした表情でぼーっとして、最後には鼻血を出して倒れましたから!」
どうやら、みどりちゃんは黒田からサキュバス脱走の件を聞いた後、ずっと俺を尾行していたそうだ。
彼女はサキュバスの細胞を身体に取り込んだ少女であるため、奴らの思考や気配をわずかに察知できるらしい。
サキュバスが外へ出てきた場合、まず何をするのか。そして、誰に会うのか――
この推測の末、美しい存在を狙うと見抜き、俺をマークしていたとのこと。
で、見事に的中したというわけだ
「俺が危険に晒されたら手助けするつもりだったらしいけど、同時にそんな心配もないだろうって予想してたみたいだな」
「ええ。だって、サキュバスもきっと半寒さんの顔に屈すると思いましたから!」
ちなみに、みどりちゃんも覆面を外した瞬間、尾行の目的を忘れて、周りの女性たちと一緒にキャーキャ騒いでいたらしい。
もっと早く助けに来てくれれば良かったのに……と思ったが、俺の顔を見て喜んでくれているんだ。
怒る事はできなかった。
むしろその立ち回りこそ、流石は俺のファンに相応しい。
褒めて使わそう。
「横山しおりが船頭高校へ転校してきたのは今から6日前か。その間、サキュバスの監視を怠っていたのはこちらのミスだ」
黒田が低く呟く。
「まさか遺跡から出ていたなんて思いもしなかった。そして、一般人として擬態していることも予想していなかった……」
サキュバスはその美しさゆえに、人前に姿を晒さない。
無闇に外へ出れば、周囲がパニックになり、自分も面倒ごとに巻き込まれる。
まあ、覆面を外した俺みたいな感じになるんだろうな。
それは確かにだるい。
「だが、研修のときに見た容姿とは違っていた。まさか、サキュバスは複数体いるのか?」
半寒の問いに、黒田は眉をひそめる。
俺が見たサキュバスは、銀髪に紅の瞳、漆黒のドレスを纏った典型的な異形の美だった。
だが、横山しおりはどう見ても違う。
黒髪で、瞳は琥珀色。
仕草も小動物の様な保護欲をそそらせる可愛さで、サキュバスの様に圧のある美しさとはほど遠かった。
「カメラで確認し、実際に交戦したのは一体だけだ……たぶん、あのサキュバスが人間界に溶け込むために擬態してるんだろう。横山しおりって名前も、本来の姿じゃないと見てる」
黒田の声は冷静だが、その言葉の裏には警戒心がにじんでいた。
「本来、サキュバスは遺跡に引きこもり、すべての雑務を配下の魔物に任せていた。それが、自ら外に出てきた……」
黒田の表情が険しくなる。
「サキュバスは、ついに世界征服を実行するつもりなのかもしれんな……」
世界征服。それがサキュバスがこの世界に現れた目的。
3年前、突如として姿を現し、謎の遺跡を築き、地球に宣戦布告した。
「今から4年の猶予を与える。その間に、我が伴侶となるに相応しい強者を用意せよ。それができなければ、この世界を征服する」
そう高らかに宣言したのだ。
「でも、まだ1年の猶予があるんだろ? いきなり計画を早める理由がわからない」
「我々は何度もサキュバスに挑んだが、すべて失敗に終わった。だから、もう4年も待つ必要がないと判断したんじゃないか?」
この世界には自分に相応しい伴侶はいない、と見切りをつけたのか。
「しかし、このまま黙って世界征服を許す我々ではありません!」
みどりが力強く言い切る。
「何より、組織には半寒さんがいます! これから逆転も可能です!」
「そうだな……」
黒田は静かに頷く。
「監視カメラには依然としてサキュバスの姿は映らない」
黒田は画面を見据え、低く呟く。
「逆に好都合だ。奴が不在のうちに拠点を潰せば、いくらサキュバスでも大きな痛手を負うはずだ」
「そうですね。少なくとも、サキュバスの帰る所はなくなりますし、配下の魔物は一掃できます」
黒田の意見にみどりも頷き、二人の視線はやがて、俺に向けられる。
「……作戦を練るぞ。半寒、お前は引き続き学校でサキュバスと接触し、惚れさせろ!」
「……惚れさせろ?」
「そして、奴が不在の間に、俺たちは遺跡へ侵入し、破壊を行う!」
黒田の命令にみどりちゃんは「はい!」と元気よく了承した。
「俺に与えられた役目は重要だな……」
仮に黒田達が遺跡を破壊したところで、肝心のサキュバスが無事なら大した意味がない。
むしろ逆上されさらに危険な事態になりかねないだろう。
だからこそ、予め彼女を惚れさせる必要がある。
身も心も俺という沼に溺れさせ、主導権を握ってしまう必要があるのだ。
「‥‥‥やはり、俺の顔にかかっているというわけか」
やれやれ、困ったものだ。
もう俺のハンサムフェイスは組織公認で最終兵器扱いされているらしい。
しかし、俺にはもう以前の様な不安は無くなっていた。
俺の顔は、確かにサキュバスにも通用したのだから。
「今度こそ、完璧に惚れさてやる」
静かに決意し、左拳を握る。
俺の名は半寒池面。人の魂など興味はないが、恋の味は知り尽くしている男だ。
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