第99話 邪神イャルドラ編 聖女敗北す。
王都の門を潜って護衛の2人と別れて私とヤスハさんは街を散策しながら宿屋を探していた。
だが、私達の前に騎士団が立ち塞がる。
公共の面前で騎士団が道を塞いでいる光景は物々しい。
「国王陛下がお待ちです。」
理由も告げず、国王陛下が私たちを待っている事が信じられるのか?
それに騎士団達の表情が無い。
嫌な予感がする。
「どう言ったご用件で陛下は私達を待っているんですか?」
「あなたが聖女だからです。」
なるほど、どんな方法で私が聖女だと知れたのかも興味はあるが、是が非でも私を連れていきたいのだろう。
取り囲んでに威圧されている。
「わかりました。」
騎士団に先導されながら私達は王宮までやって来た。
綺麗な大理石で出来ている壁面と通路。
豪華な装飾の扉に通されると広い部屋で赤い絨毯が敷かれていて、部屋の奥には王座があり、国王らしき人物が座っている。
騎士が左右に並ぶと1人の騎士が国王に話しかけている。
ドアの入り口からでは何を話しているのかは聞こえない。
「聖女殿とその連れの方。
国王陛下で御座います。」
ドアの前からゆっくりと王座の近くまで歩いていき、跪いて頭を下げた。
「まだ何故ここに呼ばれたのか、私も彼女も分かっていません。
どの様なご用件でしょうか?」
「これは失礼した。
全ては絶界の巫女アーリアの予言により、今日訪れる事がわかっていた故、招いたのだ。」
ここでも予言されていたとは驚きである。
何処まで信じて良いものか、私の訪問すら当ててしまっているとするならば予言と言うものに興味が湧いてくる。
「そうでしたか。
確かに私は聖女です。
この様な形で国王陛下に謁見を賜るとは想定外ではありますが、私は他の世界から召喚されました。
その理由についてはご存知でしょうか?」
王座の国王を私は鋭い眼光で見つめる。
「その理由は知っているぞ。
この世界での聖女について語る必要があるな。
暁の聖女は黒き闇の悪魔を光と変える。
つまりは神への生贄として、その身を捧げてもらう為だ。」
国王の左横に立つ女性は凄まじい魔力を秘めている。
蒼白の長い髪と綺麗な顔の女性は王妃では無さそうだ。
国王が言った絶界の巫女である確率が高い。
そして、私は窮地に立たされようとしている事も理解した。
周りを騎士達が取り囲み、剣先を向けられている。
この世界に来て以来狙われ続けている。
ここは退避する事が優先になりそうだ。
神眼は国王の隣の女性から無数の魔力の糸がこの部屋のもの達と繋がっているのを捉える。
国王すらも操られていたか。
「さあ、聖女様。
この世界の礎と御成ください。」
やはりヤスハさんはここまで私を監視する為に付けられていた。
強引にでも王都について来たわけだ。
「さあ、聖女よ。
大人しく従え。」
満を辞して教皇イラミールが王座の脇から現れた。
この国自体が邪神教団に乗っ取られていると言うことか。
「あなたは誰ですか?」
国王の隣の女性を睨みつけた。
「私は邪神教団教祖絶界の巫女アーリア。
あなたをこの世界に召喚した者。
大人しく邪神復活の生贄となりなさい。」
やはり彼女が絶界の巫女アーリア。
他の誰よりも魔力が強い。
『シャイニングボルト』全方向型聖属性雷撃。
部屋中に雷撃を浴びせて、ドアの方向に回避した。
そのままドアを突き破り、窓ガラスを割って飛行魔法で飛び去った。
だが、完全に安全圏は無い。
国王が操られていると慣れば、この国自体が敵。
こんな事もあろうかと廃墟の街に転送陣を設置して来た。
それを使って一気に転送して難を一旦逃れた。
ヤスハさんが操られていない事はわかっていた。
だが、味方なのか敵かまではハッキリしなかった。
国王に謁見して邪神教団と共闘も考えて王都まで来たが、国王も国すらも邪神教団に支配されているとは誤算だった。
タブレットを取り出して、何か連絡が来てないか確認してみる。
こちらの世界の問題も解決すると言ってしまった手前、すぐに戻るとも言い難く何とか今の現状を打破できる方法を模索しなくてはならない。
アプリをタップして映像通信を試みた。
「お疲れ様です。
センター長状況はどうですか?」
タブレットにエリサが映った。
「よく無いわね。
状況を話すわね……。」
エリサにこれまでの経緯や現状に至るまでを詳しく説明した。
私よりも険しい顔をエリサはしている。
現地で困っているのは私なのだが。
「センター長。
やばいっすね。
戻ったらどうすか?」
「そうは行かないよ。
このままだと邪神教団に世界は滅ぼされかねないし、そちらに戻ってもまた召喚されるかも知れないでしょ。
それなら火種は潰しておいた方が良いに決まってる。」
「わかりました。
こっちでも対策考えてみるんで、無理しないでくださいよ。」
「悪いわね。
また連絡する。」
そう言うと通信を切った。
さて、隠れて居るだけでは何も進展しない。
恐らく私の場所を知る手立てがあるに違いない。
一人というのはこれ程に心細いものなのだと思い知らされる。
そして、不安は的中する事になった。
大きな魔力が多数私の周囲に展開した。
今一人の私を追い込みに来たのだろう。
数は10人程、建物の外に出ると空中に私を囲んでいる。
「聖女よ。
審判の時です。」
絶界の巫女アーリアは一際大きな魔力で私を威圧してくる。
教皇イラミールとその配下も大きな魔力を感じる。
一人でこれだけの人数を相手にするのはヤバいに決まっている。
「女一人に10人とは豪華なお迎えね。」
アヌノヒトミと覇衣を展開。
教皇イラミールと絶界の巫女アーリアは何もせず、周りの部下達が私に魔法の攻撃を開始した。
四方から無数の魔法が飛んでくる。
覇衣の効果でダメージは無いが自分のペースに持っていく事が出来なくなっている。
絶界の巫女アーリアの力も不明な状況で防戦一方なのは望ましくない。
『ウインドカッター』を出しつつ状況を立て直す。
教皇イラミールの部下達は動きに迷いや恐怖心を感じない。
恐らく操られているに違いない。
私の攻撃にも一切戸惑いや怯む様子がなく淡々としている。
そして、絶界の巫女アーリアが急に魔力を高めたかと思うと黒々とした雷撃が私を襲った。
周りからの攻撃で注意力を怠ってしまった。
雷撃は私に命中した。
「きゃあぁぁ。」
激痛が全身を巡る。
そんな筈はない。
私には痛覚無効の効果がある。
これ程の激痛が全身を巡る事などありえない筈。
と思ったが、あまりの激痛に力無く地面に落下して倒れ込んでしまった。