第96話 邪神イャルドラ編 繋がる世界
酒場のマスターと意気投合して、美味しいお酒を振る舞って貰えた。
女の武器をこれでもかと言うくらいに使わせてもらった。
おじさんは若い女の子に優しい。
そして、可愛い容姿の私にマスターや周りの男性冒険者もメロメロである。
「私は詳しく無いので聞きたいんだけど。
王都への行き方を教えて欲しいの。」
女性はその効果を知っていて自然と可愛い仕草や言葉使い、声のトーンを変えられる。
ある意味スキルかも知れない。
「それだったら明日王都行きの馬車が出るから乗っていけば良いぞ。」
「良かった。
馬車出てるんですね。」
馬車なんだ。
異世界はまだ文明がかなり遅れていると言う事なのだろう。
飛行機や車があると楽なのだが、もしかすると飛行魔法の方が早いかも知れない。
酒場から宿屋に戻るとヤスハさんはベッドでスヤスヤと寝息を立てて眠っている。
この先、ヤスハさんを連れて移動するのは厳しい。
この街でお別れした方が良いだろう。
部屋の外に出て一階のロビーに休憩所がある。
テーブルと椅子があり、飲み物も飲む事ができる。
椅子に座ってタブレットを取り出した。
こちらの世界の人間に見られると少し説明も厄介なので人がいない時を見計らって使うことにする。
タブレットの電源を入れると、通信を受信していた。
メッセージは「このアプリをダウンロードしてください。」となっている。
アプリをダウンロード。
すると、タブレットが充電を始めた。
亜空間通信で遠隔充電しているようだ。
もう一つアプリが届いている。
それもダウンロードした。
インストールしたアプリをタップすると。
「あ、センター長。
繋がりましたね。」
タブレットに映像通信ができる様になった。
「へぇ〜、凄いじゃない。
久しぶりね。
エリサ。」
ギルド本部技術開発部のエリサ・クランデルが画面に映っている。
「センター長。
まったくマリナヤさんに泣きつかれて渋々ですよ。
忙しいのに。」
「あら、ごめんね。
凄い技術ね。」
「そうでも無いですよ。
こちらにはゲートが有りますから。
そこに通信用のビーコン飛ばしてセンター長のタブレットの信号を拾うだけ。
後は亜空間通信でアプリを送れば。
簡単な仕事です。」
決して簡単では無いと思う。
この世界の人が聞いたら腰抜かしちゃうくらい凄い事ですよ。
「そうか、ゲートがあったわね。
私の故郷もゲートで繋がってるんだから、この世界もゲートで繋げられそうね。」
「お!鋭いですね。
ちなみにセンター長の故郷をゲートで繋いだのは私達なんで。
知ってました?」
「え?そうなの?
知らなかった。」
「そうなんですね。
だから、もうそちらのゲートの位置も把握してますよ。
いつでも世界を繋げられますよ。
帰って来ますか?」
凄く簡単な作業のようにおっしゃってますが、凄い事ですよ。
世界と世界を繋ぐ事が出来るなんて。
「ハハハ、そんなに簡単なの?」
「ええ、そうですね。」
驚きの連続だ。
異世界への扉は簡単に作れるなんて。
「でも、まだ帰らないわ。
こちらの世界の問題も解決したいし。
マリナヤさんにはもう少し待ってくれと伝えて置いて。」
「センター長も物好きですね。
他の世界も助けようなんて。
そうっすか。
じゃあ、ゲートの位置を送りますので、確認だけしといてください。
とりあえずは即席なんで、ゲート位置に着いたらセンター長の聖女の覇衣で空間に衝撃を与えれば数分間ゲート開きます。
よろしくお願いします。」
通信は切れた。
とにかく帰る方法はわかったので安心だ。
タブレットを仕舞って部屋に戻った。
ヤスハさんは起きていてベッドの上で座っている。
「起きましたか。
お疲れだった様ですね。」
「ええ、すいません。
寝てしまいました。」
私も自分のベッドに座った。
「明日王都へ行く馬車に乗ろうと思います。
ヤスハさんはこの街に残ってください。
此処なら安全だと思います。」
正直一人の方が行動しやすい。
冒険者ならまだしも、戦闘経験のない人を連れて移動するのはリスクが高い。
「聖女様。
私も王都に連れてってください。
お願いします。」
真剣な表情で私を見ている。
そう言うふうに言われたら嫌だと言いづらい。
恐らく私は困った顔をしているに違いない。
「困りましたね。
王都まで安全とは限りませんよ。」
「足手纏いにはなりません。
もし邪魔な時は捨てて貰って大丈夫です。」
捨てて行けるわけないでしょう。
何を言っても行きたいと言うのだろうな。
「わかりました。
何とかします。」
食事を一階の食堂に行って食べる事にした。
明日の事を含めて話をしながら食べ終わるとヤスハさんを部屋に戻して私は外に出て酒場に向かった。
護衛の冒険者を探すためだ。
酒場には男女の冒険者が多数テーブルで楽しそうに食事とお酒を楽しんでいる。
手前のテーブルに男性冒険者と女性冒険者の2人が食事をしている。
見たところ、若くて腕も立ちそうだ。
「こんばんは。
此処良いかしら?」
テーブルの空いている席の所に来て声をかけた。
「ん?
どうぞ。
冒険者かい?」
「ええ。
ちょっとお願いしたい事があって声をかけたの。」
私の笑顔に対して2人はお酒を飲みながら。
「ん?
お願い?」
ほんの少し何を言われるのだろうと言う身構えているような表情を見せた。
「明日、王都まで護衛の仕事を受けて貰えないかしら?」
「明日か〜、良いぜ。
報酬は?」
どうやら男性冒険者の方が立場的に主導権を持っていて、女性冒険者は関心を示さず任せている雰囲気を見せている。
「2万クレで如何かしら?」
この世界の通貨はクレ。
換金でかなり稼げたので、このくらいなら報酬で出せる。
「帝都までの護衛だけでそんなに貰えるの!」
思わず女性冒険者が身を乗り出して驚いている。
ちょっと奮発し過ぎたか?
「2万クレか。
良いぜ。」
男性冒険者も満足そうに微笑んだ。
「明日、そこの宿屋に集合で、出発前に前金1万クレ。
到着して1万クレ渡すわ。
これで良いかしら?」
「ああ、良いぜ。」
私は2人と握手を交わした。
「私はトモミ・キサラギよ。
あなた達の名前も教えて。」
「俺はルトル・クランサだ。」
「私はミーナ・キャベルよ。」
お酒で乾杯をして、料理を食べてお互いの冒険者話しで盛り上がった。
私が聖女である事はこの先も伏せていく。
この世界で聖女という存在がどの様な物なのかもわからない以上厄介事にならないようにしなくてはならない。