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第95話 邪神イャルドラ編 奇跡の街

以前はそこそこ大きな町だったに違いないと思わせる開けた道や建物の跡が並んでいる。

その中に屋根まで残っている家が数軒あり、その一軒に身を寄せている。結界を張り、イザナミに周囲の警戒をさせて、ヤスハにはあまり綺麗ではないが、毛布とマットレスでベッドを作って寝させている。

私はソファに寝転がって数時間睡眠が取れた。

気がつくと外が明るくなっている。

ゆっくり起き上がると窓から外を覗き込んだ。

追って来るものの気配はない。


冒険者は非常食を持ち歩いている。

そんな私も収納魔法の中に非常食を常備している。

いつ何時遭難や閉じ込められる事になるかわからないからだ。

テーブルの上に非常食を並べて置いた。

そうしていると、朝の光に導かれるようにヤスハは目を覚ました。

「聖女様。

おはようございます。」


「おはようございます。」


「ここは?」


「廃墟の街があったので屋根のある家の中に隠れました。」

ヤスハは起き上がると窓から外を覗き込んだ。

「………、此処に来てしまったのですね。」

遠い目をして窓から見える景色に涙を流していた。


「かなり前に廃墟になったようですね。」


「ええ。10年前になりますね。

私と教皇イラミールはこの街で産まれました。

幼馴染で小さい時は良く遊んだものです。

イラミールは2つ年上で私は兄の様に慕っていました。

10歳の時、私は巫女の力に目覚め、イラミールは神の声を聞き、時間と空間を操れる神童と呼ばれ、この街は奇跡の街と呼ばれる様になったのです。

そして、私が20歳になった時、王国は私達の噂を聞きつけて軍隊を派遣して街に侵攻してきたのです。

人々は抵抗した為、街は焼かれ、家族は殺され多くの人が死にました。

僅かな人達と一緒に私はあの街に身を隠し、イラミールは森林の奥深くに潜み、王国を恨んだ挙句、邪神イャルドラを信仰する様になりました。

私は何度もイラミールに邪神イャルドラは危険だと言ったのですが、彼はもう心まで邪神に侵食されていました。

私が住む町を襲って来なかったのは、微かな私への記憶のお陰だったのかも知れません。」

この街を見つめるヤスハの瞳に遠い昔の事が映り出されているのだろう。

廃墟と化したこの街はあまりにも寂しすぎる。


「そんな事があったんですね。

私の名前はトモミ・キサラギです。

あなたが私の名前を聞いて来ないので、言いそびれていました。」


「名前をお聞きしなかったのは、直ぐに王都に向かわれてしまうと思ったからです。

私の事など聖女様の記憶にも残らない存在ですから。」


「私は凄く警戒はしていましたが、名を聞いて忘れる薄情な女では無いですよ。」


「これは失礼しました。

でも、大丈夫なのです。

名を聞けばその方の事が気になってしまう。

それも辛いのです。」


そんな話をしながら、私の持って来た非常食で何とも味気ない朝食を2人で摂った。

ヤスハの話では此処から南に降っていくと城塞都市ティラングがあるという事で向かう事にした。

歩いて数時間の距離。

私は平気だが、ヤスハには厳しい道のりだろう。

魔物との遭遇でヤスハを庇いつつ前進していく。


5時間程歩いて漸く城塞都市が目視できる場所まで辿り着いた。

後もう少しで到着だ。

森を抜けると城塞都市の入り口に到着した。

門の前には誰もいない。


「何者だぁ!」

城壁の上から男の声がした。


「街に入れて欲しいのですが。

ここを開けてもらえませんか?」

城壁の男性は面倒そうな態度で階段を降りて来てくれた。


「どこから来たんだ?」


「北のダスメの里から来ました。

魔物に襲われて町は壊滅してしまいました。」

半分本当で半分は嘘ですよ。

いろいろ詳しく話すと面倒な事になりそうなので、今は襲われた事にしました。


「そりゃぁ大変だったな。

北にそんな町が有ったなんて知らなかったぞ。

女2人で良く此処まで来れたな。」


「ええ、私は冒険者もしていますので、多少腕には自信があります。」

腰の剣をチラッと見せた。


「そう言う事か。

お連れさんも冒険者か?」

男性は私の後ろで立っていたヤスハに目をやった。

ヤスハは見られると俯いて目を合わさない様にしている。

「いえ、この人は町の生き残りです。

私は町に宿泊させて頂いていたのですが、たまたま一緒に食事を摂っていた彼女しか救えませんでした。」


「そうだったのか。

まあ、宿屋で休んだら良い。

但し、明日朝に監督署から職員が来るから、その人に事情を話さないとこの町に長くは滞在できないからちゃんと話してくれよ。」

邪神イャルドラ教団の人間かを調べるんでしょうね。

それ程、警戒していると言う事ですね。


「わかりました。

宿泊出来る宿屋は何処にありますか?」


「ああ、このまま真っ直ぐ行くとあるから。」

私達は街の中へ入った。

街は人の往来も多く賑わっている。

暫く真っ直ぐな道を歩いて行くと、宿屋を見つけた。


「あのう。

宿泊出来ますか?」

カウンターに居る男性に声をかけた。


「外からかい?」

私達を舐める様に見ながら何処か不機嫌そうに話す。


「そうなんです。

部屋空いてますか?」


「2人部屋だよ。」

男性は後の棚から部屋の鍵を出して来るとカウンターに置いた。


「ありがとうございます。」


「此処に名前を書いてくれ。」

宿泊名簿と書かれた手帳が開いていて名前を書く欄がある。

宿泊の理由も書く欄があり記入した。


「外から来たやつは明日朝に監督署から職員が来るから勝手に出て行かないようにな。」

部屋は2階の角部屋で入ってみるとそれなりに広い。

ベッドが2つ有り、清潔な寝具で休めるのは嬉しい。


「ヤスハさん。

疲れたでしょ。

休んでください。

私は少し街を見て来ます。」

街の中を歩いて行くと道具屋に入った。

この世界で売っているものも興味が有ったが、通貨を手に入れる為に何かを売る必要がある。

「こんにちは。

こちらで素材の買取とかして貰えるんですか?」

店主らしい女性がカウンターにいたので声をかけた。


「ええ。魔物の素材なら買い取りますよ。」


「良かった。」

森で倒した魔物の素材や魔石を拾って置いて正解だった。

素材と魔石でかなりに換金出来た。

暫くはお金に困らない。

機会があれば換金のために素材や魔石は回収しておこう。

道具屋でポーションと保存食など必要な道具を買って、やはり情報が集まる酒場に行く事にした。

酒場には冒険者が集まる。

この世界の事情も冒険者がどれ程居るのか興味がある。

酒場は歩いている人に聞いて、その場所に辿り着いた。

中に入ると、賑やかな声が聞こえてくる。

タバコの匂いとお酒の匂いが充満して少し息苦しさを感じるほどだ。

初めての場所は一人で居られるカウンターがあると助かる。

この店もカウンターがあり、椅子に座った。

店内を見渡すと私の事を気にかける人が何人かいて男性も女性も何遍なくいる。

「すいません。

オススメの飲み物頂けますか?」

カウンターの中にいる男性に話しかけた。

「良いよ。

冒険者かい?」


「ええ。そうですけど。

冒険者に見えました?」


「この辺じゃ見ない顔だし、剣を持ってる。

歩き方や周囲を見る目が冒険者そのものだな。」

流石は酒場の店主。

伊達に沢山の人を見ていない観察眼だ。


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