第94話 邪神イャルドラ編 マリオネットマスター
教皇イラミールが私に精神的な接触をして来た事で、狙われている事は確実なものとなった。
相手の狙いがハッキリした分対処の方法も考えやすくなった。
だが、この町にいる事が安全では無いという判断にもなる。
夜も深くなったが、寝付けずにいた。
その時。
バァーン!と大きな音がして、家の玄関付近が破壊されるような大きな音が鳴り響く。
「なに?」
急いで、寝室を出るとリビングに向かった。
そこには、大量の赤く光る目をしたこの町の人達がゾンビのような呻き声を挙げて入って来ている。
「ちょっと、何よこれ!」
私は寝室に戻って窓を開けて外に出た。
町中に赤い目の人々が溢れている。
飛行魔法で屋根の上に避難した。
「ファハハハ!
どうかしら?
私の傀儡達は気に入ってくれたかしら?」
人々の集団の中にヤスハさんが赤い目になって高笑いしたいる。
操られているのか?それとも彼女自身が他の人達を操っているのか?一見しただけでは判断できない。
『イザナミ。』
『マスター。彼女から魔力思念糸で人々を操っています。』
なるほど。
厄介な事になった。
倒すのは簡単だが、優しい一面を見ているだけに心が痛む。
教皇はどうやら精神的にダメージを与えたいようだ。
「ヤスハさん。
昨日の話は全て嘘なのかしら?」
「ファハハハ!
嘘?本当?
ファハハハ!」
話にもならないか。
ここは一旦退避するのが正解か?それとも彼女を倒してしまうのが正解なのか?迷っている。
迷いがある時は答えを急がない。
飛行魔法で町を離れる事にした。
町の外はひたすら森林が広がりっていて、山間部に一旦身を隠した。
しかし、森の中から強い魔力の物が接近して来る。
ガラガラ!
物音と共に大きな魔物が飛び込んできた。
「ファハハハ!
操れるのは人間だけでは無いのですよ。
ファハハハ!」
鼻の効く魔物らしい。
大きな腕と鋭い爪を振り回して、私を攻撃して来る。
避けながら剣を抜いて切り裂いた。
魔物は倒れ込んだが、立ち上がって来る。
「これは面倒ね。」
『ライトニングボルト』周囲一帯に電撃を放った。
これで、彼女が操っている魔力の糸も切れたはずだ。
「やりますね。」
魔物は真っ黒に焼け焦げて光の粒となって消えてしまった。
「ヤスハさん。
可哀想だけど、ここで倒させてもらうわね。」
「そう上手くいくかな」
ヤスハは魔力の糸を私に向けて飛ばした。
四方から私に向けて飛んで来たが、覇衣に触れると光の粒となって消えていく。
「ごめんね。
助けてあげられなくて。」
「ファハハハ!
私はマリオネットマスター。
ヤスハは仮の姿。
まだまだこれからだぞ。」
そう言うと魔力の糸を左右に飛ばした。
「そうなのね。
所で、町で操っていた人達は無事なのかしら?」
「ファハハハ!
さあな!」
左右から魔物達が数十体現れた。
どうやら操られると目が赤くなって魔力も強くなるようだ。
素早い動きで一斉に襲って来る。
『ウインドカッター』を放ちながら括弧撃破をしていく。
真っ二つにされた魔物は光の粒となって消えていく。
まだ、全ての手の内を見せる訳にはいかない。
教皇がこの様子を監視している可能性は高い。
「ファハハハ!
どうした〜!
まだまだ魔物は来るぞ。」
確かに魔物は森の中であれば、かなりの数存在するだろう。
ここら辺で決着を付けるか。
相手の出方を見ていたが、基本的に操って戦うことしか出来無さそうだ。
四方にウインドカッターを放ち、剣に手をかけて。
『神速斬』神速でヤスハさんに斬りつけ駆け抜けた。
その瞬間、ヤスハは鮮血を吹き出して倒れ込んだ。
「ファハハハ!
残念。」
倒したはずのヤスハはムクっと立ち上がった。
操られていたか…。
本体は別の所に隠れているのか。
「まったく悪趣味ね。」
必ず魔力の何かで操られているに違いない。
神眼でヤスハの周りを見てみても形跡がない。
そうなると、地中から魔力を注いで操っている他ない。
再びヤスハは魔物を操ると攻撃を始めた。
交わしつつウインドカッターで倒していく。
ヤスハを操っている者を探さなくては切りがない。
『イザナミ。ヤスハを操る本体を探して。』
『わかりました。』
しかし、この森にはこんなに沢山魔物が生息しているのかと関心してしまうほど、次から次に現れる。
『マスター。傀儡の主を発見しました。』
感じる傀儡の主の魔力を。
さあ、出番よ。
天鳳魔銃「アルティグラビオン」を収納魔法から取り出すと標的の魔力の主に向けて放った。
光の閃光は木はが見えていなくても大丈夫。
魔力さえ感じ取れたら命中できる。
放たれた光の筋は木を避け進んでいく。
そして。
「ぎゃあぁぁ!」
貫通した。
見事命中してのだ。
ヤスハも魔物達も倒れ込んだ。
傀儡の主の影響から切り離されたようだ。
射抜いた場所に行くと若い男が絶命していた。
頭を射抜いている。
どうやらこいつが主らしい。
ヤスハの元に戻るとまだ息がある。
「大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ、……、わたしは、な、んということを…。」
私はパーフェクトヒールでヤスハを癒した。
傷はみるみると消え回復していく。
「どうですか?」
「う、うそ。
あ、ありがとうございます。」
倒れていたヤスハはゆっくりと立ち上がった。
「何があったんですか?」
「昨日寝ていると男が侵入して来て…、その後は覚えていません。」
「そうですか。
殺さずに済んで良かったです。
私も貴女が傀儡の主かと思っていましたが、そうで無くて良かったです。」
「え、あ、はい。
助けてくれてありがとうございます。」
恐怖で表情は硬いままだが、徐々に状況を飲み込めて来ているのか、少し笑みも浮かべている。
「町の人達が心配ですね。
戻りましょう。」
「え、は、はい。」
街に戻ると無惨な光景が広がっていた。
誰一人として生き残る物はなく、結界も消えていて魔物達に襲われたのであろう。
酷い有様になっている。
ヤスハはその場に崩れ落ちた。
目からは涙が溢れて泣き叫んでいる。
私もこれ程人が死んでいる状態を見るのは初めてだ。
冒険者の死亡事故で見た事はあるが、この悲惨さに比べられるものなど無い。
「ヤスハさん。
此処は離れましょう。
魔物が押し寄せて来るかも知れない。
申し訳ありませんが、弔っている時間も余裕もない。
あなたを守りながら魔物の群れと対峙は出来ない。」
何を言っても聞こえている感じがしない。
仕方がないので、無気力な手を引っ張って町を後にした。
暫くしてショックにより気を失ってしまったヤスハを抱えて飛行魔法で町からなるべく離れた所に昔は集落だったであろう場所に家があるのが見えて、そこに身を隠した。