第9話 ブロンズアドバイザー試験。
1ヶ月のアドバイザー研修が終わった。
ブロンズアドバイザーになる為には試験がある。
これに落ちると再び1ヶ月研修を受けなくてはならない。
教育係の先輩にも負担が掛かるのでここは絶対に合格してブロンズアドバイザーになる。
そして、全員で合格する。
試験当日の朝。
リビングで朝食を食べていると、皆んなの緊張感が伝わってくるのを感じた。
「ねえ。
試験終わったら夜は外で食べない?」
何気なく私から話を始めた。
この緊迫した空気が堪らないと言うことではないが、全員で合格して祝賀会を開きたいと思っていたからだ。
「朋美は自信あるの?」
少し低い声で何処となく棘のある言葉を悠美が発した。
「有るわよ。
だって、ルナ先輩が私の為にこの1ヶ月自分の仕事も有るのに、私の為に時間を割いて全てを教えてくれたのよ。
自信ないなんて失礼よ。」
この1ヶ月で私達の距離も関係も家族以上に近づいた。
だけに言い争いになる事も珍しくない。
「そうよね。
朋美は最初から優秀だった。
自信もそりゃ有るわよね。
私は不安しかないけど。」
朝から不機嫌だとは思ってたけど、不安が強かったのか。
「私だって不安はあるよ。
悠美と何も変わらないわ。
自分と先輩を信じたいから。
それに私は全員で合格したい。
だから、今日は終わったら祝賀会するの。」
不安なんて思ったらキリが無い。
それにずっと震えが止まらないし。
悠美の不安だって痛いほど分かる。
「そうよ。
朋美の言う通りよ。
私達は成長してる。
全員で合格する。
信じなきゃ。」
智恵美は決して覚えは良くなかった。
私も見ていて不安が強い事も分かってた。
でも、そんな智恵美が自分を奮い立たせる様な言葉を発したのは意外だ。
「悠美も朋美も気が立ってるの分かるけど、朝ご飯くらい仲良くしてよね。
美味しいご飯が不味くなるから。」
相変わらず麻美はマイペースさんだ。
最初はそんなイメージ無かったけど、猫を被って居たのか。
この1ヶ月で自分を出し来ている。
「はいはい。
皆んな仲良くね。
私は絶対!合格するよ。
だから、皆んなで祝賀会するよ。」
里穂は可愛らしい存在では有るが、かなりの天然さんで有ることも分かってきた。
彼女に料理を頼むと何かがいつも起こるので、最近は当番を外されている。
「最初に会った時から思ってたのよね。
朋美って可愛いから周りから可愛がられるだろうなぁって。
実際そうでしょ。
アゼルさんからも目を掛けられてるし。
気に入らないわ。」
今考えると悠美とは事あるごとに喧嘩になることが多い。
何故か私に突っ掛かってくるのは、僻みの様なものがあったのか。
「当たり前よ。
だって努力してるもん。
先輩から笑顔はとても大事だからと言われてるし、新人は皆んなに挨拶はしっかりしなさいと言われてるから努力してるの。
僻む前に悠美も努力したら良いじゃ無い。」
僻みほど腹立たしい事はない。
昔から可愛いからとか、愛想が良いからとか、言われ続けてきた。
でも、私は愛される為に努力して来ただけ。
「私だって努力してるわよ。
でも、素材の良さはどうしても越えられないのよ。
僻みたくなるわよ。」
「悠美だって凄く可愛いよ。
私は初めて会った時そう思ったよ。」
「朋美には敵わないよ。
でも、ありがとう。」
本当に可愛いのに。
勿体ないよ。
自分らしさこそ、この仕事では優位なのに。
「終わったかしら。
朋美と悠美は事あるごとに言い争いになるのよね。
どれだけ仲が良いのよ。」
冷静にそれでいてマイペースに麻美はいい所で空気を変えてくれる。
「悠美の事を一番分かってるのは私だと思ってるからよ。」
私は悠美の事が好きなんだろうと思う。
だから、きつい言葉も自然と出る。
悠美も同じだと嬉しいけど。
「ふん。何よ。
私も朋美の事を一番分かってるんだから。」
私達は必ず合格する。
私は信じている。
今まで皆んな頑張って来た。
それを誰よりも近くで見て来たからだ。
ギルドに到着すると。
試験は筆記試験が1時間ある。
基礎問題で勉強をすれば特に問題はない。
問題は実技試験で実際にオペレーションする試験だ。
筆記試験が終わると、30分の休憩を挟んで模擬オペレーションを別室で行う。
「トモミ・キサラギ入れ。」
試験会場の別室の前で待っていると私の名前が呼ばれた。
「はい。」
部屋に入ると現場と同じカウンターがあり、試験官が3人とエキストラの冒険者が待っていた。
「トモミ・キサラギさんですね。
今からブロンズアドバイザーの研修終了として検定試験を行います。
試験はカウンターでの模擬オペレーションです。
合否は全員の試験後個別にお知らせします。
緊張せず落ち着いてオペレーションしてください。
分からない事や疑問がある場合は質問しても大丈夫ですので、利用して構いません。
何か質問はありますか?」
「大丈夫です。」
ここまで来たら学んだ事をやり切るしかない。
緊張感はプラスに変える。
試験では模擬の冒険者がクエストの受注をしてくる。
冒険者のランクはBランク。
ここで一つ気をつけなくてはいけないのは、確認事項だ。
「ステータスボードを確認させて頂きます。
本人である事を確認。
Bランクである事も確認しました。
クエスト受注条件はクリアです。
今回のクエストはリザードマンの討伐です。
ステータスや経験から見て今回の討伐はそれ程問題はないでしょうが、パーティーを組みますか?」
「いつものパーティーで行くつもりだ。」
「そうですか。クエスト前にパーティー登録も忘れずに行ってください。
行わない場合は緊急時に支援が出来ませんので、必ず登録して下さいね。
それと、リザードマンは火属性の魔法を使うものも居ますので、火耐性の装備を推奨します。
稀ではありますが、毒を吐くものもある様なので、毒に対する備えも行ってください。」
「わかった。
直ぐにパーティー登録しに来るよ。
なるほど。
装備は整えるよ。
毒に良い道具は何が良いかな?」
冒険者からの質問も実際によくあるケースだ。
「道具は2番町のエリス道具店がここから一番近いですし、品揃えも価格も良いと思います。
ステータスボードに店までのナビを入れたので良かったら行ってみてください。
毒用のアイテムだと飲み薬もありますが、毒耐性の装備もおすすめですね。
リザードマンは毒を吐くので、口から毒を体内に入れてしまうケースが多いです。なので、飲み薬の方が使い易いと思います。」
実際にも冒険者にアイテムや防具のアドバイスを求められたり、新米冒険者にはレクチャーする事は珍しくない。
一通り試験は無事に終了した。
部屋を出ると一気に脱力が襲って来た。
ちょっとフラフラとしてしまい。
「大丈夫?」
誰かに身体を支えられたと思ったら悠美だった。
「あ、ありがとう。」
そして、次に呼ばれたのは悠美だった。
悠美は緊張した面持ちで部屋に入っていった。
半日を費やして5人の試験が終わった。
事務所の机で運命の時を静かに待っていると。
「トモミさん。
大丈夫よ。」
ルナ先輩が声をかけてくれた。
私は嘸かし酷い顔をしていたのだろう。
試験の合否はギルドマスターから1人づつ告げられる。
そして、私はギルドマスターアゼルさんに部屋に来る様に呼ばれた。
緊張で心臓がドキドキしている。