第19話 アレースの宴。
1ヶ月に一度プレジデント会合《アレースの宴》は開催される。
全国からアステルブルクのギルド本社に10人のプレジデントが集合する。
会合にはギルドグランマスターも参加して、ギルドの方針などを決定して行く。
ファミリーに遠征討伐や大規模展開のクエスト、
都市の護衛なども依頼される。
ファミリーからもギルドに対して要望や依頼など議案の提出ができる。
私も一件議案を出している。
本社には裏側から地下に駐車場があり、関係者は入る事ができる。
車は地下に止めて、地下入り口から中に入った。
会議室は5階でエレベーターで登って行くと、数秒で到着した。
エレベーターのドアが開いて廊下に出ると正面が会議室だ。
私と三姫聖の4人はドアを開けて会議室に入った。
楕円形の大きなテーブルで椅子が10席用意されている。
付き添いの冒険者は私の後ろに席が用意されていて座る事ができる。
部屋を見渡すと奥の左側1番先頭が勇者ファミリーの席、1番奥反対側の右側が剣聖ファミリーの席、私の席は勇者ファミリーの横2番手の左側と言う感じで順位の高いファミリー程奥になる。
既に勇者アピトさんは席に着いていた。
剣聖デュラトさんはまだ来ていない。
その他は、6番手六峰騎士団ファミリーのデュカスさん、10番手槍装騎士団ファミリーのルルーゼスさん。
後はまだ来ていない。
「これはデュカスさん。
ご苦労様です。」
「これは聖女トモミ殿。
ご高名は伺っておりますよ。」
彼は40歳位で体格はガッチリの筋肉質。
冒険者の男性はガッチリの筋肉質が多い気がする。
「デュカスさんもご活躍とお聞きしております。
お互いファミリーの発展とこの世界の平和に尽力して参りましょう。」
挨拶を交わして自分の席に着いた。
「勇者アピト殿。
ご苦労様です。」
「これは聖女トモミ殿。
いつにも増してお美しいですね。」
「ありがとうございます。
アピト殿も顔つきが洗練されましたね。」
勇者アピトさんは32歳で独身、かなりのイケメンで女性にも人気がある。
正直、私はそのイケメンが鼻に付くが。
女性ファンも多いのは事実だ。
「トモミ殿はプラチナアドバイザーに昇進されたそうで、おめでとうございます。
冒険者とアドバイザーの両立は大変でしょう?」
「ありがとうございます。
どちらも必要な事ですから、大変と思った事は無いですよ。」
どちらかと言われればアドバイザーの仕事を優先している。
冒険者は時間のある時という方が正しい。
「素晴らしいですね。
俺には真似できないな。」
「アピト殿にお話しがあるのですが、宜しいですか?」
例の件については会議が始まる前に伝えておいた方がいい。
「ん?
何ですか?」
私の話の切り返しに何となく表情が硬くなったように感じる。
「勇者ファミリーの男性冒険者が、私のファミリー白薔薇の聖女の女性冒険者に付き纏っていると報告を受けまして、非常に迷惑しております。
その様なお話しは部下から聞き及んで居ませんか?」
「その様な事が。
私は報告は聞いていませんが、トモミ殿が言われるのであれば事実なのでしょう。
早速ファミリーの冒険者達に真意を問いただしましょう。」
流石は勇者と言うところでしょうか。
私の直接的な抗議に表情一つ曇る事は無い。
「よろしくお願いします。
冒険者同士のゴタゴタは多少なりあるものですが、ファミリー同士の冒険者となると規律の緩みが有るのではと思わざるを得ません。
私も含めてファミリーの規律を今一度正す事が大事かと思います。」
「わかりました。
心に留めておきましょう。
こちらの冒険者は厳しい処置を行います。
調査次第でそちらの冒険者も厳しい処置をお願いします。」
何だこの違和感は。
私のファミリーの冒険者も悪い様な言い方。
少し策意を感じる。
「なるほど。
こちらの冒険者にも非があると仰せですね。
私はストーカー行為を受けてると部下より報告を受けています。
アピト殿は何も報告を受けていないとの事でしたよね。
現時点の状況でそちらに非があるのは明らかでは無いですか?
私の大事なファミリーに原因が有るとは思えませんが。」
私の心を逆撫でしている様にも取れる発言だ。
冷静さは失ってはならない。
「調査次第と申しました。
何せ私はまだ部下から聞き及んでおりませんので、これから対処いたします。」
「わかりました。
調査よろしくお願いします。
但し、今日以降再び私の大事なファミリーの冒険者にストーカー行為を続けているのを見つけた場合は、その者を警備隊に突き出しますので、早急な対応を熱望致します。」
「わかりました。
早急に対処します。」
腹立たしいのは表情一つ変えない冷静さと攻撃的な姿勢。
何処となく女性を下に見ている素振りは気に入らない。
つい話が熱くなってしまって、いつの間にかテーブルには10人のプレジデントが集合していた。
剣聖デュラト殿は何も言わず私達の様子を見守っていた様だ。
部屋にグランマスターのドラダートさんが入ってきて自分の席に腰掛けた。
だが、何となく場の空気が違う事に不思議に感じたのか。
「勇者アピト殿。
何かありましたかな?」
年齢の頃は50代半ばグランマスターに就任して5年に成ると聞いた、冒険者も長く経験され知識にも精通されている。
そんなドラダートさんだから、場の変化にも敏感に気づかれたのだろう。
「いえ、特には何も。」
ファミリー同士の問題はファミリー同士で解決する、これが原則であり、アピトさんとしてもギルドには知られたく無い話だろう。
「そうですか。
トモミ殿久しいな。
前にも増して綺麗になられたのではないか?
また食事にでも行こうではないか!」
ライクレイゼンに赴任している際にドラダートさんとは何度か食事に誘われて行った事がある。
それ以来好意を抱かれている様だ。
仕事上でも上司当たるので、無下にも出来ない。
「お久しぶりです。
お褒めいただきありがとうございます。
是非美味しいものをご馳走頂きたいです。」
「ハハハ、わかった。
飛び切りの美味しい店を予約しておこう。」
この様な人前で堂々と私を食事に誘うとは、断れない状況を作ってくるから、これはパワハラに当たりますよ。
「可愛い女性は大変ですね。」
ボソッとアピトさんは私に耳打ちして来た。
「ご理解頂きありがとうございます。」
私も小さな声でそれとなく返事をした。
私達の様子など気に留める様子もなくドラダートさんは皆さんとお話をされている。
幸せな人だ。
落ち着いたところで議題の討議が始まった。
ファミリーの遠征費割当と遠征討伐の割り当てが行われた。
私のファミリーは東の要所であるセザル市の城塞都市周辺に魔物の群れが押し寄せると言う調査班の報告により、討伐隊の結成が議決された。
ファミリーはアレースの宴で決定された事に拒否権はない。
日程についてはギルドと相談になる。
それぞれの割り当てが決定さたところで、私の議案が告られた。
「その議案については、私から報告させて下さい。」
通常はグランマスターが議案を読み上げるが、私はどうしても自分で伝えたいと思った。
「トモミ殿の議案故、許可する。」
「ご理解頂きありがとうございます。」
グランマスターの許可が降りた。
私にとっては今の所最重要項目の一つの議案だ。
告げる内容は恐らくアレースの宴開催以来の切迫した内容となるだろう。