第17話 プラチナアドバイザー。
ハンクルムの一番町にあるカフェに集合と里穂からメールが届いていた。
私も利用した事があるカフェだから、場所は迷う事なく到着した。
店内に入ると4人の声が聞こえてくる。
相変わらず賑やかな人達だ。
「楽しそうね。」
私が近づいても話に夢中になっていた。
「あ、朋美だ。」
里穂に指を刺されたが、なんだ?
私は珍しい珍獣か何かか?
「昇進したらしいね。
凄いじゃん。」
悠美の隣に座ると久々に近くで顔を見た気がする。
「プラチナでしょ。
凄いね。」
誰が今どの感想や意見なのか。
誰かと話すと誰かと話すと言う事を繰り返した。
久々に5人で話して楽しい時間だった。
4人とはまた会う約束をして店を出た。
私はハンクルムの冒険者ギルドに行かなくてはならないからだ。
就任早々遅刻をする訳にはいかない。
12時前にハンクルムの冒険者ギルドに到着した。
従業員用の入り口から中に入る。
ギルドマスターの部屋に直行した。
コンコン!
「トモミ・キサラギです。」
ドアをノックした。
「どうぞ」
中から聞き覚えのある方が聞こえた。
ドアを開けて入るとデスクで微笑んでいるアゼルさんがいる。
「トモミ・キサラギ只今赴任して参りました。」
姿勢を正して軽く会釈をした。
「ご苦労様です。
立派になられましたね。
センター長と言う大変な役職なりますが、トモミさんなら出来ると信じていますよ。」
相変わらずプレッシャーをかけるのが好きな人だな。
「早速なのですが、送って頂いたハンクルムセンターの現状ですが、クエスト消化率が50%を下回り、チェックしたところ毎日の更新も行われていない日もありますね。
ギルドマスターはそれを黙認していらっしゃるのですか?」
端末タブレットからその状況をアゼルさんにお見せしている。
間違いなく嫌味を言っていますよ。
私は。
「なるほど。
それは申し訳ない。
では、センター長。
これからはよろしくお願いします。」
そうよね。
受け流して私に任せる。
ギルドマスターは気楽な仕事なのかしら。
「では、私のやり方でやらせて頂けると言う事で宜しいですか?」
そちらがその姿勢ならばこちらにもこちらの戦い方を認めて頂かないと。
「わかりました。
全てお任せします。」
納得せざるを得ないですよね。
「そうですか。
助かります。
皆さんに挨拶をしたいのですが。
紹介して頂けますよね?」
「わかりました。
皆さんにはお伝えはしてますので、集まっている頃だと思いますよ。」
さて、1年前にいた方々は今もいらっしゃるのか?
楽しみです。
ギルドマスターの部屋を出て事務所に向かった。
事務所に入ると全員が整列して待っていた。
「おはよう御座います。」
全員が揃って挨拶をしてくれた。
「おはよう御座います。」
私もアゼルさんの後ろから前に出て挨拶をした。
見渡してみると、ルナ先輩や1年前とはメンバーは入れ替わっている。
しかし、あまり絡みは無かったが知っている顔も見受けられる。
「皆さん。
お仕事ご苦労様です。
わざわざ集まって貰ったのは、このセンターにも今まで空いていたセンター長が就任することになりました。
トモミ・キサラギさんです。
彼女はライクレイゼンのギルドで半年ほどゴールドアドバイザーを経験されて、ギルドマスターの全員満場一致でプラチナアドバイザーの推薦を受け、グランマスターから承認されて、センター長として赴任されます。
ライクレイゼンでは班長も勤められ、センター長のビクトリアプラチナアドバイザーの右腕として活躍されました。
彼女の活躍でクエストの消化率は80%を超える成績を収め、クエストの稼働率は1日平均200件を超えたそうです。
その手腕をここでも発揮して貰いたいと私は考えています。
それでは、本人から話したい事もあると思いますので、トモミさんよろしくお願いします。」
やっぱりアゼルさんは人にプレッシャーを与えて楽しんでいるとしか思えない言動だ。
「皆さん。
お仕事ご苦労様です。
トモミ・キサラギと申します。
1年前このセンターで働いていたので顔見知りの方もいらっしゃると思います。
よろしくお願いします。
私の今までのしてきた事はさて置き、ハンクルムセンターの現状を昨日より拝見しておりました。
クエストの消化率が50%以下とはどう言う事なのか、説明できるゴールドアドバイザーの班長はいらっしゃいますか?」
全く話にならないこの状況を説明して欲しいものだ。
「はい。
主任班長のミリスです。
消化率が低いと仰りますが、私はそうは思いません。
消化率は冒険者の質によっても大きく変動します。
こちらから無理な依頼は危険を伴いますので、現状仕方無いと私は考えています。」
見た事がある顔だ。
確か、1年前から班長をしている人だ。
「なるほど。
わかりました。
では、毎日の更新が疎かになっている様ですが、それについては如何ですか?」
「はい。
それは、申し訳ありません。
ここの所クエストの発注が増えていて手が回っていませんでした。」
この指摘には申し訳なさそうな表情だけど、言い訳はある訳か。
「では、何故クエストの更新が毎日必要か答えられるアドバイザーは居ますか?」
「はい。
調査班の報告には危険度の優先順位があり、特に気を付けなくてはいけないのは魔物の新規発見と移動に伴う地域変化の危険性です。
特に手負になった魔物の移動は安全とされていた地域に移動していないか、新人冒険者の受注出来るクエストと地域が重なって居ないかを確認する事は最重要項目です。」
見事な回答ですね。
「貴女は?」
制服を見る限りシルバーアドバイザーの様だが。
「はい。
2年目シルバーアドバイザーのアルカです。」
なるほど、2年目ならばこれくらいの知識は当然か。
「彼女の言う通り調査班は毎日報告書を朝必ず更新しています。
その大きな理由は冒険者の安全を守るためです。
私達に冒険者が安全にクエストを行えるかが任されているとも言えます。
班長は手が回らなくて疎かになっていたとおっしゃいましたが、重要な案件を見逃したら冒険者が死亡する事もあり得ます。
私達は冒険者の命も左右する仕事だと言う事です。
あなたは冒険者の死に直面した時に、忙しいから仕方無いと言えますか?
申し訳ないが、冒険者はそんなセンターに命を預けられますか?
優秀な冒険者は信頼できるセンターに集まります。
事故は無かったかも知れませんが、冒険者は毎日生死を分ける仕事をしていますから、我々の怠慢にも敏感になりますよ。
それがこの数字だと思いませんか?
各班長の皆さん。
どう思いますか?」
私はライクレイゼンに就任した時に冒険者の質の悪さに疑問を持った。
こんな最前線の要所にも拘らずどうしてなのか?
調べると調査班の報告が疎かにされている、クエストの消化率が低いなどの状況があった。
「はい。
申し訳ありません」
班長達は全員俯いていた。
「私も全力でサポートします。
班長は毎朝調査班の報告をチェックして、全て私に報告してください。
それとアドバイザーは全員カウンターに業務として出る事。
私もカウンターに立ちます。」
「はい。」
全員の元気な返事が事務所に響き渡った。
私には個室が与えられる。
センター長執務室だ。
事務所の一番奥にガラス張りの壁の向こうにデスクがある。
荷物を部屋に置いて、その日のクエスト状況と各方面の挨拶をメールで済まして、調査班の報告書と班長からの連絡をチェックして、赴任初日は終了した。