第16話 新たな旅立ち、そして1年後。
週末を迎えて配属先が告げられる日がやって来た。
先輩達の話では5人とも別の街に配属になると言われた。
1ヶ月間生活をしていた部屋もすっかり片付いて荷物も纏められている。
この住まいでの最後の朝食。
不思議と皆んな笑顔で話している。
「明日から新しい生活だね。
荷物は大使館の人が運んでくれるんだって、至れり尽くせりだね。」
私は寂しさより新しい生活と場所にワクワクしている方が強いかも知れない。
「大使館の人は私たちより先に配属先を知ってるって事よね。
複雑だ。」
確かに智恵美の言う通り、大使館は転属先で住まいも手配済みらしいから、私達より先に知っている事になる。
朝ご飯を食べ終わると皆んなで電車通勤。
これも今日が最後になる。
これはこれで楽しい思い出も多い。
電車の中でたわいも無い話に花を咲かせていた。
ギルドに着くと1人ずつギルドマスターに呼ばれた。
コンコン!
ドアをノックした。
「トモミ・キサラギです。
入ります。」
「どうぞ。」
ギルドマスターのアゼルさんがデスクに座っているので、そのデスクの前まで進んだ。
「トモミさん。
この一か月ご苦労様でした。
アドバイザーとしても、冒険者としてもかなり成長されましたね。
これから配属先をお伝えするのですが、トモミさんには是非とも上を目指して欲しい。
その才能は十分にあります。
と言う事で、配属先はライクレイゼン市の冒険者ギルドです。
ハンクルムより大きな街です。
この国の西の要衝で冒険者の往来も此処とは比べ物になりません。
それだけ周辺が不安定だとも言えます。
貴女の力が必要になる筈です。
ライクレイゼンにはシルバーアドバイザーとして、沢山学んで来てください。」
今、サラッとすごい事をこの人は言ったような気がするが。
「え?シルバーアドバイザーって」
「貴女にはその資格がある。
シルバーアドバイザーに成ればやれる事も今より増えます。
冒険者としても、アドバイザーとしても成長できる筈。
活躍を期待してますよ。」
うわぁ、プレッシャーが来ましたね。
シルバーアドバイザーでスタートなんて予想してなかった。
「アゼルさんもお元気で。
いろいろとお世話になりました。
先輩方には本当にお世話になりました。
ここで教わった事を自信に変えて頑張ります。」
その日は午前だけ仕事をして、先輩達に感謝を伝えるとルナ先輩からは励ましの言葉を頂いてギルドを後にした。
これでお別れという事では無い。
同じギルドで働いている以上、一緒に仕事をする事もある。
私は馴染みのある店や皆さんに挨拶をして住まいに帰宅した。
そこには大使館の中川さんが待っていた。
「トモミさん。
お帰りなさい。
引越し先のデータを先程ステータスボードに送りましたので、確認して下さいね。
1ヶ月間ご苦労様でした。
ギルドの方からもとても優秀な人を連れてきて頂いてありがとうございましたと、お喜びでしたよ。」
ギルドからそんな事を言われているとは。
中川さんは満面の笑みを浮かべている。
「いえ、そんな恥ずかしいですね。
期待を裏切らない様に頑張ります。」
期待が大きい程プレッシャーだな。
「頑張りすぎない様に肩の力を抜いてお願いしますね。
それと、ゲートの使用許可が下りていますので、もし休暇で戻られる時は大使館までお越しください。」
「そうですか。
今の所直ぐに戻る予定は無いですけど、その時はよろしくお願いします。」
少し落ち着いたら一度帰るのもありかも知れない。
「それと、新しい住まいですが、集合住宅になります。
3階立てのマンションタイプで入り口のセキュリティーもしっかりしていますので、安心だと思います。
それとやっと皆さんのご希望に応える事が出来る物が完成しまして、こちらに就職されている方には国から支給と言う形で使用料金だけご負担頂ければお渡しできます。」
先ずは部屋の鍵を渡された。
カードキーで持っていればステータスボードと連携出来てドアノブに触れるだけで鍵が解除可能だ。
それと渡されたのはスマホだ。
こちらの世界では以前使っていたスマホは使えなかった。
それが一番不便だった。
「スマホですね。
もしかして、あちらの世界とも通話出来るんですか?」
「そうなんです。
大使館に受信モジュールが配備されてゲートを通して通話が可能になりました。
是非使ってみてください。」
そうなんだ。
これで実家にも電話出来る。
友達とも話が出来るし助かる。
「他の4人にもお渡ししたので、話してみて下さい。
それと皆さんはもう新しい住まいに出発されましたよ。」
なんという事だろう。
もう出発してしまったのか。
スマホを見ると4人の番号が登録されている。
早速4人に電話した。
皆んな新しい生活に期待を膨らませている。
悠美も里穂も智恵美も麻美も声が弾んでいた。
それぞれ会えない距離では無さそうなので、会う事も出来そうだ。
私が1か月5人で暮らした住まいを1番最後に出て行った。
そして、1年の月日が流れて。
私はライクレイゼンでアドバイザーの仕事も冒険者の仕事も着実に成果を挙げてきた。
ある日突然神の啓示を受け「白薔薇の聖女」の二つ名を賜った。
白薔薇の聖女の効果は聖魔法と浄化の効果が2倍になる。
沢山の素敵な人達との出会いが有り、恋もして、別れて、いろいろゴタゴタもあったけど、楽しい一年を過ごす事ができた。
今回私には辞令が交付された。
ライクレイゼンではゴールドアドバイザーまで昇進して頑張ってきた。
冒険者も様々な出会いが有り、ファミリーを結成する事も出来た。
ファミリーとは集団組織の事で、冒険者だけで組織を作る事が認められている。
有名なのは勇者ファミリーだ。
彼らは暁の勇者と言うファミリーを形成している。
ファミリーのプレジデントは遠征討伐や冒険者ギルド内で発言力と影響力を持っている。
ファミリープレジデントはこの世界に10人存在している。
その1人に私はなる事が出来た。
と言うより、聖女である私を慕って集まった仲間達でファミリーを結成したと言う方が正しい。
聖女ファミリーの名前は、白薔薇の聖女。
ファミリーの人数は50人、勇者ファミリーは200人以上なので規模はまだ小さいがプレジデント順位3位の位置にいる。
正一位勇者ファミリー、正二位剣聖ファミリー、そして、正三位聖女ファミリーとなっている。
月に一回プレジデント会合がある。
そこでは冒険者ギルドの方針と遠征や持ち回りの比率などが話し合われる。
そして、今回の辞令だが、私はハンクルムのアゼルさんに呼ばれてプラチナアドバイザーとして、センター長の役職で赴任する事となった。
プラチナアドバイザーの任命にはギルドマスター達の過半数推薦とグランマスターの承認が必要だ。
冒険者の仕事もしていたので、グランマスターとも交流が持てた事で出世も早まった気がする。
懐かしい駅に降り立った。
一年振りのハンクルム駅。
5人で通勤していたのがついこの間の様な錯覚を覚える。
ギルドに向かう前に今日は久々に5人で食事をする事になっている。、個別では何回か会っていたが5人で会うのは一年振りだ。
みんなの顔を見るのが楽しみだ。