第12話 ギラティス討伐クエスト。
今回のクエストは魔獣ギラティスの討伐をするのだが、現地までは鉄道で移動する。
鉄道は一般の市民が使用する在来線と冒険者が利用する特殊線と分かれている。
特殊線の駅は在来線と同じだが基本的には地下が在来線、地上が特殊線となっている。
在来線が地上を走っていると魔物の被害に遭う確率が高くなる為、地下鉄として運行をする様になった。
私達は特殊線に乗って2つ先の駅であるナスト市を目指す。
到着まで15分ほどで、ナスト市からギラティスの出没している地域のガマト町の森林地帯に入る。
「ナスト市から歩いてガマト町に入ったら一旦調査班と合流します。」
「おう。
わかった。」
電車の座席は対面式で東京の在来線とは少し感じが違う。座席は木製でシートの部分は革で出来ている。
ガザルさんは窓を全開にして風を感じたいのかな?
私とミハルさんは並んで座って、向かいにガザルさんが座っている。
「トモミはどうして初めてのクエストをギラティス討伐にしたの?
最初ならもっと楽なクエスト有ったでしょ。」
「琥珀色の魔晶石を知ってますか?」
確かにもっと楽なクエストなら幾らでもあった。
ミハルさんの疑問も分かる。
「琥珀色の魔晶石って、かなりレアなアイテムだよね。
ギラティスから採取出来たっけ?」
「ギラティスからは採取出来ませんよ。」
このクエストの報酬はギラティスの爪などの素材と討伐報酬12万ギルだけだ。
そこはいろいろあるのです。
電車が目的の駅に到着した。
クエストは受注してから現地に向かう。
その後、討伐クエストの場合は調査班との合流が義務付けられている。
討伐クエストの場合は後方支援と言うものがあって、調査班と調査隊が周囲の状況と実際に討伐パーティーが討伐に出発すると、調査隊により後方支援を行う決まりだ。
後方支援はSランク以上の冒険者に割り当てられる。
Sランクになると毎月決まった報酬がギルドから支払われる代わりに役割として回ってくる。
クエストが円滑に完了する様に退路の確保と討伐対象以外の魔物の討伐、救護班の警備など忙しい役回りだ。
調査班は比較的安全な場所でキャンプ地を設営している。
そこに調査隊と救護班が待機している。
「お疲れ様です。」
キャンプ地に到着するとミーティングが始まる。
調査隊とクエスト報酬の分配が主に話し合いの中心になる。
報酬の分配で揉める事も多いらしいが、今回は揉める事もなく割り当てが決まった。
ガザルさんとミハルさんがいる事で話が早く進んだ。
「それでは討伐に向かいます。」
キャンプ地を後にして森林の中へと向かって歩き出した。
調査隊により、ある程度魔物は処理されている。
比較的安全は保障されている。
「あ!
見つけた。」
私には神眼の極みがある。
森林の奥深くに洞窟があり、その中で息を潜めているのが見える。
「見つけたのか?」
2人はまだギラティスの位置を把握していない様だ。
「はい。」
「それで、何処にいるの?」
「この先の洞窟に身を潜めています。」
ギラティスはこちらの接近に気が付いている。
私の事をしっかりと捉えている。
「さて、さっさと片付けるぞ。」
戦斧を構えるとガザルさんはやる気満々な態度だ。
「ガザルさん、ミハルさん。
冒険者のお仕事学ばせて頂きます。
よろしくお願いします。」
初心者の私が何処まで2人の足を引っ張ってしまうか、全く分からないがやれる事は全力でやるしか無い。
「よし、トモミは後衛で支援を頼む。
俺が先行して、ミハルと連携してギラティスを討つ。」
凄まじいオーラがガザルさんから感じられる。
戦闘モードに入りつつあるのだろう。
「ガザル。
風魔法でギラティスの動きを封じるから後は頼んだわよ。」
2人は森林の中を入り始めた。
私も後ろから付いていく。
かなりのスピードで2人は走っているが、私も神速スキルのお陰で苦なくついて行ける。
今回のクエストはこの森林の周りを商人達の往来用の街道が通っているが、何度かギラティスの襲撃にあって人が命を落としていると言う事でクエストが挙げられた。
そもそもギラティスは山奥に身を隠してあまり人里には姿を見せない魔物だが、ここの所魔物の活動が活発に成り生息地を移動したと考えられる。
調査隊の報告では、そう言ったケースが各地で増えているそうだ。
私達は森林の洞窟を発見した。
中からギラティスの魔力を感じる。
相手も私達に気が付いている。
ギラティスは警戒心が強く半径1キロ四方に魔力を展開して獲物や敵を察知する。
「さて、洞窟の中での戦闘はこちらに不利だ。
ミハル、炙り出せるか?」
「そうね。
ギラティスは何度か討伐に参加した事あるけど、洞窟の中は初めてだからやってみないと解らないわ。」
2人の作戦は洞窟中から出で来たところを叩くつもりなのだと思う。
ミハルさんは火球を作り出して洞窟中に目掛けて飛ばした。
火球は洞窟内で爆発を起こすと、中から砂埃が噴き出して来た。
「ガザルさん、ミハルさん。
来ます。」
砂埃で洞窟の入り口は視界が悪くなったが、私の神眼はギラティスが飛び出して来たのを見逃さなかった。
「よっしゃ!」
戦斧を右手で構えると、砂埃の中からギラティスの前足が飛び出して来て、それをガザルさんは戦斧で受け止めた。
ガシッと言う凄まじい音だ辺りに響く。
ギラティスの大きな爪はよく切れる刃となっているため、真面に喰らうと命に関わる。
砂埃が晴れてくると、ギラティスの全体が視界に捉えられる。
ギラティスは四足歩行の竜族で全身を逆立った鱗に覆われている。
全身は黒く、赤い2本の鋭い角はまるで狂牛の如く獲物を狙って突き刺す。
尻尾は先端に無数の棘が付いている。
ミハルさんはギラティスと距離を取る為、少し下がった。
「ミラーシールド。」
私は2人に防御魔法をかけた。
ミラーシールドは物理と魔法攻撃を弾く効果がある。
「ウインドスピア。」
風魔法の上位攻撃魔法をミハルは詠唱して放った。
詠唱が早いので、短縮できる速詠スキルを有している様だ。
風の刃がギラティスを直撃した。
少し怯んで後ろに飛んで逃げたが、その隙をガザルさんは見逃さない。
素早く懐に飛び込むと戦斧が振り下ろされる。
急所に直撃した為、ギラティスは動かなくなった。
流石一流冒険者達だ。
私は神眼でギラティスを見ると絶命している事がわかった。
「ギラティス討伐クエスト完了です。」
2人に私は駆け寄るとクエスト終了を告げた。
「まあ、楽勝だな。」
「そうね。」
2人は息も上がる間もなく倒してしまった。
私は特に何もする事なく終わった。
「調査班と調査隊、それに解体屋の手配頼んだぞ。」
「はい。」
討伐が終わると調査隊と調査班に報告する。
報告にはステータスボードで討伐完了のシグナルを出す。
それを調査隊と調査班のリーダーが確認してやってくる。
解体屋は大抵は近くの街に待機している。
彼らは戦闘には介入して来ない。
依頼があれば、素材となる魔物や魔獣の部位を見事に解体する民間の業者だ。
程なくして、調査隊と調査班が到着した。
彼らは周辺の魔物が居れば討伐しつつ、退路を確保する。
それと解体屋の案内だ。
解体屋は数分後到着すると手際よく解体を始めた。
「後は調査隊と調査班に任せて俺たちは戻るぞ。」
解体したアイテムは後日ギルドが安全を確認したのち、クエスト報酬として渡される。
報酬は一旦クエスト受注者が受け取り、パーティーに配るのが慣わしだ。
私達はギルドに戻ると討伐クエスト完了を報告した。