第12話 冒険者も楽しい。
強靭な筋肉の冒険者が私のクエストで同行を名乗り出てくれた。
「ガザルさん。
お願い出来ますか?」
先輩の口から直ぐに名前が出てくると言うことは、ベテランの冒険者だろう。
防具や武器も恐らく一級品の業物。
Sランク位の冒険者に間違いない。
「ハハハ。任せろ。
暇してたからな。」
ガサツな笑い方だが悪い人では無さそうだ。
「私はトモミ・キサラギです。
クエスト同行ありがとうございます。
まだ新人冒険者なので、いろいろ教えてください。」
こう言う事は最初が肝心だと思っている。
冒険者仲間からも好かれる存在でいる事は仕事がやり易くなる。
「ん?
若いな。
あまり打算的な付き合いは考えるなよ。
俺達冒険者は命懸けの仕事だ。
本当に信頼されないと誰も助けてくれなくなるぞ。」
ドキッとした。
私の心を見抜くスキルでも有るのかと一瞬思ったが、言葉の重みから経験から来る説得力と深さがある。
「あ、はい。
でも、どうすれば信頼されるんでしょうか?」
信頼と言われてもまだ新人冒険者の私にガザルさんの信用があるわけも無い。
何故クエストを受けてくれたのか。
「ハハハ。
背中だ。
背中を預けられる奴は信頼できる。
そんな奴になれ。
お嬢ちゃんはかなりの魔力とスキルの様だが、それだけでは実際強い魔物や魔獣、魔族を相手にした時に生き残れないぞ。
スキルや魔力に頼りすぎるな。
後は経験だ。
冒険者が死ぬか生きるかはどれだけ必死に生き残る事に経験を費やしたかで決まる。
俺も沢山の優秀な冒険者の死を見てきた。
そいつらに欠けてた物は能力やスキル、技、魔力とか、そんなもんじゃ無い。
生き残る為の必死さが足らなかった。
あと少し、あともう少しと必死に命を守り生き残る事。
現に能力は低くても生き残る奴は沢山いる。
話が長くなっちまったな。
まあ、そう言う事だ。」
語る目は真剣そのもので私が想像もできない経験を積んできた事が伝わってくる。
ありがたい事だ。
「ありがとうございます。
私は幸せ者です。
こんな素晴らしい冒険者と初クエストでパーティー組んで貰えるなんて。」
心の底から嬉しかった。
何も言わずとも教えてくれると言う事の有り難さを改めて感じている。
「ハハハ。」
しかし、ガサツな笑い方をする人だ。
「私も良いかしら?」
ガザルさんと語り合っていると黒髪の長い女性が話しかけてきた。
「ミハルさん。
宜しいですか?」
ルナ先輩と現れた女性のミハルさんと話し合っている。
「ミハルか。
お前も暇なのか?」
ミハルさんは武器に杖を持っていると言う事は魔法使いか魔導士、もしくは召喚士などの魔法を専門とするジョブである事は間違いない。
見た感じ良い装備を使っているので、ガザルさん同様ベテラン冒険者だろう。
2人は顔見知りの様だ。
「新人冒険者さんでしょ。
見たところかなりの魔力だし。
死なせるには勿体ないからね。
ガザルが居るならクエストも問題無く完了出来そうだし。」
私の魔力を感じ取っている様で、私に近づくと身体をじっくりと見ている。
「トモミ・キサラギと言います。
よろしくお願いします。」
研修の時も言われたが、先ずは挨拶だ。
挨拶もしっかり出来ない人を信頼してくれる筈もないだろうから。
「それにしても魔力がダダ漏れじゃない。
もう少しコントロールした方が良いわよ。
身体の中に魔力の球体をイメージしてその中に凝縮するの。
やってみて。
そんなにダダ漏れじゃ、魔物達が刺激されてクエストどころじゃ良いからね。」
「はい。」
魔力をコントロールする。
そんな事が必要だとは知らなかった。
やはりベテラン冒険者は凄い。
教えられることばかりだ。
身体の中に球体をイメージ………。
そして、その中に魔力を凝縮………。
こんな感じかしら。
「うん。
良い感じよ。
コントロール出来てる。
凄いじゃない。
最初は聴いただけで出来ないよ。
………、魔導の極みスキルがあるのね。
それも匠とはね。
魔力のコントロール系のスキルと詠唱無しで魔法使えるし、だからコツさえ掴めばもっと凄いことも出来るけど。
また良かったら魔法の使い方教えるから、遠慮なく言いなさい。」
どうやら鑑定スキルを持っている様だ。
私のステータスを見る事ができる様だ。
それに、もっと凄いこと。
気になるワードが出てきた。
魔法は学びたい。
「はい。
是非お願い致します。」
深々と頭を下げた。
「しかし、可愛らしいお嬢ちゃんね。
ガザル?
もしかして、この子が可愛らしいお嬢ちゃんだから、一緒に行ってやるとか言ったんじゃないでしょうね?」
可愛らしいなんて照れますね。
「はぁ?
そんな訳あるか!」
2人は顔見知りで仲がとても良い様だ。
私も冒険者仲間を沢山作りたい。
「ガザルさんもミハルさんも
ありがとうございます。
私もお2人に会えて、沢山冒険者の仲間作りたいと思っちゃいました。」
良い事ばかりある訳ではないかもしれない。
冒険者は常に危険と隣り合わせの仕事。
アドバイザーとしては、危険がない様にクエストをして貰うのが仕事だけど。
冒険者は命懸けの仕事だ。
仲間との絆や信頼がクエストの成功を左右する。
私も早くこの2人から信頼される冒険者に成らなければと身が引き締まる想いだ。
「改めて、俺はガザル。
ジョブは戦士で戦斧を使う。
レベルは81でSランクだ。
よろしく頼む。」
「私はミハル。
ジョブは上位魔導士よ。
攻撃魔法から結界や回復も少々、ステータス向上なんかも使えるわ。
レベルは80でSランクよ。
よろしくね。」
やはりパーティーになるには自己紹介は大切な事だ。
どちらもSランクとは心強い。
「私はトモミ・キサラギです。
ジョブは覚醒聖女でスキルのお陰で武器は一通り使えるそうです。
武器屋のナタリさんの勧めで魔法剣を使おうと思ってます。
レベルは♾(アンフィニ)でSSSランクです。
よろしくお願いします。」
改めて自己紹介となると少し照れくさい。
「覚醒聖女がジョブとは、そんな奴初めてだな。」
「私も覚醒聖女なんてジョブは初めてね。
初心者でSSSランクも初めてですけどね。」
2人には私に対して驚く所が多かった様だ。
だが、流石はベテラン冒険者、スキルやレベルを聞いてもそれ程驚いている様子はない。
恐らく冒険者の優劣はレベルやスキルでは決まらない。
「クエスト受注完了しました。
ガザルさん、ミハルさん。
行きますよ。」
ルナ先輩からクエストを受注すると初のパーティーによるクエストを開始する。